身体のケア

天然芝と人工芝で怪我の発生率に違いはあるのか?

2021年7月25日

一般的に天然の芝生でスポーツをするほうが怪我が少ないと言われていますが、実際に怪我をしやすいのかどうか?そしてそのメカニズムについて科学的根拠を踏まえつつご紹介していきたいと思います。

 

ポイント

  • 天然の芝よりも人工芝のほうが怪我の発生率が少しばかり高い傾向にあるようです。
  • 人工芝のほうがグリップ力や摩擦力が高く、これによって身体の負荷も高まるようです。
  • 地面の柔らかさも身体への負荷を和らげる要素のひとつと考えられています。

 

 

地面の質による違い

人工芝と天然の芝が違うといっても具体的に何が違うのか?それぞれの要素をみていきましょう。

 

摩擦

摩擦が多いほどより大きな力を発揮しやすくなる一方で、身体に負荷がかかりやすくなったりする可能性があります

芝生スパイク

 

グリップ

科学的には牽引力(Shoe-surface Traction)などと呼ばれますが、分かりやすい言葉にするとグリップ力といったところでしょうか。

(Wannop et al 2019より引用)

  • 一般的には天然の芝生よりも人工芝のほうがグリップ力が高い傾向にあるようです
  • そしてグリップ力が高いと膝や足首の負荷が少しばかり増える傾向にあります
  • グリップ力が高いシューズでは前十字靭帯断裂の発生率が高かったというデータもあるようです

(Lambson et al 1996より引用)

これらの研究結果を要約すると天然の芝生のほうがグリップ力が小さく、身体にかかる負荷も小さくなる可能性があるということになります。

 

硬さ

硬い地面は衝撃吸収してくれず、身体への負荷を高めてしまう可能性があります。

人工芝と天然の芝生を比べた研究は少ないですが、一般的に天然の芝生のほうが地面が柔らかいということに大きな異論はないかと思います。

女子サッカー

そして、ひとくちに硬いといっても様々な種類があり、科学的には剛性や反発係数などで表すこともあります。

さらには人工芝の材質の違いによって影響を受けることもあります

 

天然芝と身体への負荷

天然の芝と比べると人工芝のほうが足への負荷が高い可能性があるようです

サッカーの方向転換

  • ある研究では人工芝と天然芝では足底への圧力が違い、人工芝ではカッティング動作時につま先や小指の圧力が高い傾向にあることが報告されています
  • 天然の芝生が人工芝と比べて前十字靭帯への負荷が軽い傾向にあります。なお研究では献体の前十字靭帯に実際に負荷をかけて調べています。

このように人工芝のほうが身体への負荷が高く、天然芝のほうが身体の負荷が軽いようです。

 

天然芝の怪我の発生率

人工芝と比べると天然芝のほうが怪我の発生率が少ない傾向にあります。

アメフトスタジアム

  • アメフトの10年間の調査では人工芝のほうが膝の怪我が多い傾向にあったそうです。特に後十字靭帯損傷に著しい違いがあったようです。
  • NFLにおける数シーズンの怪我を分析したところ、人工芝のほうが脚の怪我が多い傾向にあったそうです10
  • 一方でサッカーを対象とした研究では怪我の発生率に差はないという報告もあります11
  • 他のサッカーやラグビー、アメフトを対象とした研究ではでは足首の捻挫において差はみられたようですが、膝の怪我には微妙なところのようです12

もしかするとスポーツによって怪我の違いがあるのかもしれませんが、全体的には天然芝よりも人工芝のほうが怪我しやすい傾向にあるということは読み取れるかと思います。

 

前十字靭帯断裂

あらゆる怪我の中でも前十字靭帯断裂は選手生命などへの影響度合い大きいです。

前十字靭帯断裂においてもどちらかというと人工芝のほうが怪我の発生率が少し高い傾向にあるようです。

女子サッカー

  • アメフトにおいて人工芝のほうが前十字靭帯断裂が多いようです13・14
  • 一方でサッカーでは前十字靭帯断裂に違いがなかったという研究結果があります14

 

天然芝でのパフォーマンス

天然芝と人工芝では地面からの反発力や摩擦が違うため、スポーツでのパフォーマンスが微妙に変わることもあります。

サッカーでの方向転換

  • 天然芝のほうが人工芝に比べてスプリントの速度が遅くなる傾向にあるそうです15。これは人工芝が柔らかく地面からの反発をうまく得られないためにスプリント速度が低下してしまうといった可能性が考えられます。
  • 一方で短い距離のダッシュやジグザグの動きではそこまで大きな違いがないという研究結果もあります16

 

考察

天然芝で怪我が減る可能性はありますが、現実的には怪我の発生率はそんなに変わらないという面もあります。

 

先ほど紹介した一部の研究では人工芝では怪我の発生率が数倍に増えるという結果になってるのですが、

具体的には怪我の発生率が1万人に1人のところが2〜3人に増えるという、わずかな違いしかありません9・13

 

つまり、天然芝でスポーツをすれば劇的に怪我が減る、と強く言えるほどの研究結果ではないということに注意が必要です。

 

まとめ

グリップ力や摩擦、地面の柔らかさといった要素により、天然芝では怪我が減る可能性があります。

しかし、天然芝でスポーツをすれば劇的に怪我が減る、と言えるほどのものではないことに注意が必要です。

 

<参考文献>

  1. Dowling AV, Corazza S, Chaudhari AMW, Andriacchi TP. Shoe-surface friction influences movement strategies during a sidestep cutting task: implications for anterior cruciate ligament injury risk. Am J Sports Med. 2010;38(3):478-485. doi:10.1177/0363546509348374
  2. Villwock MR, Meyer EG, Powell JW, Fouty AJ, Haut RC. Football playing surface and shoe design affect rotational traction. Am J Sports Med. 2009;37(3):518-525. doi:10.1177/0363546508328108
  3. Wannop JW, Foreman T, Madden R, Stefanyshyn D. Influence of the composition of artificial turf on rotational traction and athlete biomechanics. J Sports Sci. 2019;37(16):1849-1856. doi:10.1080/02640414.2019.1598923
  4. Lambson RB, Barnhill BS, Higgins RW. Football cleat design and its effect on anterior cruciate ligament injuries. A three-year prospective study. Am J Sports Med. 1996;24(2):155-159. doi:10.1177/036354659602400206
  5. Sánchez-Sánchez J, Gallardo-Guerrero AM, García-Gallart A, Sánchez-Sáez JA, Felipe JL, Encarnación-Martínez A. Influence of the structural components of artificial turf systems on impact attenuation in amateur football players. Sci Rep. 2019;9(1):7774. doi:10.1038/s41598-019-44270-8
  6. Taylor SA, Fabricant PD, Khair MM, Haleem AM, Drakos MC. A review of synthetic playing surfaces, the shoe-surface interface, and lower extremity injuries in athletes. Phys Sportsmed. 2012;40(4):66-72. doi:10.3810/psm.2012.11.1989
  7. Ford KR, Manson NA, Evans BJ, et al. Comparison of in-shoe foot loading patterns on natural grass and synthetic turf. J Sci Med Sport. 2006;9(6):433-440. doi:10.1016/j.jsams.2006.03.019
  8. Drakos MC, Hillstrom H, Voos JE, et al. The effect of the shoe-surface interface in the development of anterior cruciate ligament strain. J Biomech Eng. 2010;132(1):011003. doi:10.1115/1.4000118
  9. Loughran GJ, Vulpis CT, Murphy JP, et al. Incidence of Knee Injuries on Artificial Turf Versus Natural Grass in National Collegiate Athletic Association American Football: 2004-2005 Through 2013-2014 Seasons. Am J Sports Med. 2019;47(6):1294-1301. doi:10.1177/0363546519833925
  10. Mack CD, Hershman EB, Anderson RB, et al. Higher Rates of Lower Extremity Injury on Synthetic Turf Compared With Natural Turf Among National Football League Athletes: Epidemiologic Confirmation of a Biomechanical Hypothesis. Am J Sports Med. 2019;47(1):189-196. doi:10.1177/0363546518808499
  11. Ekstrand J, Timpka T, Hägglund M. Risk of injury in elite football played on artificial turf versus natural grass: a prospective two‐cohort study. Br J Sports Med. 2006;40(12):975-980. doi:10.1136/bjsm.2006.027623
  12. Williams S, Hume PA, Kara S. A review of football injuries on third and fourth generation artificial turfs compared with natural turf. Sports Med. 2011;41(11):903-923. doi:10.2165/11593190-000000000-00000
  13. Dragoo JL, Braun HJ, Harris AHS. The effect of playing surface on the incidence of ACL injuries in National Collegiate Athletic Association American Football. The Knee. 2013;20(3):191-195. doi:10.1016/j.knee.2012.07.006
  14. Gc B, Gj P, Am B, A P, Dj K, Jp R. Risk of Anterior Cruciate Ligament Injury in Athletes on Synthetic Playing Surfaces: A Systematic Review. The American journal of sports medicine. 2015;43(7). doi:10.1177/0363546514545864
  15. Sanchez-Sanchez J, Martinez-Rodriguez A, Felipe JL, et al. Effect of Natural Turf, Artificial Turf, and Sand Surfaces on Sprint Performance. A Systematic Review and Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(24). doi:10.3390/ijerph17249478
  16. Stone KJ, Hughes MG, Stembridge MR, Meyers RW, Newcombe DJ, Oliver JL. The influence of playing surface on physiological and performance responses during and after soccer simulation. Eur J Sport Sci. 2016;16(1):42-49. doi:10.1080/17461391.2014.984768

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