ピッチング時の肘の高さが重要であるということを耳にすることがあるかと思います。
例えば肘が下がっているとパフォーマンスが悪くなるといったことが言われているかと思います。では、肘の高さと怪我のリスクにはどのような関係があるのでしょうか?
ポイント
- 統計上は肘の高さと怪我の発生率にはそこまで関係はないようです
- サイドスローが肘の負荷を高めるかは議論が分かれています
- 体幹部の傾きなども肘の高さに影響を及ぼし、ひとつの要素だけで怪我のリスクは判断できないようです
ピッチング時の肘の高さによる負荷の違い
肘の高さが注目されることが多いですが、ある程度の自由度があってもいいのかもしれません。
(Whiteley et al 2007より引用)
どのくらいの肘の高さが理想的と言えるのでしょうか?いくつかの研究を見てみましょう。
(Matsuo and Fleisig 2006より引用)
- ピッチング時の肘の高さと肘の負荷の関係においては、重要な違いはみられなかったという研究結果があります2。
- 別の研究においても肘の高さよりも他の要素のほうが肘の負荷へ与える影響が大きいということが報告されています3。
極端に腕が上がったり、あるいは腕が下がったりする場合には怪我のリスクになり得ますが、通常の範囲内であればそこまで肘の負荷に大きな差はないのかもしれません。
一方で、肘の高さはピッチングの球速やパフォーマンスに影響すると言われています。肘の負荷にそこまで大きな違いがないということから肘の高さにはある程度の自由度があり、パフォーマンスを発揮しやすいものを選択すればいいのではないかと思います。
サイドスローが怪我のリスクになる?
サイドスローに関してはまだまだ議論があるようです。
- ピッチング動作を解析したところサイドスローは肘への負担が大きいという研究結果があります4。
- 何十年も前の研究ですがサイドスローのジュニア世代のピッチャーは怪我をしやすい傾向があるということが報告されています5。
- その一方でサイドスローのほうが肘の負荷が小さくなるという研究結果もあります6。
- 腕を上げ過ぎると肘への負担が大きくなるという考え方もあります7。
このように肘の高さが決定的な要因となるわけではなく、他の要素が複合的に絡んでいるのかもしれません。そのため、サイドスローの怪我のリスクに関して現時点でのスポーツ医学の研究では明確な答えを出しにくいかもしれません。
変化球を投げることが肘の怪我につながるのか?
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体幹部の傾きも肘に影響を及ぼすかもしれない
ピッチング時に体幹部が傾きすぎると肘の負荷につながる可能性があります。
次の図のように体幹部の傾きは肘の高さに影響を及ぼす可能性があります。身体を傾けることで、より高い位置から腕を振ろうとする動作もしばしば見られるかと思います。
(Solomito et al 2015より引用)
多少の傾きならばともかく、体幹部を傾け過ぎることは肘への負担が増す傾向にあることが報告されています8。
このため肩周りの可動域を確保して腕が上がるようにし、体幹周りもしっかりと鍛え、体幹部を無理に傾けるような投球動作は改善していったほうがいいのかもしれません。
まとめ
肘の高さは極端なものでなければ怪我のリスクに大きな違いはないのかもしれません。パフォーマンスを発揮しやすいかどうかで選択し、ある程度は自由に選んでも問題ないのかもしれません。
<参考文献>
Whiteley R. Baseball Throwing Mechanics as They Relate to Pathology and Performance - A Review. J Sports Sci Med. 2007;6(1):1-20.
Matsuo T, Fleisig GS. Influence of shoulder abduction and lateral trunk tilt on peak elbow varus torque for college baseball pitchers during simulated pitching. J Appl Biomech. 2006;22(2):93-102.
Sabick MB, Torry MR, Lawton RL, Hawkins RJ. Valgus torque in youth baseball pitchers: A biomechanical study. J Shoulder Elbow Surg. 2004;13(3):349-355.
Aguinaldo AL, Chambers H. Correlation of Throwing Mechanics With Elbow Valgus Load in Adult Baseball Pitchers. The American Journal of Sports Medicine. 2009;37(10):2043-2048.
Albright JA, Jokl P, Shaw R, Albright JP. Clinical study of baseball pitchers: correlation of injury to the throwing arm with method of delivery. Am J Sports Med. 1978;6(1):15-21.
Escamilla RF, Slowik JS, Diffendaffer AZ, Fleisig GS. Differences Among Overhand, 3-Quarter, and Sidearm Pitching Biomechanics in Professional Baseball Players. Journal of Applied Biomechanics. 2018;34(5):377-385.
Werner SL, Murray TA, Hawkins RJ, Gill TJ. Relationship between throwing mechanics and elbow valgus in professional baseball pitchers. J Shoulder Elbow Surg. 2002;11(2):151-155.
Solomito MJ, Garibay EJ, Woods JR, Õunpuu S, Nissen CW. Lateral Trunk Lean in Pitchers Affects Both Ball Velocity and Upper Extremity Joint Moments. Am J Sports Med. 2015;43(5):1235-1240.