ピッチャーの肘の怪我は大きな問題となっており、ピッチング時のフォーム修正や肩甲骨まわりのストレッチなどがよく行われていると思います。
それ以外にも前腕の筋肉を鍛えることも肘の痛みを防ぐために役に立つ可能性があります。
ポイント
- 前腕の筋肉を鍛えることで肘の靭帯の負荷を軽減させる可能性があります
- 前腕の筋肉は肘の関節のゆるみを軽減する働きがあります
- 筋肉が力を発揮する方向が肘の靭帯に似ているものもあります
前腕の筋肉は肘の靭帯の負荷を軽減する
前腕の筋肉を鍛えることで肘の靭帯の負荷を軽減させる働きがあります
献体を利用して各筋肉の役割を調べた研究があり、筋肉の機能を再現して各筋肉がどれくらい肘の靭帯の負荷を軽減できているのかを調べています。
(Park and Ahmad 2004より引用)
その結果、肘の内側の筋肉の中で特に手首の屈筋群が肘の靭帯の負荷を軽減する効果が高かったようです1。
前腕の筋肉と肘の関節のスペース
前腕の筋肉は肘の関節のゆるみを軽減し、肘を安定させる働きがあります。
(Tajika et al 2020より引用)
肘の内側の屈筋群に力が入っている状態のほうが肘の関節のスペースが小さくなっていたことが報告されています2。
このことから前腕の筋肉は肘の関節の緩みを解消して肘が安定し、肘の靭帯への負荷が少なくできると考えられます。
筋肉の位置が靭帯とよく似ている?
なぜこのように肘の内側の屈筋群が靭帯を守る働きがあるのかというと、これらの筋肉が付着している部分や方向が肘の靭帯に似ていることがひとつの理由として考えられます3。
(Frangiamore et al 2018より引用)
つまり、これらの筋肉を鍛えることで肘の靭帯の働きを助け、肘への負荷を軽減する可能性があります。
肘を痛めたピッチャーの前腕の筋肉
実際に肘を痛めているピッチャーは前腕の筋肉をうまく使えていない傾向にあります。
このことからも前腕の筋肉の働きが肘の負担を和らげる働きがあることが読み取れるかと思います。
筋肉の硬さと肘の負担について
投球数が増えたり、腕を酷使すると前腕の筋肉が硬くなっていきます。
本来ならば筋力を高めて肘の負担を減らしたいのですが、筋力不足の場合には肘の筋肉を固めることで筋力を補おうとすることがあります。
筋肉が硬いことで防御反応として肘の負荷を軽減できる可能性がありますが、筋肉が硬すぎるとピッチングフォームに乱れが生じたりと何かと不都合も生じることがあります。
このため前腕の筋肉の硬さはマッサージや整体施術などでしっかりとほぐし、その上で前腕の筋肉を鍛えることが大事になってきます。
まとめ
前腕の筋肉が靭帯への負荷を減らす役割があり、前腕を鍛えることで野球選手の肘の怪我を防ぐ可能性があります。
<参考文献>
Park MC, Ahmad CS. Dynamic contributions of the flexor-pronator mass to elbow valgus stability. J Bone Joint Surg Am. 2004;86-A(10):2268-2274.
Tajika T, Oya N, Ichinose T, et al. Flexor pronator muscles’ contribution to elbow joint valgus stability: ultrasonographic analysis in high school pitchers with and without symptoms. JSES International. 2020;4(1):9-14.
Frangiamore SJ, Moatshe G, Kruckeberg BM, et al. Qualitative and Quantitative Analyses of the Dynamic and Static Stabilizers of the Medial Elbow: An Anatomic Study. Am J Sports Med. 2018;46(3):687-694