股関節唇損傷 股関節インピンジメント

バレエダンサーの高い柔軟性と股関節の怪我

バレエダンサー

バレエのように高い柔軟性を追求する競技には怪我がつきまとうことが少なくないことかと思います。大きな可動域を持っていることは素晴らしいことだと思いますし、驚嘆させられるものがあります。しかしながら、その高い柔軟性により股関節周りに負荷がかかり、股関節周りの機能が低下し、怪我へとつながることも珍しくありません。

 

ポイント

  • 柔軟性が高いほど怪我をしやすいかどうかについては議論が残るようです
  • 競技の動きにおいて可動域が高いほど怪我をしやすいという報告もあります
  • 競技に必要な過度に高い可動域を求めることをやめさせるほどの強い科学的根拠はないかと思います

 

バレエの動きと股関節のへの負荷

バレエの動きには大きな可動域が必要であり、こういった動作により股関節に負荷がかかっています。

(Harris et al 2016より引用)

過去に大きな怪我や手術をしたことがないプロのバレエダンサーのスプリッツをMRIで測定したところ、この動作中において関節が約2ミリほど脱臼していたそうです

典型的なバレエの動きの中ではもう少し大きく股関節が脱臼するようで、6ミリの脱臼している動きもあることが報告されています。動きによってはもっと大きな脱臼が発生しているという研究結果も報告されています

参考までにバレエの動作と股関節の脱臼度合いのデータを載せておきます。繰り返しになりますが、これは大きな怪我や手術をしたことのない人のバレエの動きをモーションキャプチャーにて計測したものとなっています。測定技術の精度により1ミリ前後の誤差が生じることもあるようです。

バレエの動作と股関節の脱臼の程度

(Charbonnier et al 2011より引用)

 

このような数ミリの脱臼では直ちに痛みを感じるわけではありませんし、怪我と呼べるほどの大きな脱臼ではないかと思います。

これをもってバレエをやらないほうがいいというわけではありませんが、練習のしすぎなどによってこういった小さなダメージが積み重なる可能性があることは頭の片隅に入れておいて損はないかと思います。

 

バレエダンサーの高い柔軟性について

バレエダンサーなど柔軟性が求められる競技においては、高い柔軟性を持っている人たちが多く、生まれながらに身体が柔らかい人もいれば、後天的に柔軟性を獲得した人もいるかと思います。

柔らかすぎることが有利に働くという意見もあれば、過度な柔軟性は怪我につながるなど、意見がわかれ議論があるところです4・5

 

柔軟性と怪我の発生について

高い柔軟性を持っているかどうかを評価するのに次の図のようなテストが用いられますが、このテストの結果と怪我の発生に関係は不明であるという報告があります

(Folci et al 2016より引用)

また、股関節の可動域と怪我の発生率についても研究方法の違いなどにより、可動域と怪我の発生について明確な結論を出せていないようです

しかしながら、より競技に近い動きにおいては可動域が高いほど怪我との関連性がみられたそうです

バレエのターンアウト

 

柔軟性以外の要素も影響する

柔軟性だけが全てではなく特定のポーズの練習のしすぎなどは怪我のリスクを高めるという報告があります

また、ストレッチのしすぎや十分な休息がないこと、周辺の細かい筋肉を含めて十分に鍛えられていないことなども怪我のリスクではないかと考えられています

お尻の筋肉

柔軟性が怪我の発生率を高めるデータが多くないことや、高い柔軟性がバレエの競技特性上どうしても必要なものであることを考えると、バレエにおいて過度な可動域を求めることをやめさせるほどの強い科学的根拠はないかと思います。

しかしながら、練習のしすぎや必要な筋肉が鍛えられていなかったりと、身体のメンテナンスがしっかりと行われていないことなどは改善したほうがいいのではないでしょうか。

 

バレエダンサーの怪我とその影響について

バレエダンサーは高すぎる可動域を伴う動きにより、股関節周りの組織や骨に小さなダメージを繰り返し受けていることが多く、これが積み重なってくると股関節の機能低下などを招く可能性があります。

股関節唇損傷

ある研究では5割を超えるバレエダンサーの股関節唇が傷ついていたという結果になっており、その多くの人達は痛みを感じていなかったそうです

股関節唇損傷

参照https://redefinehealthcare.com/labral-tear/

股関節唇には股関節を安定させる働きがあり、股関節唇が傷つく事で股関節の安定性などが低下する可能性があります10・11

もちろん、どの程度ダメージを受けるのかによってその影響が変わってきますが、すぐに痛みが出るとは限らず、知らず知らずのうちに股関節の機能が低下してしまう可能性があるかもしれないことに注意が必要ではないでしょうか。

骨の形状について

バレエの練習のしすぎは股関節周りの骨に影響を与えることがあり、それによって股関節の機能低下などに繋がる可能性があります。

バレエダンサー47名を対象に調査したところ、約3割がCam deformity、多くのバレエダンサーがPincer deformityの兆候ありだったという報告があります12

一方でこういった骨の変化などが少なかったという報告もあるので、一概に言えるものではありませんがバレエダンサーと股関節の骨の形状の変化には一定の関係性はあるかと思います。

骨盤股関節
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また、バレエダンサーの9割近くが寛骨臼形成不全あるいは境界型寛骨臼形成不全がみられたという方向もあります12

寛骨臼形成不全に関しては先天的な要素も多く、これが生まれつきの高い柔軟性につながっていて、こういう人が生き残る世界ではないか?という意見もあるようです。

いずれにせよ骨の形状によって股関節への負荷を高め、さらなる怪我へとつながる可能性があります。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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まとめ

バレエのように高い可動域を必要とする競技には一定のリスクがつきまといます。高い柔軟性は競技に欠かせないものであり、身体のケアや練習方法などを工夫することで怪我のリスクを下げることが大事になってくるのではないでしょうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Kolo FC, Charbonnier C, Pfirrmann CWA, et al. Extreme hip motion in professional ballet dancers: dynamic and morphological evaluation based on magnetic resonance imaging. Skeletal Radiol. 2013;42(5):689-698.
  2. Charbonnier C, Kolo FC, Duthon VB, et al. Assessment of congruence and impingement of the hip joint in professional ballet dancers: a motion capture study. Am J Sports Med. 2011;39(3):557-566.
  3. Gilles B, Christophe FK, Magnenat-Thalmann N, et al. MRI-based assessment of hip joint translations. J Biomech. 2009;42(9):1201-1205.
  4. Foley EC, Bird HA. Hypermobility in dance: asset, not liability. Clin Rheumatol. 2013;32(4):455-461.
  5. Scheper MC, de Vries JE, de Vos R, Verbunt J, Nollet F, Engelbert RHH. Generalized joint hypermobility in professional dancers: a sign of talent or vulnerability? Rheumatology (Oxford). 2013;52(4):651-658.
  6. Steinberg N, Siev-ner I, Peleg S, et al. Extrinsic and intrinsic risk factors associated with injuries in young dancers aged 8–16 years. Journal of Sports Sciences. 2012;30(5):485-495.
  7. Armstrong R, Relph N. Screening Tools as a Predictor of Injury in Dance: Systematic Literature Review and Meta-analysis. Sports Med Open. 2018;4(1):33.
  8. Shan G. Comparison of Repetitive Movements Between Ballet Dancers and Martial Artists: Risk Assessment of Muscle Overuse Injuries and Prevention Strategies. Research in Sports Medicine. 2005;13(1):63-76.
  9. Myers CA, Register BC, Lertwanich P, et al. Role of the Acetabular Labrum and the Iliofemoral Ligament in Hip Stability: An in vitro Biplane Fluoroscopy Study. Am J Sports Med. 2011;39(1_suppl):85-91.
  10. Bonner TF, Colbrunn RW, Bottros JJ, et al. The contribution of the acetabular labrum to hip joint stability: a quantitative analysis using a dynamic three-dimensional robot model. J Biomech Eng. 2015;137(6):061012.
  11. Smith MV, Panchal HB, Ruberte Thiele RA, Sekiya JK. Effect of Acetabular Labrum Tears on Hip Stability and Labral Strain in a Joint Compression Model. Am J Sports Med. 2011;39(1_suppl):103-110.
  12. Harris JD, Gerrie BJ, Varner KE, Lintner DM, McCulloch PC. Radiographic Prevalence of Dysplasia, Cam, and Pincer Deformities in Elite Ballet. Am J Sports Med. 2016;44(1):20-27.
  13. Folci, Marco & Capsoni, Franco. (2016). Arthralgias, fatigue, paresthesias and visceral pain: Can joint hypermobility solve the puzzle? A case report. BMC Musculoskeletal Disorders. 17. 10.1186/s12891-016-0905-2.

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