グロインペインとは?
グロインペインとは足の付け根(鼠径部)に発生する痛みの総称で、正式には鼠径部痛症候群と呼ばれます。
サッカー選手に非常に多く見られる慢性的な股関節の障害であり、サッカー病とも言われることもあります。
グロインペインは特定の単一の疾患を指すのではなく、鼠径部周辺の様々な組織(筋肉、腱、関節、骨など)が関与して生じる複雑な症状の集まりであり、筋肉の損傷もあれば恥骨の軟骨組織の損傷などもあります。
サッカー選手の場合には内転筋の損傷が特に多いと言われていて、ダッシュ、キック、方向転換といった動作で痛みが強くなります。
しつこい股関節の痛みやグロインペインの疑いがある場合には医療機関を受診することが大切です。
サッカー選手のグロインペインの原因
キック動作
様々なスポーツの中でサッカー選手のグロインペインは多く、サッカーではキック動作で負担がかかっていることが関係しています。
特にインサイドキックは内転筋の負担が大きく1、インサイドキックを繰り返してダメージが蓄積していくとグロインペインにつながる可能性があります。
また、大きく振りかぶるキックも内転筋の負担がかかりやすく、シュート練習を繰り返しているとダメージが蓄積されやすくなります。
さらに、キック動作において脚の力に頼りすぎるとグロインペインを引き起こしやすく、全身の連動性をうまく利用して効率的にキックを行うことも大切になります。
急激な方向転換動作
サッカー以外のスポーツでもグロインペインは起こり、キック以外の要素も影響してきます。
グロインペインはバスケなどの方向転換動作を繰り返すスポーツにも多くみられ、方向転換動作や加速減速などの動きで内転筋に大きな負荷がかかることが報告されています2・3。
ゲームや試合などで急激な方向転換の繰り返しがグロインペインにつながります。
筋力不足
筋力不足もグロインペインの原因であり、特にサッカー選手は内転筋が弱いとグロインペインを引き起こしやすいことが報告されています4。
意外にもサッカー選手はお尻などの外転筋に比べて、内転筋が相対的に弱い傾向にあることが報告されています5。
これはサッカーのキックでは内転筋が伸びた状態で筋力発揮をする、いわゆるエキセントリック収縮が少ないことから、筋力が偏ってしまう可能性が考えられます。
片足バランスの不安定さ
片足でのバランス能力もグロインペインに関係している可能性があります。
実際に片足バランスが低いサッカー選手はグロインペインを引き起こしやすいことが報告されています6。
片足バランスが悪いと方向転換動作などでバランスを崩し、股関節に負荷がかかりやすくなります。
体幹
グロインペインは股関節だけの問題ではなく、体幹の軸なども関係してきます。
実際にグロインペインを発症したサッカー選手は体幹が弱い傾向にあることが報告されています7。
急激な運動量の増加
過剰な運動はグロインペインにつながります。
特に普段慣れていないような運動量、急激に練習の負荷が増えたときなどにグロインペインのリスクが高まります。
実際にシーズン中よりも、プレシーズンにグロインペインが起きやすいことが報告されています8。
シーズンオフで身体のコンディションが落ちているところに、シーズン開幕に向けて運動量が増え始めるタイミングでグロインペインが起きていて、急激な運動量の増加が関係していることを示しているかと思います。
グロインペインの改善方法
休養
グロインペインの改善の基本は十分な休養を取ることです。
グロインペインが回復するには意外と長い時間が必要であり、ある研究ではプロサッカー選手のグロインペインは復帰するのに平均で約2か月かかることが報告されています9。
また、別のサッカー選手を対象にした研究ではグロインペインから回復するのに平均で約4~5か月かかることが報告されています10。
怪我の種類や重さによって休養期間は変わってきますが、長期間の休養が必要になってしまうことも珍しくなく、十分な休養をとることが大事になります。
焦って無理してプレーしてしまうと痛みが悪化し、さらに怪我が長引いてしまう可能性があるため注意が必要です。
ストレッチ
グロインペインの改善にはストレッチで柔軟性を高めることが役立ちます。
股関節を横に広げるような内転筋のストレッチは、股関節の動きをスムーズにするのに役立ちます。
また、サッカーでは股関節の前部分にある腸腰筋も酷使されやすく、グロインペインに関係している筋肉であり、股関節の前面を伸ばすようなストレッチも役立ちます。
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サッカー選手の怪我予防のためのストレッチ
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トレーニング
グロインペインの改善には弱い筋肉をトレーニングで鍛えることが役立ちます。
実際にグロインペインを抱えたサッカー選手に内転筋のトレーニングを行うことで痛みが改善したことが報告されています11。
まずは負荷の軽いエクササイズから始めていき、痛みや違和感がない範囲でエクササイズを行うことが大切です。
エクササイズを痛みがなく行うことができ、トレーニングに慣れてきたら徐々に負荷を上げていきます。
サイドプランクの際に足の内側を使って体重を支えると内転筋を効果的に鍛えることができます。
さらに、ベンチなどに足を乗せた状態でのサイドプランクを行うことで、さらに高い強度で内転筋を鍛えることができます。
内転筋のエクササイズだけでなく、ハムストリングスを鍛えるエクササイズも組み合わせるとグロインペインの発生率がさらに低くなることが報告されています12。
そして体幹トレーニングなども取り入れることでさらなる怪我予防、パフォーマンス向上に役立ちます。
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サッカー選手の怪我予防のトレーニング
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まとめ
サッカー選手のグロインペインはキック動作、急激な方向転換動作、筋力不足や片足バランスの低下、過剰な運動などが原因になります。
グロインペインの改善には十分な休養、ストレッチ、弱い筋肉をトレーニングで鍛えることが役立ちます。
<参考文献>
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