テニスの手首の痛みの種類
テニスによる手首の痛みはその原因や症状によっていくつかの種類に分けられ、主なものとしては以下のものが挙げられます。
手首の捻挫は靭帯が転倒時に手をつくなど急な外力によって損傷した状態です。
腱鞘炎は繰り返しの動作や負荷によって腱を覆う腱鞘という部分に炎症を起こした状態です。
手根管症候群は手首にある「手根管」を通る正中神経が圧迫されることで指先のしびれや痛み、進行すると握力の低下などが起こります。
TFCC損傷は手首の安定性に関わる軟骨組織であるTFCCが、衝撃や繰り返しの負荷によって損傷するものです。テニス選手の小指側の手首の痛みはTFCC損傷が最も多いと言われており1、手首を回す際の痛みや不安定感、クリック音などが起こります。
疲労骨折テニス選手は手首付近の疲労骨折がたまに起こることがあります2。
このように手首の痛みは様々なものがあり、テニスをプレーすることが困難な場合には専門家の診断を受けることが大事です。
テニスの手首の痛みの原因
手首の動き
スイングにおいて手首の動きが大きいと手首に負荷がかかりやすく、手首のスナップに頼った打ち方やインパクトの瞬間に手首が曲がっていると手首にダメージが蓄積しやすくなります。
手首を曲げないニュートラルなポジションのほうがダメージを受けにくくなり、痛みの予防につながります3。
グリップの握り方
テニスラケットのグリップの握り方も手首の痛みに関係していることがあります。
イースタングリップでは親指側の手首を痛めやすく、ウェスタングリップでは小指側の手首を痛めやすい傾向にあることが報告されています4。
(Daher et al 2024)
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筋力不足
手首周りの筋力不足があるとバランスが乱れ、テニスで手首のダメージが蓄積されやすくなります。
手首の筋肉を意図的に鍛えることは少ないため、手首の筋肉が偏っていることが珍しくありません。
例えば腱鞘炎の場合には手首の伸筋群の筋肉が大きく発達し、手首の屈筋群の筋肉が弱いことが多々あります5。
また、指の筋力の弱さがテニスでの手首の痛みに関係していることがあり、親指の筋肉が弱かったり、小指の筋肉が弱かったりすることがあります。
指の筋肉が弱いとラケットのグリップが不安定になってしまい、ラケットで打つときに手首に負担がかかりやすくなります。
柔軟性の低下
手首を動かす筋肉の多くは前腕にありますが、こういった筋肉が硬いと手首の動きが悪くなってしまうことがあります。
こういった部分の筋肉の硬さは自覚しにくく、あまりケアしていないことが珍しくありません。
過剰な運動量
テニスでの手首の痛みは過剰な運動による慢性的なダメージの蓄積が関係していることが多々あります。
いつもより練習時間が長くなった、練習の強度が高くなった、普段と違う練習メニューを取り入れた、テニスを始めたばかりの初心者など、慣れてい練習をたくさんすると痛みを引き起こしやすくなります。
また、休養をほとんど取っていないなど身体が回復する時間がないことも怪我の原因になります。
手首のクリック音、痛み、炎症、可動域の減少などは早期発見するための大事なサインであり6、早めの休養は痛みの悪化を防ぎ、回復が早まります。
テニスの手首の痛みの改善方法
休養
手首の痛みの改善には十分な休養を取ることが大切です。
手首の痛みは甘く考えてしまいがちであるため、十分な休養を取らないことで怪我が悪化し、長い休養期間が必要になることがあります。
テーピング
テニスの手首の痛みの予防・改善にはテーピングが役立ちます。
手首周りにテーピングを巻いて手首の動きをある程度制限しつつ、手首の安定性を高めるような巻き方が基本になり、必要に応じて酷使している筋肉を補うようなテーピングも加えていきます。
怪我の種類や身体の状態によって最適なテーピング方法が違うため、必要に応じて専門家に相談することが大事になります。
サポーター
手首周りのサポーターも手首の痛みの予防・改善に役立ちます。
基本的には手首周りをガッチリ支えるように覆うサポーターが手首の痛みに対して効果的です。
サポーターのメリットは装着が簡単であり、繰り返し使用することができる点ですが、デメリットとしては手首の繊細な動きに合わせて調整することが難しいという点です。
湿布(消炎鎮痛剤)
テニスでの手首の痛みに湿布は効果的ですか?という質問を受けることがあります。
湿布には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの消炎鎮痛成分が含まれていることが多く、一時的な痛みの緩和や炎症を抑える効果が期待できます。
ただし、湿布はあくまで対症療法であり、痛みの根本的な解決をしているわけではありません。
痛みが出始めた初期段階での消炎鎮痛剤の使用は怪我の回復を遅らせるという研究結果もあるため7、湿布に頼り過ぎてしまうのはよくありません。
特に問題なのが湿布を貼ってテニスを続けるという選択であり、鎮痛成分によって本来の痛みを感じにくい状態でプレーをすると怪我が悪化してしまうリスクがあります。
ストレッチ
手首のストレッチは柔軟性を高めるのに役立ち、手首を曲げることで前腕の筋肉を伸ばるようにストレッチしていきます。
ストレッチをする際には痛みのない範囲内で行うことが重要であり、特に痛みが出始めている急性期間にはストレッチのやり過ぎには注意が必要です。
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マッサージ
前腕の筋肉をマッサージでほぐすことは手首の痛みの改善に役立ち、ストレッチだけではほぐせない筋肉を緩めることができます。
前腕の筋肉は意外とほぐしにくいことがあるため、マッサージ器具などを使うと効率的にほぐしやすくなります。
また、手の平や手の甲などもマッサージでほぐしておくことで手首の動きがスムーズになります。
トレーニング
手首の痛みを改善するためには手首周りの筋肉をトレーニングで鍛えることが役立ちます。
痛みが出るようなエクササイズは逆効果になる可能性があるため、痛みや違和感の出ない範囲で軽いエクササイズから徐々に始めていくことが大事なポイントです。
手首のエクササイズに加えて指先のエクササイズも手首の痛みの改善に役立ちます。
手首を痛めている人は指を回すような動きが悪いことが多く、指を1本ずつ大きく回すような動きのエクササイズが役に立ちます。
手首や指の動きに様々なバリエーションを加えることで、より効果的に手首の痛みを減らすことができます。
まとめ
テニス選手の手首の痛みは手首に頼った打ち方、手首の角度、グリップ、手首や指の筋力、柔軟性の低下などが原因になります。
痛みの改善には休養、テーピング、サポーター、ストレッチやマッサージ、手首周りのトレーニングが役立ちます。
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