半月板損傷とは?
半月板損傷とは、膝の関節にある「半月板」という軟骨組織が傷ついたり、裂けたりする状態を指します。
膝の内側や外側に痛みが生じることが多く、特に膝を深く曲げたり、体重をかけたり、ひねったりする動作で痛みが強くなります。
また、 膝の曲げ伸ばしをする際にスムーズに動かず、途中で引っかかるような感覚が起こることもありますし、膝がぐらつく感じがしたり、体重をかけたときに膝が崩れ落ちるような感覚があったりします。
半月板損傷の疑いがある場合には整形外科を受診することが大切です。
サッカー選手の半月板損傷の原因
接触プレー
相手選手との接触プレーやファウルなどの激しいコンタクトによって半月板損傷を引き起こすことがあります。
練習よりも試合のほうがプレーの強度が高く、怪我を引き起こすリスクが高くなります。
方向転換
サッカーの方向転換の動作は半月板に負荷がかかりやすく、急なストップ動作やターンをする際などに半月板損傷を引き起こすことがあります。
特に膝がねじれるような動きは負荷が高く、膝が内側に入るなどの要素が組み合わさると膝に大きな負担がかかります。
慢性的なダメージの蓄積
半月板損傷は慢性的なダメージの蓄積によって引き起こされることがあります。
サッカー選手の9割は少なからず微細な半月板の損傷があることが報告されています1。
これは日々の練習で細かいダメージを受ける可能性があることを示唆しており、ダメージが蓄積されていくと半月板損傷の痛みにつながると考えられます。
筋力不足
脚の筋力が強いほうが半月板損傷が起こりにくいと言われています2。
筋力不足があるとサッカーの激しい動きを支えることが難しくなり、膝が不安定で半月板にダメージを受けやすくなります。
大腿四頭筋やハムストリングスといった膝周りの大きな筋肉だけでなく、細かいインナーマッスルなどの筋力不足も影響してきます。
半月板損傷の改善方法
休養
半月板損傷を改善するための基本は十分な休養を取ることです。
歩行時に痛みがある場合には松葉杖などを使用し、膝に負荷をかけないように安静にすることが大事になります。
半月板には血管が多くないため回復に時間がかかるため、余裕をもって長めの休養期間を確保することがポイントになります。
リハビリ
半月板損傷の改善にはリハビリに取り組むことが役立ちます。
負荷が大きすぎると痛みが悪化してしまう可能性がありますし、歩行動作などで痛みがなくなるまで十分な休養を取ってからリハビリを始めることも大事になります。
最初は体重をかけずにできる、シンプルで軽い負荷のものからリハビリを始めていきます。
中殿筋などお尻の筋肉を鍛えることで、膝の負荷を和らげることができます5。
膝の状態が良くなってきたら徐々に膝周りのエクササイズや自重を使ったエクササイズも取り入れていきます。
大腿四頭筋やハムストリングスの筋力をつけることで半月板の状態が良くなります4・5。
手術
半月板損傷の改善方法には手術という選択肢があります。
半月板縫合術は、半月板の血流がある部分の損傷や損傷が軽度な場合に、半月板を温存する目的で用いられます。損傷した部分を縫い合わせ、癒合を促します。
半月板切除術は、半月板の血流がない部分の損傷や損傷が重度な場合、または横断裂・水平断裂など縫合が難しい場合に用いられます。損傷した部分を切り取って、関節の動きをスムーズにする目的で行われます。
半月板損傷の場所によっても回復までの時間が違ってくることがあり、外側の半月板損傷はダメージが大きくなりやすく、時間がかかる傾向にあります6・7。
手術の要否、方法などについては身体の状態によって変わってくるため整形外科医の先生と話し合うことが大事になります。
半月板損傷と選手生命
競技復帰
サッカー選手の半月板損傷は試合に復帰できる可能性は十分にあります。
半月板損傷をしたプロサッカー選手の約8~9割が競技復帰できていて、復帰に平均で4~5か月要することが報告されています8。
しかし、30歳を超えた選手はサッカーの復帰の可能性が半分近くになります10。
また、アメリカのメジャーリーグサッカーを対象にした研究では、半月板損傷の手術をした選手はキャリアが約3.5年短くなることが報告されています9。
そして手術後はパフォーマンスが低下し、元の水準に戻るのに約2年かかることも報告されています9。
こういったことから半月板損傷は選手生命に少なからず影響を与える場合があると言えます。
再発リスク
欧州サッカーでの半月板損傷を10年間分析した研究によると、半月板損傷から復帰したサッカー選手の再発は約5%ほどであることが報告されています10。
適切な対処をすれば怪我の再発リスクはある程度抑えることができますが、痛みを再発させてしまう事例は後を絶たない印象です。
特に急いでサッカーに復帰したり、痛みがないからと油断してサッカーをやり過ぎてしまうに注意が必要です。
そもそも半月板は血管が少なく血流供給が限られているため、治癒能力が低い状態にあり、他の怪我と同様の復帰の仕方をすることにリスクがあり、半月板損傷では慎重に復帰することが再発を防ぐ大事なポイントです。
半月板損傷を早く治す方法
手術
重度の半月板損傷であれば手術してから復帰に長い時間がかかりますが、軽度の半月板損傷であれば保存療法よりも手術をした方が早い傾向にあります10。
手術方法によって違ってきますが、損傷した半月板を削り取ることでダメージを受けた半月板がなくなるため、早くスポーツに復帰できると言われています。
しかし、保存療法と比べた場合、半月板の手術をすると膝のコンディションが悪くなり、サッカーのプレー時間が短くなる可能性があることが指摘されています11。
というのも手術では少なからず半月板を削ることがあり、膝の機能が低下する可能性があるためです。
半月板には膝の衝撃吸収、安定性、関節の動きを潤滑にするといった役割があり、手術で半月板を削ってしまうと膝を怪我しやすくなると言われています12。
このように手術を選択することで早くサッカーの試合に復帰できる場合がありますが、以前と同じようなコンディションを維持することが難しくなる可能性もあるので慎重な判断が求められます。
休養
半月板損傷を早く治すために色々な方法を取り入れたいと思うかもしれませんが、半月板損傷を治すための基本は十分な休養を取ることになります。
サッカーに早く復帰しようと焦ると痛みを再発させてしまうことがあり、ひとたび怪我を再発させてしまうとそこから数か月や半年といった長期間の離脱を余儀なくされてしまいます。
十分な休養を取らないと、結果的にサッカーへの早期復帰が実現できなくなってしまいます。
特に病院でのリハビリが終わって、徐々にサッカーに復帰するタイミングなどで痛みを再発させてしまう事例が珍しくありません。
少しずつ軽くサッカーをプレーするはずが、パス練習をやり過ぎてしまったり、ゲームに軽く参加してしまったり、過度な負荷をかかってしまう事例があります。
急がば回れというように、早く復帰したいのならば身体の声にしっかりと耳を傾け、ちょっとした違和感がある時点で練習をやめて休養を取るという選択が大事になります。
PRP療法
半月板損傷を早く回復させるための方法として、⾎液を利⽤した再⽣医療の一種であるPRP療法と呼ばれるものがあります。
そもそも半月板は血流が限られているため治癒が遅いのですが、PRP療法では組織修復を促す成長因子を多く含んだ栄養豊富な血流を補うことができるというメリットがあります。
半月板損傷から6か月時点ではPRP療法をやったほうが回復が若干早いという研究結果が報告されています13。
しかし、1年といった長期的な視点では違いは見られず、あくまで短期的な効果になります。
PRP療法はそこまで強い科学的根拠があるわけではなく、保険が適用されず数十万円と高額な費用を支払う必要があるというデメリットもあります。
そして、PRP療法をやっても無理な運動を続けてしまい膝を悪くしてしまう事例も見受けられます。
結局のところ、十分な休養を取り、リハビリを行い、慎重にサッカーに復帰するということには変わりはなく、そういった基本を怠ってしまうと高額な費用が無駄になってしまうため注意が必要です。
半月板損傷したサッカー選手の事例
プジョル(FCバルセロナ)
バルセロナでキャプテンを務めたレジェンド級のディフェンダーです。
2012年の春に半月板を損傷し、手術を行い8月にパリサンジェルマンとの試合に復帰しています。
翌2013年の1月の練習中に膝の違和感が発生、シーズン終了後に手術をする方針でサッカーをプレーし続けましたが、痛みに耐えきれずチームとの契約更新を断念する意思を固めます。
そんな状況でも膝の痛みを誤魔化しながらミラン戦に13分間だけ強行出場。しかし、その後のバルセロナBチームとの練習試合で膝の状態がさらに悪化し、膝を再度手術することになります。
ここで他の怪我を併発していることが発覚し、走ることができずにそのままシーズン終了しています。
翌シーズンは数試合出場するものの、度重なる膝の怪我により36歳で現役を引退しています。
膝の手術をすれば早期復帰ができる可能性があるものの、無理をするとその後に怪我に悩まされる可能性があることを示す事例かと思います。
ファティ(FCバルセロナ)
2021年にメッシがパリに移籍したことにより背番号10を受け継いだバルセロナの選手です。
2019年に16歳でバルセロナのトップチームでデビューし、ゴールを挙げるなどの活躍をみせるものの、2019年の11月に半月板損傷しています。
2020年9月にはトップチームに正式に昇格するも、11月に再び半月板損傷し、手術を受けています。
その後も複数回の怪我と手術を繰り返し、徐々にコンディションが低下していきます。2023年にブライトンに1年間のレンタル移籍するも再び怪我に悩まされます。
バルセロナに復帰し、再び背番号10を背負うものの、再び怪我に悩まされて実力を発揮できずにいます。
これは手術を繰り返したことにより半月板がどんどん削られ、膝の機能が低下してしまったことが、コンディション不良や度重なる怪我を引き起こしていると考えられる事例です。
久保建英
バルセロナの下部組織で育ち、スペインリーグで活躍する日本の至宝である久保建英選手。
2021年9月のレアルマドリード戦で半月板を損傷、一時は重症説も流れましたが、本人は手術をしたという噂を否定しています16。
2021年の11月末に試合に復帰を果たし17、その後は大きな怪我もなく、順調な活躍をみせています。
久保建英選手は軽度の半月板損傷であったこと、そして手術を行わずに済んだことがうまくいっている要因かもしれません。
まとめ
サッカー選手の半月板損傷は接触プレーや急なターンやストップ動作、慢性的なダメージの蓄積によって引き起こされます。
半月板損傷の改善には十分な休養、リハビリ、状況に応じて手術といった選択肢も必要になる場合があります。
急いでサッカーに復帰したり、無理なプレーを続けると怪我の再発や選手生命に影響を及ぼすことがあるため、慎重な対応が求められます。
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- https://en.wikipedia.org/wiki/Ansu_Fati
- 重症説流れた久保建英がマジョルカ公式動画で激白「すべて(リハビリ)が予定通りに進んでいる。予想よりいい」 Yahoo News.
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