身体のケア

高い柔軟性を持っている人は意外と怪我をしやすい

2021年8月7日

 

世の中には生まれつき軟体人間のような高い柔軟性を持っている人達がいます。

体操やバレエなど柔軟性を求められる競技でとても有利に働きますが、高い柔軟性を持っていることでのデメリットもあると考えられています。

そこで先天的に高い柔軟性を持っている人達の怪我のリスクについて書かせていただきたいと思います。

 

ポイント

  • 関節が過剰に柔らかい人は膝や肩の怪我が多い傾向にあります。
  • サッカーやラグビーなどでは怪我のリスクが少しばかり増えるようです。
  • 体操やバレエなどの柔軟性が求められる競技では怪我のリスクにはならないようです。

 

先天的に高い柔軟性(過剰運動症候群)

ストレッチなどをあまりやらなくても、生まれながらにして驚異的な柔軟性を持っている人たちがいます。

体操やバレエ、フィギュアスケートなどの高い柔軟性が求められる競技において有利に働くと考えられています

バレエ股割り

この驚異的な柔軟性は皮膚をはじめとした身体の結合組織の緩さなどと関係しており、過剰運動症候群(hypermobility)などと呼ばれることもあります

評価方法は複数あるのですが、基本的には複数の柔軟性テストの点数やその他の症状によって判断することが多いです。

(Celletti and Camerota 2013より引用)

この過剰に柔軟な身体は先天的なものだと考えられることも多いですが、環境面などの影響も受ける可能性があり、その要因については議論があります

 

過剰な柔軟性と怪我の発生率

通常の可動域をはるかに超える高い柔軟性を持った過剰運動症候群の人たちは怪我をしやすい可能性があります。

  • 過剰な柔軟性を持っている人は普通の人に比べて膝や肩の怪我が多いことがメタ分析による研究で報告されています2・4
  • 前十字靭帯損傷のリスクが高く、断裂後も靭帯が緩く回復も遅い傾向にあることが複数の研究で明らかになっています
  • 興味深いことに足首の怪我や腰痛とはあまり関係していないようです2・5・6

このように怪我の種類によりますが、柔軟性が飛び抜けて高い人は怪我をしやすい可能性があります。

 

スポーツによる怪我のリスクの違い

いくつかのスポーツにおいては過剰な柔軟性と怪我の発生率についての研究が行われており、スポーツや競技特性によって怪我のしやすさが変わってきます。

 

サッカー

サッカーにおいては関節が柔らかすぎると少しばかり怪我のリスクが高まるかもしれません。

サッカーの試合

  • 過剰な柔軟性を持っているサッカー選手の怪我が多い可能性があることが研究が複数報告されています7・8
  • 一方で怪我との関係性はみられなかったとする研究もあります9・10

 

ラグビー

ラグビーにおいては関節が過剰に柔らかいことは怪我のリスクを高めるようです11

ラグビー

研究数も少ないので強い証明力はありませんが、ラグビーの性質を考えると怪我が多くなるというのはなんだか納得できるものがあります。

 

バレエ・体操など

バレエや体操などでは関節が柔らかすぎることは怪我のリスクとは考えられていません。

(Weber et al 2015より引用)

  • バレエでは関節の過剰な柔らかさは怪我の発生率とはあまり関係ないようです12・13
  • 体操やダンスも関節の過剰な柔らかさと怪我の関連性はみられなかったそうです14・15
  • 一方でバレエの股関節の怪我に関係しているかもしれないとする意見もあります16

このように体操やバレエなどでは身体が過剰に柔らかくとも怪我の発生率にはあまり影響がないようです。

むしろ生まれつきの柔軟性がない人が過剰なストレッチなどにより身体を壊していくという意見もあるくらいで、天性の柔らかさはこういった競技では有利に働きやすいです。

バレエダンサー
バレエダンサーの高い柔軟性と股関節の怪我

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高い柔軟性による怪我のメカニズム

柔軟性が高すぎると関節が不安定になったりと、外部からの負荷から身体を守る機能が低下してしまう可能性が考えられます。

単純に柔軟性が高ければいい、柔軟性が低ければいい、というよりも柔軟性と筋力のバランスが大事になってくるかと思います。

ストレッチやマッサージ、整体施術などで闇雲に柔軟性を高めていくことが逆効果になってしまうこともあります。

ハムストリングスのストレッチ

怪我のリスクを抑えつつ高い柔軟性を確保するには、エクササイズやトレーニングに取り組み身体を守るための筋肉をしっかりと鍛えていくことが大事だったりします。

 

まとめ

身体が異常に柔らかい人は関節が緩く怪我をしやすい傾向にあるようですが、競技によっては怪我のリスクとはならないようです。

そのスポーツに必要な適度な可動域を獲得することがポイントです。

 

<参考文献>

  1. Kumar B, Lenert P. Joint Hypermobility Syndrome: Recognizing a Commonly Overlooked Cause of Chronic Pain. The American Journal of Medicine. 2017;130(6):640-647. doi:10.1016/j.amjmed.2017.02.013
  2. Pacey V, Nicholson LL, Adams RD, Munn J, Munns CF. Generalized joint hypermobility and risk of lower limb joint injury during sport: a systematic review with meta-analysis. Am J Sports Med. 2010;38(7):1487-1497. doi:10.1177/0363546510364838
  3. Sundemo D, Hamrin Senorski E, Karlsson L, et al. Generalised joint hypermobility increases ACL injury risk and is associated with inferior outcome after ACL reconstruction: a systematic review. BMJ Open Sport Exerc Med. 2019;5(1):e000620. doi:10.1136/bmjsem-2019-000620
  4. Liaghat B, Pedersen JR, Young JJ, Thorlund JB, Juul-Kristensen B, Juhl CB. Joint hypermobility in athletes is associated with shoulder injuries: a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskelet Disord. 2021;22(1):389. doi:10.1186/s12891-021-04249-x
  5. Roussel N, De Kooning M, Schutt A, et al. Motor control and low back pain in dancers. Int J Sports Med. 2013;34(2):138-143. doi:10.1055/s-0032-1321722
  6. Goode AP, Cleveland RJ, Schwartz TA, et al. Relationship of joint hypermobility with low Back pain and lumbar spine osteoarthritis. BMC Musculoskelet Disord. 2019;20(1):158. doi:10.1186/s12891-019-2523-2
  7. Konopinski MD, Jones GJ, Johnson MI. The effect of hypermobility on the incidence of injuries in elite-level professional soccer players: a cohort study. Am J Sports Med. 2012;40(4):763-769. doi:10.1177/0363546511430198
  8. Konopinski M, Graham I, Johnson MI, Jones G. The effect of hypermobility on the incidence of injury in professional football: A multi-site cohort study. Phys Ther Sport. 2016;21:7-13. doi:10.1016/j.ptsp.2015.12.006
  9. Blokland D, Thijs KM, Backx FJG, Goedhart EA, Huisstede BMA. No Effect of Generalized Joint Hypermobility on Injury Risk in Elite Female Soccer Players: A Prospective Cohort Study. Am J Sports Med. 2017;45(2):286-293. doi:10.1177/0363546516676051
  10. Collinge R, Simmonds JV. Hypermobility, injury rate and rehabilitation in a professional football squad--a preliminary study. Phys Ther Sport. 2009;10(3):91-96. doi:10.1016/j.ptsp.2009.03.001
  11. Stewart DR, Burden SB. Does generalised ligamentous laxity increase seasonal incidence of injuries in male first division club rugby players? Br J Sports Med. 2004;38(4):457-460. doi:10.1136/bjsm.2003.004861
  12. Mayes S, Smith P, Stuart D, Cook J. Joint Hypermobility Does Not Increase the Risk of Developing Hip Pain, Cartilage Defects, or Retirement in Professional Ballet Dancers Over 5 years. Clin J Sport Med. Published online November 24, 2020. doi:10.1097/JSM.0000000000000862
  13. L Biernacki J, Stracciolini A, Fraser J, J Micheli L, Sugimoto D. Risk Factors for Lower-Extremity Injuries in Female Ballet Dancers: A Systematic Review. Clin J Sport Med. 2021;31(2):e64-e79. doi:10.1097/JSM.0000000000000707
  14. Bukva B, Vrgoč G, Madić DM, Sporiš G, Trajković N. Correlation between hypermobility score and injury rate in artistic gymnastics. J Sports Med Phys Fitness. 2019;59(2):330-334. doi:10.23736/S0022-4707.18.08133-1
  15. van Rijn RM, Stubbe JH. Generalized Joint Hypermobility and Injuries: A Prospective Cohort Study of 185 Pre-Professional Contemporary Dancers. J Clin Med. 2021;10(5):1007. doi:10.3390/jcm10051007
  16. Weber AE, Bedi A, Tibor LM, Zaltz I, Larson CM. The Hyperflexible Hip: Managing Hip Pain in the Dancer and Gymnast. Sports Health. 2015;7(4):346-358. doi:10.1177/1941738114532431
  17. Celletti C, Camerota F. The multifaceted and complex hypermobility syndrome (a.k.a. Ehlers-Danlos Syndrome Hypermobility Type): evaluation and management through a rehabilitative approach. Clin Ter. 2013;164(4):e325-335. doi:10.7417/CT.2013.1597

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