ランナーの疲労骨折は長期離脱を余儀なくされるため、休んでいる間にも走力やコンディションがどんどん落ちていくため、とても嫌な怪我であると言えます。
ランナーの疲労骨折は走り過ぎ以外の部分にも原因が隠されていることがあり、普段の何気ない行動が疲労骨折の原因を生み出していることが多々あります。
疲労骨折とは?
疲労骨折はランニングによる繰り返しの負荷でダメージが蓄積して引き起こされますが、痛みなどの症状が出始めた時には既に重症化していることが珍しくありません。
疲労骨折がある場合には休養することが大事ですが、回復までの期間が長くなりやすく、長期離脱を余儀なくされることが多々あります。
ランナーの場合には足部の疲労骨折や脛骨の疲労骨折が多く、大腿骨の疲労骨折なども時折みられます。
疲労骨折の疑いがある場合には整形外科を受診することが大切です。
ランナーの疲労骨折の原因
痛みの有無による判断誤り
疲労骨折の難しいところは走ろうと思えば走れることができる点で、初期症状や治りかけの時に練習をしてしまうことが珍しくありません。
そんなに痛みがないから大丈夫だ、という考えでランニングをすると泥沼にハマってしまうことが多々あります。
痛みの有無ではなく骨が回復しているかどうか、十分な休みを取れているか?という点で考えることがポイントになります。
ランニングフォーム
ランニングフォーム次第で骨の負荷に違いが生まれ、特につま先着地でのランニングフォームは疲労骨折のリスクが高まることが報告されています。
足裏全体で体重を分散することで骨へのダメージを減らすことができるのですが、フォアフット着地ではつま先付近に体重がかかりやすいため骨のダメージが蓄積しやすいと言えます。
フォアフット走法は怪我のリスクを高めるのか?
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不適切なシューズ
ランニングシューズも種類によっては疲労骨折のリスクが高まります。
例えば踵が高いシューズはつま先や中足骨への負荷がかかりやすく、繰り返しのランニングでダメージが蓄積して疲労骨折へとつながりやすいと言えます。
他にもアスファルトなどの硬い路面を走っている場合には着地衝撃が大きくなってしまうため、クッション性の弱いランニングシューズでアスファルトを走るのは注意が必要です。
特にスピードが出やすいランニングシューズはクッション性が弱いため、そういったシューズで走行距離が増えてしまうと疲労骨折のリスクが高まります。
クッション性の高いシューズであったとしても走行距離が増えてくるとクッション性能が落ちてくるので、骨へのダメージが徐々に大きくなってくるので注意が必要です。
また、走り込んでいるうちにシューズが変形してしまい、体重がうまく分散されずに一箇所に集中してしまうと着地衝撃によって骨へのダメージが知らず知らずのうちに大きくなることがあります。
カロリー不足
カルシウムが骨の強さと関係している印象が強いかもしれませんが、ランナーが一番注意しなくてはいけないのは十分なカロリーを摂取することです。
実際に疲労骨折を発症した人は炭水化物の摂取が少なく、カロリー摂取量も少ない傾向にあることが報告されています2〜4。
ランナーは走行距離が多くなることが珍しくなく、カロリー消費も激しいので骨に十分な栄養が行き渡らないことが多々あります。
体重が軽い方がマラソンのタイムが良くなるなど、カロリー制限を課してしまうランナーは疲労骨折のリスクが高いと言えます。
もちろんカルシウムやビタミンDなどのビタミン・ミネラルの摂取不足が疲労骨折に関係しているので十分な量を摂取することが大切です5・6。
が、カルシウムよりもカロリー制限や痩せすぎといった問題の方が重要だったりします。
睡眠不足
睡眠不足、心理的なストレスなどによるホルモンのバランスの乱れなども骨の生成に影響を及ぼし、疲労骨折につながることが報告されています7。
日々の生活習慣が練習でダメージを負った骨の回復に影響しているため、生活習慣や思考をいい方向に変えていくことも疲労骨折の予防につながる可能性があります。
理想的な睡眠時間は個人差がありますが、睡眠時間が7時間未満の場合には注意が必要です。
疲労骨折の対処方法
休養
疲労骨折がある場合には十分な休養を確保することが重要であり、痛みがなくなったからとすぐにランニングを再開することは痛みが再発してしまうリスクがあります8。
まずは完全に痛みがなくなるまで休養を取り、そこから数日経過してから徐々にランニングを再開していくことが大切です。
ランニングに復帰する場合にもいきなり長距離を走るのではなく、最初は1日に100m、200m、400mと少ない距離を走って痛みがないことを確認しながら徐々に距離を伸ばしていくことで痛みが悪化してしまうことを防ぎやすくなります。
疲労骨折の再発予防には我慢することが極めて大切で、走りたいという気持ちに流されずに冷静な判断をすることが求められます。
ランニングシューズ
ランニングでの疲労骨折に対してインソールでシューズを調整することが役立つ可能性があり、足部の疲労骨折に対してはクッションシューズを取り入れることでランニング時の衝撃を減らすことができます9。
特にジョグ用のクッションシューズは衝撃吸収の性能が高く、疲労骨折のリスクを防ぎやすいと言えます。
クッション性の薄いシューズで骨を強化していくという考え方もあるかもしれませんが、クッション性の高いシューズを履いて走行距離を増やしていく方が疲労骨折のリスクを減らしながら丈夫な身体を作りやすいと言えます。
また、走り込んでいるとシューズが変形していくため数ヶ月に1度はシューズを買い替えた方が無難であると思います。
足部のトレーニング
骨も刺激に応じて強くなる性質があり、ウェイトトレーニングなどに取り組むことによって骨が強くなり、疲労骨折のリスクを下げることができます12。
とはいえウェイトトレーニングは負荷が大きすぎるので、疲労骨折が完治した状態、疲労骨折がない状態で予防のためにウェイトトレーニングを取り入れることがポイントになります。
疲労骨折を抱えて体重をかけることができない期間には足部のトレーニングを行うことが大事で、痛みを悪化させるリスクを減らしながら疲労骨折への耐性を強化することができます。
実際に足部や足首のトレーニングで筋肉を鍛えることも疲労骨折を防ぐのに役立つことが報告されています10。
カロリーの十分な摂取
疲労骨折を防ぐためには十分な栄養を摂取することが大事ですが、まずは必要なカロリーを摂取することの優先度が高いと言えます。
長距離のランニングでは多くのカロリーを消費してしまうため、それを補うように十分なカロリーを摂取することが大事です。
長距離ランナーの場合には低体重のほうが記録向上に有利に働くという側面もあるので、減量をする場合には急激に体重を減らすのではなく1ヶ月に1kgなどゆっくりしたペースで体重を落とすことが疲労骨折などの障害を防ぐポイントです。
カルシウムやビタミンDなどを摂取することも重要ですが、長距離ランナーの場合にはランニングの量が多いため通常よりも多くのカルシウムが必要になってきます。
サプリメントだけでは簡単に補えない栄養が必要となる場合も珍しくないので、しっかりと牛乳を飲むということも必要になってくるかと思います。
疲労骨折の事例
マラソンの東京オリンピック日本代表の服部勇馬選手の疲労骨折の事例です。
2017年に東京マラソン後に疲労骨折で約5ヶ月間の休養13、2023年のパリオリンピック選考の時期には両脚の疲労骨折も起こしています。
五輪以降はケガに苦しみ続けてきた。5月のプラハマラソン以降はレースから遠ざかったが、実は「両股関節を疲労骨折していて、4ヵ月走れませんでした」
服部勇馬選手の疲労骨折の原因はわかりませんが、少なくとも両脚の疲労骨折をしていた時期のインタビュー動画では顔が痩せこけていることが確認できます。
食事制限をしているのかはわかりません。走行距離を増やすようなトレーニングをしている時期でもあるようなので、練習でのカロリー消費が増えているのかもしれません。
少なくとも東京オリンピックや大学時代など、調子が良かった時期は顔がここまで痩せていない印象です。
マラソンランナーは低体重の方が速く走りやすい競技ではありますが、低体重は様々な問題を引き起こすことがあります。
もし、カロリーをもっと摂取していたら疲労骨折は防げたのではないか?そんなことを考えてしまう事例です。
まとめ
疲労骨折は繰り返しのランニングで骨に微細な損傷が蓄積されて引き起こされ、走行距離が多すぎたり、筋力不足や栄養不足などが疲労骨折のリスクを高めます。
疲労骨折を防ぐためには適度な休養、シューズの調整や栄養補給、足部のトレーニングなどが役立ちます。
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- トヨタタイムズ https://toyotatimes.jp/spotlights/0007.html