肘の痛み

ピッチャーの肩の最大外旋位と球速・怪我の関係

2020年7月15日

 

ピッチャーにとって球速は重要な要素の一つですが、近年、肩の怪我に悩む選手が増加しています。

球速を向上させるためには肩の可動域が重要と言われていますが、過剰な可動域は逆に怪我のリスクを高めるという指摘もあります。

本記事では、肩の最大外旋位と球速・怪我の関係について、科学的根拠に基づいて解説したいと思います。

 

肩の可動域と球速の関係

肩の柔軟性は重要ですが、闇雲に可動域を大きくすれば球速アップするとは限りません。

ピッチャーの最大外旋時の可動域
(Aguinaldo and Chambers 2009より引用)

ピッチャーの投球フォームにおいて、投球時の肩の外旋の角度が球速に影響を与える可能性があるという考え方があり、

127名のピッチャーの投球動作を解析した研究では球速が速いグループはピッチング時の肩の外旋が大きかったことが報告されています

この結果を踏まえると、外旋の可動域を大きくした投球フォームで投げれば球速アップができるのではないか?と思うかもしれませんし、実際にこのように指導している例もあるようです。

ピッチャーの肩の最大外旋位

しかし、ピッチャーの肩の外旋の可動域が高まっていく理由のひとつが、長年の投球によって骨格が徐々に変化していき、肩の骨が外旋に傾くことで大きな可動域を獲得しています

こういった骨格の違いがあるため、単純にピッチングフォームを真似することにはリスクがあるわけです。

野球ピッチャー
球速が速いピッチャーほど肘を怪我しやすいのか?

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肩の外旋の可動域と怪我のリスク

肩の可動域は怪我と関連している可能性があり、過剰な肩の外旋の可動域は怪我のリスクを高めることがあります。

肩の外旋の可動域

  • 14名のジュニア世代のピッチャーの投球動作を解析したところ、ピッチング時の肩の外旋の角度が大きいほど肘への負担も大きい傾向にあることが報告されています
  • 25名のプロのピッチャーの投球動作を分析した研究では、怪我をしているピッチャーはピッチング時の肩の外旋の負荷が大きいことが報告されています

これらの結果を踏まえると、肩の外旋の角度が大きいピッチングフォームには一定のリスクがあることがわかります。

 

肩の外旋の可動域のケアについて

過剰な肩の外旋の可動域は怪我のリスクがありますが、それでも肩の外旋の可動域を高めるための肩のケアは大事です。

プロのピッチャー132名の肩の外旋の可動域を調べた研究では、肩の外旋の可動域の低下は怪我のリスクを高めることが報告されています

ピッチング動作では必然的に肩の外旋が大きな角度に到達してしまうため、それにふさわしいだけの柔軟性が必要になり、高すぎず低すぎず適度な柔軟性を確保することがポイントになります。

こういったことから肩のストレッチやマッサージなどで肩のケアを行い、適度な可動域を確保することが重要であることが言えるかと思います。

そして、高い柔軟性を持っている選手ほど肩が緩く不安定になりやすいため、肩周りのインナーマッスルを鍛えてバランスをとることが大事になります。

 

まとめ

肩の外旋の可動域が高いピッチャーは球速が速い傾向にありますが、過剰な可動域や低すぎる可動域はどちらも肩を痛めるリスクがあります。

怪我のリスクを抑えながら球速アップを実現するためには、適度な可動域の獲得とインナーマッスルの強化によってバランスを整えることが大事です。

 

<参考文献>

  1. Matsuo T, Escamilla RF, Fleisig GS, Barrentine SW, Andrews JR. Comparison of Kinematic and Temporal Parameters between Different Pitch Velocity Groups. Journal of Applied Biomechanics. 2001;17(1):1-13.

  2. Reagan KM, Meister K, Horodyski MB, Werner DW, Carruthers C, Wilk K. Humeral retroversion and its relationship to glenohumeral rotation in the shoulder of college baseball players. Am J Sports Med. 2002 May-Jun;30(3):354-60. doi: 10.1177/03635465020300030901. PMID: 12016075.
  3. Sabick MB, Torry MR, Lawton RL, Hawkins RJ. Valgus torque in youth baseball pitchers: A biomechanical study. J Shoulder Elbow Surg. 2004;13(3):349-355.
  4. Anz AW, Bushnell BD, Griffin LP, Noonan TJ, Torry MR, Hawkins RJ. Correlation of Torque and Elbow Injury in Professional Baseball Pitchers. The American Journal of Sports Medicine. 2010;38(7):1368-1374.

  5. Camp CL, Zajac JM, Pearson DB, et al. Decreased Shoulder External Rotation and Flexion Are Greater Predictors of Injury Than Internal Rotation Deficits: Analysis of 132 Pitcher-Seasons in Professional Baseball. Arthroscopy. 2017;33(9):1629-1636.

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