憧れの一流選手のフォームを真似しようとしたことは一度はあり、可動域の大きいピッチングフォームに近づけようと努力したこともあるかもしれません。
ここで肩の可動域と怪我の関係についてご紹介したいと思います。
ポイント
- 球速が速いピッチャーは肩の可動域が大きい傾向にあります
- ピッチング時の肩の外旋の可動域が大きすぎると怪我をしやすい傾向にあります
- 肩の外旋の可動域が小さいと怪我をしやすい傾向にあります
肩の可動域が大きい投球フォームで球速アップ?
闇雲に可動域を大きくすれば球速アップするとは限りません。
ピッチャーの投球フォームにおいて、投球時の肩の外旋の角度が球速に影響を与える可能性があるという考え方があります。
(Aguinaldo and Chambers 2009より引用)
127名のピッチャーの投球動作を解析した研究では球速が速いグループはピッチング時の肩の外旋が大きかったことが報告されています1。
この結果を踏まえると、意図的に外旋の可動域を大きくしたフォームで球速アップができるのではないか?という考え方ができますし、実際にこのように指導している例もあるようです。
しかし、卵が先か鶏が先という議論があるように、意図的に肩の可動域が大きいフォームにすることで球速アップするとは限りません。
下半身から大きな力が伝わってきてピッチング時の肩の動きが大きくなっているという可能性もあります。
見た目のフォームだけ真似をしてもその効果には限界があるのではないでしょうか。
https://www.quora.com/What-does-kinetic-chain-mean
肩の外旋の角度が大きいほど怪我をしやすい?
肩の可動域は怪我と関連している可能性があります
- 14名のジュニア世代のピッチャーの投球動作を解析したところ、ピッチング時の肩の外旋の角度が大きいほど肘への負担も大きい傾向にあることが報告されています2。
- 25名のプロのピッチャーの投球動作を分析した研究では、怪我をしているピッチャーはピッチング時の肩の外旋の負荷が大きいことが報告されています3。
これらの結果を踏まえると、肩の外旋の角度が大きいピッチングフォームには一定のリスクがあることがわかります。
肩の可動域を高めることの重要性
それでも肩の外旋の可動域を高めることは重要であると考えられています。
というのも、ピッチング動作では必然的に肩が大きな角度に到達してしまうため、それにふさわしいだけの柔軟性が必要になってきます。
参照https://ericcressey.com/shoulder-mobility-drills-how-to-improve-external-rotation
プロのピッチャー132名の肩の外旋の可動域を野球のシーズンが始まる前に調べ、その後の怪我を追跡調査した研究があります。その結果肩の外旋の可動域の低下は怪我のリスクを高めることが報告されています4。
こういったことから適度な可動域を確保することが重要であることが言えるかと思います。
まとめ
一流選手の投球動作で肩の角度が大きいからと、その見た目だけを真似したフォームするだけでは再現できないものがあるかと思います。
<参考文献>
Matsuo T, Escamilla RF, Fleisig GS, Barrentine SW, Andrews JR. Comparison of Kinematic and Temporal Parameters between Different Pitch Velocity Groups. Journal of Applied Biomechanics. 2001;17(1):1-13.
Sabick MB, Torry MR, Lawton RL, Hawkins RJ. Valgus torque in youth baseball pitchers: A biomechanical study. J Shoulder Elbow Surg. 2004;13(3):349-355.
Anz AW, Bushnell BD, Griffin LP, Noonan TJ, Torry MR, Hawkins RJ. Correlation of Torque and Elbow Injury in Professional Baseball Pitchers. The American Journal of Sports Medicine. 2010;38(7):1368-1374.
Camp CL, Zajac JM, Pearson DB, et al. Decreased Shoulder External Rotation and Flexion Are Greater Predictors of Injury Than Internal Rotation Deficits: Analysis of 132 Pitcher-Seasons in Professional Baseball. Arthroscopy. 2017;33(9):1629-1636.