サッカーにおいてはダッシュやジャンプなどの爆発的動作を何度も繰り返すことから、怪我に悩まされるサッカー選手が少なくありません。
ここでサッカーにおける怪我の傾向、怪我のメカニズムや対処法、効果的なトレーニングプログラムなどをご紹介していきたいと思います。
サッカーでの主な怪我について
プロのサッカー選手を対象とした研究では筋肉系の故障の割合が多く報告されており、特にハムストリングスの肉離れ、グロインペインなどが多いようです1。
慢性的な怪我だけでなく相手選手との接触で起こる打撲などの怪我も多く発生しています。
その他にも捻挫などの怪我や前十字靭帯断裂による長期離脱、成長期には骨に関する怪我も発生しやすくなります。
(Lopez-Valenciano et al 2020より引用)
ハムストリングスの肉離れ
サッカー選手はダッシュやジャンプなどの爆発的動作が多く伴うことからハムストリングスの肉離れが後を絶ちません。
ハムストリングスの肉離れは数週間から数ヶ月と症状によっては意外と長期化することが珍しくありません。
ハムストリングスの肉離れに対してストレッチが行われることが多いのですが、ハムストリングスの肉離れに対しての効果は限定的であると言われています。
どちらかというとハムストリングスの筋力を鍛えることが大切です。
サッカー選手のハムストリングス肉離れの原因と予防法
続きを見る
グロインペイン
サッカーではキック動作などで内転筋を酷使することから、内転筋を中心としたグロインペインの痛みを引き起こしやすいです。
グロインペインを発症しているサッカー選手は全身の連動性が低く、股関節周りに負荷がかかりやすい傾向にあります。
前十字靭帯断裂
前十字靭帯断裂はそこまで多い怪我ではありませんが、怪我をすると1シーズンは棒に振ることになり選手生命に影響を与えかねないので重点的に対策する必要があります。
前十字靭帯断裂は様々な原因があり、筋力だけでなく骨格的要因や神経の働きなど多岐に渡ります。
ハムストリングスの強化、膝のポジションを整えニーインを防ぐ、体幹部の強化、などなど身体の様々なところにアプローチしていくことが重要です。
欧州プロサッカー選手の前十字靭帯断裂が増えている
続きを見る
捻挫
サッカーで捻挫がよく起こる怪我のひとつが捻挫です。そこまで大きな怪我になることは少ないものの、捻挫はクセになりやすいので注意が必要です。
足首の捻挫の原因には様々なものがありますが、中でもバランス感覚の低下によって捻挫が引き起こされることが珍しくありません。
このため捻挫予防にバランス系のトレーニングを行い、徐々に負荷の高い動作を組み合わせていくことで効果を発揮します。
さらには足首だけでなく股関節周りも鍛えて安定性を高めていくことも役に立ちます。
骨のトラブル
プロの選手においては骨のトラブルの割合はそこまで多いわけではありませんが1、成長期のサッカー選手は骨の強度が弱いために骨に関わる怪我が起こりやすい傾向があります。
シーバー病、オスグッド、疲労骨折、腰椎分離症など・・・成長期に起こりやすい骨のトラブルは広範囲に存在しています。
練習のしすぎが主な原因ではあるものの、筋力強化や栄養摂取など骨に関する怪我を防ぐためにできることは多くあります。
サッカー選手のトレーニングの方向性
サッカー選手の怪我予防においてはハムストリングスやお尻の筋肉、体幹部の筋肉の強化が欠かせません。
捻挫や前十字靭帯断裂などを防ぐためのバランストレーニング、成長期の場合には栄養の確保、特にサッカー選手は炭水化物が不足しがちになります。
サッカーのパフォーマンスを上げるという意味でもハムストリングスやお尻の筋肉、体幹の強化は欠かせません。
サッカーにおいては急激な方向転換の動作も多く、横方向や回旋動作などのトレーニングも積極的に取り入れていきたいところです。
サッカー選手の怪我予防プログラム
サッカー選手の怪我予防のトレーニングには様々なプログラムが存在しています。
これらのトレーニング方法の概要とメリットやデメリットなどについて書かせていただきたいと思います。
体幹トレーニング
サッカー選手の体幹トレーニングが話題になっています。
体幹トレーニングは腰痛などの怪我予防に効果があり、パフォーマンスアップも期待できるため体幹トレーニングを取り入れている選手も多いかと思います。
しかし、サッカー選手に多いハムストリングスの肉離れや前十字靭帯断裂などの怪我を防ぐという点では体幹を鍛えるだけでは心細いものがあります。
やはり脚を効果的に鍛えるメニューが欠かせないため、体幹トレーニングに加えて他の種類のエクササイズも取り入れてバランスよく鍛えていくことが大切です。
PEPプログラム
アメリカの大学の強豪サッカーチームなどで実際に使われていることがあるプログラムで、身体をバランスよく鍛えることができます。
チームの練習前のウォームアップの一環として10分程度のプログラムを行うのですが、これを定期的に取り入れることでサッカーのパフォーマンスアップを実現しつつ怪我をする選手が減っていきます。
このプログラムはサンタモニカの研究チームによって作られ、詳細はウェブ上に公開されています。全て英語で書かれているのが難点ですが、主に次のような内容になっています。
- ハムストリングを中心とした筋力強化
- 片足ジャンプ
- 方向転換(アジリティ)
- ストレッチ
このハムストリングスの肉離れや前十字靭帯損傷、捻挫などの怪我を中心とした対策であり、
短所としては体幹のエクササイズが少なく、腰痛などの怪我を防ぐことには限界があります。
FIFA11+
国際サッカー連盟(FIFA)が提供するサッカー選手のための怪我予防プログラムです。
サッカーのスポーツ医学に基づいたプログラムであり、サッカー選手に必要な筋肉をバランスよく鍛えることができます。
正しい動作やよくある間違いなども写真や動画で説明されており、丁寧でわかりやすい内容になっています。
さらには初級・中級・上級とエクササイズの内容をステップアップでき、チームで取り入れるのにも使い勝手がいいエクササイズが並んでいます。
FIFAが提唱するプログラムだけあって、サッカーに関する怪我を広く防ぐことができる素晴らしい内容ではないかと思います。
考察
これらのプログラムの長所は画一的なトレーニング方法が提示されており、チームとして取り入れるメリットが大きいことです。
スポーツ医学などにあまり詳しくなくとも費用をかけずに簡単で効果的なトレーニングができます。
特にウォームアップの一環として取り組むことで、チーム全体の怪我を減らしパフォーマンスアップを実現することができます。
ただし、画一的なトレーニングメニューであるため、個人に対する最適なトレーニング内容ではないという欠点があります。
例えば、足の指の働きが低下している選手や、股関節の筋肉にうまく力が入らない選手など、上記のプログラムだけでは対応しきれない問題も数多くあります。
治療やトレーニングの効果を最大限に引き出すには、個々の状態に合わせたカスタマイズというのが大事になってきます。
サッカー選手の怪我予防のためのストレッチ
続きを見る
<参考文献>
- López-Valenciano A, Ruiz-Pérez I, Garcia-Gómez A, et al. Epidemiology of injuries in professional football: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2020;54(12):711-718. doi:10.1136/bjsports-2018-099577
- Barengo NC, Meneses-Echávez JF, Ramírez-Vélez R, Cohen DD, Tovar G, Bautista JEC. The impact of the FIFA 11+ training program on injury prevention in football players: a systematic review. Int J Environ Res Public Health. 2014;11(11):11986-12000. doi:10.3390/ijerph111111986
- Gomes Neto M, Conceição CS, de Lima Brasileiro AJA, de Sousa CS, Carvalho VO, de Jesus FLA. Effects of the FIFA 11 training program on injury prevention and performance in football players: a systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2017;31(5):651-659. doi:10.1177/0269215516675906