肘の痛み

ピッチング時の肘の高さと怪我の関係性について

2020年7月15日

 

投球動作

ピッチング時の肘の高さが重要であるということを耳にすることがあり、例えば肘が下がっているとパフォーマンスが悪くなる、怪我をしやすいといったことが言われているかと思います。

果たして肘の高さはピッチャーの怪我のリスクや投球パフォーマンにどのような影響を及ぼすのか、科学的根拠を交えて説明していきたいと思います。

 

ピッチング時の肘の高さと肘の負荷

ピッチング時にはどのくらいの肘の高さが理想的と言えるのでしょうか?いくつかの研究を見てみましょう。

  • ピッチング時の肘の高さと肘の負荷の関係においては、重要な違いはみられなかったという研究結果があります
  • 別の研究においても肘の高さよりも他の要素のほうが肘の負荷へ与える影響が大きいということが報告されています

ピッチング時の肘の高さの分析

(Whiteley et al 2007より引用)

極端に偏った投球フォームならば変な負荷がかかってしまう可能性もあるかもしれませんが、基本的に肘の高さはそこまで肘の負荷に大きな影響はないのかもしれません。

 

体幹部の傾きによる肘の高さの影響

ピッチング時に体幹部が傾きすぎる場合にも投球時に肘が高くなりますが、これは肘の負荷につながる可能性があります。

次の図のように身体を傾けることで、より高い位置から腕を振ろうとする動作もしばしば見られるかと思います。

体幹部の傾きと肩の外転の影響

(Solomito et al 2015より引用)

多少の傾きならばともかく、体幹部を傾け過ぎることは肘への負担が増すことが報告されています7ー9

体幹部を傾けてしまうと腕が身体から大きく外に離れてしまうため、てこの原理によって肘の負荷が増大してしまうと考えられます。

 

そして、体幹部を傾けてしまう理由にはいくつかの可能性が考えられますが、まずは肩の柔軟性が足りないから体幹部分を傾けて柔軟性を補っている場合です。

このためストレッチやマッサージなどで肩周りの可動域を確保して腕が上がるようにすることが大事になります。

 

また、体幹部の筋力が弱いことが投球時の体幹部の傾きになっている可能性もあります。

この場合には体幹のトレーニングを行って体幹の安定性を高めることがポイントであり、肘の高さだけを調整しても思うような効果が得られない可能性があります。

このように肘の高さだけを見て「肘が低いから肘の高さを修正する」というアプローチでは限界があります。

 

サイドスローと怪我のリスク

肘の高さがピッチングに影響を及ぼすという議論がありますが、サイドスローに関する投球動作の研究を見ていきましょう。

  • ピッチング動作を解析したところサイドスローは肘への負担が大きいという研究結果があります
  • 何十年も前の研究ですがサイドスローのジュニア世代のピッチャーは怪我をしやすい傾向があるということが報告されています
  • 一方でサイドスローのほうが肘の負荷が小さくなるという研究結果もありますが、この場合には肩の負担が大きくなるという結果にもなっていますサイドスロー

サイドスローの怪我のリスクに関して肘や肩の負荷が変化する可能性が考えられていますが、現時点でのスポーツ医学の研究では決定的な怪我の要因であるとまでは言えないかと思います。

サイドスローの中でも様々な投球フォームがあり、他の要因が複合的に絡んでいるため、サイドスローだけで一括りに判断することが難しいかと思います。

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ピッチング時の肘の高さと投球パフォーマンス

肘の高さはピッチングのパフォーマンスに影響すると言われることがありますが、科学的にはこれを裏付けるような研究結果はほとんどありません10

例えばプロのピッチャーよりも高校生のピッチャーのほうが投球時の肘が高いという研究結果もあります

肘の高さは体幹部の傾きや、肩や肩甲骨の柔軟性など他の要素によって影響を受ける部分があり、肘の高さだけで投球パフォーマンスを分析するのは限界があるのかもしれません。

ピッチャーの肘

 

まとめ

肘の高さは極端なものでなければ怪我のリスクに大きな違いはありませんが、体幹部を傾けて肘の高さを出している場合には怪我につながる可能性があります。

仮に肘の高さを修正する場合には、体幹部を傾けて無理やり投球フォームを修正するのではなく、肩回りの柔軟性を高めて自然に腕が動くようにすることが大事です。

 

<参考文献>

  1. Whiteley R. Baseball Throwing Mechanics as They Relate to Pathology and Performance - A Review. J Sports Sci Med. 2007;6(1):1-20.

  2. Matsuo T, Fleisig GS. Influence of shoulder abduction and lateral trunk tilt on peak elbow varus torque for college baseball pitchers during simulated pitching. J Appl Biomech. 2006;22(2):93-102.

  3. Sabick MB, Torry MR, Lawton RL, Hawkins RJ. Valgus torque in youth baseball pitchers: A biomechanical study. J Shoulder Elbow Surg. 2004;13(3):349-355.

  4. Aguinaldo AL, Chambers H. Correlation of Throwing Mechanics With Elbow Valgus Load in Adult Baseball Pitchers. The American Journal of Sports Medicine. 2009;37(10):2043-2048.

  5. Albright JA, Jokl P, Shaw R, Albright JP. Clinical study of baseball pitchers: correlation of injury to the throwing arm with method of delivery. Am J Sports Med. 1978;6(1):15-21.

  6. Escamilla RF, Slowik JS, Diffendaffer AZ, Fleisig GS. Differences Among Overhand, 3-Quarter, and Sidearm Pitching Biomechanics in Professional Baseball Players. Journal of Applied Biomechanics. 2018;34(5):377-385.

  7. Werner SL, Murray TA, Hawkins RJ, Gill TJ. Relationship between throwing mechanics and elbow valgus in professional baseball pitchers. J Shoulder Elbow Surg. 2002;11(2):151-155.

  8. Solomito MJ, Garibay EJ, Woods JR, Õunpuu S, Nissen CW. Lateral Trunk Lean in Pitchers Affects Both Ball Velocity and Upper Extremity Joint Moments. Am J Sports Med. 2015;43(5):1235-1240.

  9. Manzi JE, Ruzbarsky JJ, Krichevsky S, Sudah SY, Estrada J, Wang Z, Moran J, Kunze KN, Ciccotti MC, Chen FR, Dines JS. Kinematic and Kinetic Comparisons of Arm Slot Position Between High School and Professional Pitchers. Orthop J Sports Med. 2023 Oct 25;11(10):23259671221147874. doi: 10.1177/23259671221147874. PMID: 37900864; PMCID: PMC10601404.
  10. Kew ME, Koo A, Manzi JE, Coladonato C, Estrada J, Dines JS, Carr JB. Kinematic Parameters Predictive of Pitch Velocity in Youth to Professional Baseball Pitchers: A Qualitative Systematic Review. Orthop J Sports Med. 2023 Nov 29;11(11):23259671231196539. doi: 10.1177/23259671231196539. PMID: 38035212; PMCID: PMC10687953.

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