怪我や痛みなどでランニングを休んでしまうとパフォーマンスが低下していくことが心配になり、焦って無理に練習を続けたくなってしまうことがあるかと思います。
この記事では休養によるランニングパフォーマンスの低下について、科学的根拠を交えて解説していきたいと思います。
休養期間とパフォーマンス低下
1週間の休養
基本的に1週間の休養では目立ったパフォーマンスの低下は起こらないと言われています1。
風邪やちょっとした痛みがある場合には、休養を取ることをためらう必要はありません。
私自身の経験では1週間の休みで疲労が抜けて自己ベストを出せたこともあり、大会に向けてコンディションを整える期間として機能することもあると思います。
しかし、1週間の休養で自己ベストを更新できることのほうが少なく、疲労を抜くにはちょうどいい期間といった感じです。
2週間の休養
2週間ほどの休養となるとパフォーマンス低下が起こり、最大酸素摂取量が約4%減少することが報告されています2・3。
そして、2週間の休養によるパフォーマンス低下を取り戻すには2週間くらいのトレーニングが必要であることが報告されています4。
これはあくまで私自身の経験に過ぎませんが、2週間ほどランニングを休養した時は5000mタイムトライアルでのパフォーマンスが約5%ほど減少しましたが、トレーニングを再開してから2週間ほどで以前のパフォーマンスを取り戻すことができています。
休養によるパフォーマンス低下には個人差がありますが、研究データなどを踏まえると2週間ほどの休養ならばそこまで大きなコンディション低下はなく、無理をするくらいなら休養することが大事です。
1ヶ月の休養
1か月の休養を取らないといけない状況はそこそこ大きな怪我であり、大きなパフォーマンス低下が起こります。
4週間の休養で最大酸素摂取量が約14%減少することが報告されており5、別の研究では4週間の休養で最大酸素摂取量が約20%ほど減少することが報告されています6。
1か月の休養からパフォーマンスを取り戻すのに必要な期間を調べた研究を見つけることはできませんでしたが、
以下に述べる数か月の休養に関する研究データが大いに参考になるでしょう。
数ヶ月の休養
数か月という長期離脱をしてしまうとかなり大幅なパフォーマンス低下が起こります。
- 競技ランナーおよびサイクリストを対象にした研究では8週間の休養で最大酸素摂取量が約15%低下し、12週間の休養で最大酸素摂取量が約18%低下していることが報告されています7。
- マスターズのサイクリング選手が怪我で11週間運動できなかった事例では最大酸素摂取量が25%低下していたことが報告されています8。
- オリンピック選手の事例では20週間の休養により最大酸素摂取量が20%低下したことが報告されています9。
これだけ大きいパフォーマンスの低下が起こると大きなショックを受けることかと思いますが、しっかりとトレーニングを行うことで以前のパフォーマンスを取り戻せる可能性は十分にあります。
- オリンピックのボート選手の事例では20週間の休養から、20週間のトレーニングによって以前の約96%のパフォーマンスを取り戻しています9。
- マスターズのトライアスロン選手では3ヶ月トレーニングを休み、3か月で以前のパフォーマンスを取り戻していることが報告されています10。
- 高校生の陸上選手が怪我で2ヶ月半の休養した事例では、パフォーマンスがどのくらい落ちたのかは不明ですが、3000m走のパフォーマンスを99%に取り戻すのに2ヶ月かかっています11。
これらは成功事例であり、ジムでのワークアウトやクロストレーニングができていたことなどが早い段階でパフォーマンスを取り戻すことができた要因であると考えられます。
こういった事例から考えられるのは、パフォーマンスを取り戻すのに必要な時間は休んだ期間の約1〜2倍であり、どのように休養を過ごすかも大事になってきます。
クロストレーニングによる効果
一般的に怪我の休養期間にプールや自転車などのクロストレーニングを実施することで、コンディションを維持しやすくなるということが言われています。
例えば自転車のトレーニングはランニングのパフォーマンスを高める可能性がありますが、ランニングの練習ほど高い効果があるわけではありません12。
水泳は心肺機能の向上の効果があり、比較的負荷が小さいため初期段階でのリハビリに役立ちますが、ランニングとは異なる筋力や動作によってランニングパフォーマンス向上は極めて限定的であることが報告されています13。
やはりランナーにとっての最高のトレーニングはランニングであり、自転車などのトレーニングには限界があります。
クロストレーニングはあくまでパフォーマンス低下を緩やかにするためのものという位置づけが無難です。
クロストレーニングもやり過ぎてしまうと痛みが悪化したり、怪我が長引く可能性もあるので注意が必要です。
特に、ランニングの代わりにクロストレーニングに依存してしまうことは大きなリスクがあります。
怪我が悪化しない程度にトレーニングの負荷や時間、頻度を調節することが大事になります。
休養を取るタイミング
怪我による離脱
上述したように怪我で2週間以上の離脱が発生すると、パフォーマンスを取り戻すのに同じか、それ以上の期間が必要になってきます。
このため怪我による長期離脱をいかに防ぐかが大事なポイントになります。
大きな怪我ほどその代償が高くついてしまうので、痛みが軽いうちに休むことで被害を最小限に留めやすいと言えます。
痛みや違和感があるのに誤魔化しながらランニングを続けると、数か月レベルの長期離脱につながり、コンディションを取り戻す期間を含めると半年から1年近くの時間を費やしてしまう可能性があります。
大会直前の怪我
数週間の休みならばコンディションを取り戻すのは比較的簡単ではありますが、大会直前に練習を休んでしまうとベストコンディションで大会に臨めなくなってしまう可能性があります。
大会直前に怪我や痛みが発生してしまった場合には、痛みを悪化させてしまうリスクを考えると無理をしないことが大事です。
どうしても避けられない重要な大会を控えている場合には無理をしたくなる気持ちがあるかもしれませんが、これは非常に悩ましい状況です。
重要な大会直前に怪我をしてしまった場合には、ベストコンディションに仕上げるような練習は継続できなくなってしまうため、そもそも最高の状態に整えるという選択肢は不可能に近いと言えます。
このため痛みを悪化させないような最小限のトレーニングに留めておき、いかにコンディション低下を抑えることを考えることが現実的です。
「このくらいなら大丈夫だろう」と希望的観測で練習を継続するよりも、大会に出場できないほど痛みを悪化させてしまうリスクを避けた方が賢明です。
シーズン後の長期休養
一般的に大会終了後やシーズン終了後にまとまった休みを取ることがあります。
オフシーズンもトレーニングをしたほうがいいという意見もあるかと思いますが、数週間の休みならばそこまで大きなパフォーマンスの低下はありません。
オフシーズンに休むことで蓄積したダメージの回復や慢性的な疲労を取り除き、怪我やオーバートレーニングの予防にもなり、結果的にパフォーマンス向上につながることもあります。
ランニングのダメージは数ヶ月後にやってくる
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最低限のトレーニングを継続するだけでも休養によるパフォーマンスの低下を半減させることができるため、完全休養ではなくアクティブレストが望ましい状況もあると思います。
また、完全休養するよりも最小限のトレーニングを継続した方が怪我の発生率が低いといった研究結果も報告されています14。
が、無理をしすぎては逆効果になってしまうリスクはつきまとうため、絶対的な正解はなく、キャパシティを見極めることが重要になります。
走りながら治すことについて
競技ランナーとしてランニングに取り組んでいる場合には走りながら治すという選択をすることがあるかもしれません。
重要な大会などを控えていたり、メンバーとして生き残るために走り続けなければいけないという状況に置かれることもあるかもしれません。
しかし、完治させないといずれ壁にぶち当たってタイムが伸びなくなる可能性を忘れてはいけません。
走りながら治すという選択は目先の大会でのパフォーマンス維持につながるかもしれませんが、長期的な視点では怪我によって練習ができずにパフォーマンスを落としてしまうリスクを抱えています。
怪我を抱えた状態でのランニングや過去の怪我は、さらなる怪我のリスクにつながりますし15、ランニングフォームなどの乱れにもつながります。
そして、怪我に対する不安やプレッシャーを抱えた状態ではランニングへの情熱を失ってしまう可能性もあります。
より高いパフォーマンスを得たいと思うのならば、走りながら治すことより、きっちりと怪我を完治させることが大切ではないでしょうか。
ランナー膝が治らない場合に考えられる原因
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まとめ
長期離脱になるほど休養によるパフォーマンスの低下が大きくなっていき、コンディションを取り戻すためにより多くの時間が必要になります。
怪我の早期段階での適切な休養は長期的なパフォーマンス維持・向上に不可欠であり、無理な練習は怪我を悪化させ、回復を遅らせるだけでなく、精神的な負担も大きくなります。
身体の声に耳を傾け、適切な休養とリハビリを行うことで重要です。
<参考文献>
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