ランニング

スプリンターのふくらはぎの筋肉について

2025年4月29日

 

100m走のトップ選手を見ると、大きく発達した太ももに比べて、ふくらはぎの筋肉は意外と細く見えることがあります。

速く走るためにはふくらはぎの筋肉は必要ないのでは?と思うことがあるかもしれません。

ここでスプリンターのふくらはぎの筋肉の特徴や効果的な鍛え方について、科学的根拠を交えながら解説していきたいと思います。

 

スプリント走におけるふくらはぎの役割

パワーの連動性

スプリント走ではふくらはぎの筋肉などの足首の関節によるパワー発揮が重要になります。

スプリント走の加速局面における足首の関節のトルク(負荷)はタイムに関係していて、股関節や膝関節よりも足首の関節にかかる負荷が大きいことが報告されています

これはふくらはぎの筋肉による筋力発揮だけでなく、股関節などで生み出したパワーも足首を通して地面に伝わることが関係しています。

このため足首がぐらついてしまうと、地面に力がうまく伝わりにくくなる可能性があります。

ふくらはぎの筋肉

 

アキレス腱のバネ

アキレス腱とふくらはぎの筋肉

ふくらはぎの延長上にアキレス腱が付着しているため、ふくらはぎの筋肉はアキレス腱の働きと密接な関わりがあります。

アキレス腱は地面に力を伝える際に、バネのようにエネルギーを蓄えて解放する重要な役割があり、実際にアキレス腱の大きさや硬さがスプリント走の加速力と関連していることが報告されています

そして、アキレス腱を強化する際には、ふくらはぎの筋肉のトレーニングを通してアキレス腱に負荷をかけていくことが基本となります。

 

スプリンターのふくらはぎの筋肉の特徴

筋肉量

スプリンターのふくらはぎは一般の人と比べると大きく発達していますが、それがスプリント走のタイムに直結するわけではありません。

スプリンターのふくらはぎの筋肉の体積をMRIで計測した研究では、100m走のタイムに影響しないという研究結果が複数報告されています4~6

このことからスプリンターはふくらはぎの筋肉を肥大化させればいい、というほど単純な話ではないかと思います。

スプリント走

(Depositphotos)

)スプリンターのふくらはぎは意外と細いと言われることもあり、身体の遠位部に重量があると脚が回転しにくくなるといったデメリットもあります。

例えるならば、先端に重りがあるバットは振りにくく、重心が手元に近いバットのほうが振りやすいというイメージです。

 

速いスピードでの筋収縮

スプリンターのふくらはぎは高重量を持ち上げるような筋肉というよりも、短い時間での素早い瞬発的な筋力発揮が求められます。

スプリンターのふくらはぎの筋肉は筋線維の束(筋束)が長い傾向にあり、これは速いスピードでの筋力発揮に優れていることを示しています

例えるならば、ゴムが長く伸びるほど素早く縮んで大きな力を生み出すことができる、といったイメージです。

パリオリンピック100m走

(Depositphotos)

 

スプリンターのふくらはぎの鍛え方について

パワーの強化

スプリンターのふくらはぎの鍛え方については賛否両論ありますが、ふくらはぎを鍛える際には筋肥大ではなく、瞬発力を高めることがポイントになるかと思います。

ボディービルダーのようなふくらはぎの筋肉ではなく、地面からの反発力を高めるようにバネで跳ねるような強靭な足首に仕上げることが大事になります。

というのもスプリント走のスピードが速まるほど地面との接地時間が短くなっていくため、大きな筋肉を持っていていても地面に力をうまく加えることが難しくなります。

高重量のカーフレイズで鍛えていくというよりも、ジャンプトレーニングやプライオメトリクスなど、素早い動きで反発力を高めるトレーニングが大切です。

スプリンター足首
足首を固める走り方がパフォーマンス向上につながる

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安定性

地面からの反発力を活かすためには足首がぐらつかないように、安定性を高めていくことも重要になります。

足首の安定性を高めるためにはふくらはぎの筋肉だけでなく、足首周りの多様な筋肉をバランスよく鍛えていくことが役立ちます。

前脛骨筋

一見するとスプリント走に関係ないと思うような筋肉であったとしても、影で走る動作を支えていたりします。

こういった細かい部分もしっかりと鍛えていくことで、地面からの力がうまく伝わりやすくなり、バネを使った走りに近づいていきます。

 

まとめ

スプリンターはふくらはぎの筋肉量が多いほどスプリント走のタイムがいいわけではありません。

スプリンターのふくらはぎは高重量を持ち上げるというよりも、短い時間の素早い筋力発揮に優れた筋繊維をしています。

スプリント走のタイムを改善するためには、瞬発力を鍛えることが大事になります。

 

<参考文献>

  1. Dowson MN, Nevill ME, Lakomy HK, Nevill AM, Hazeldine RJ. Modelling the relationship between isokinetic muscle strength and sprint running performance. J Sports Sci. 1998 Apr;16(3):257-65. doi: 10.1080/026404198366786. PMID: 9596360.
  2. Schache AG, Lai AKM, Brown NAT, Crossley KM, Pandy MG. Lower-limb joint mechanics during maximum acceleration sprinting. J Exp Biol. 2019 Nov 25;222(Pt 22):jeb209460. doi: 10.1242/jeb.209460. PMID: 31672729.
  3. Monte A, Zamparo P. Correlations between muscle-tendon parameters and acceleration ability in 20 m sprints. PLoS One. 2019 Mar 8;14(3):e0213347. doi: 10.1371/journal.pone.0213347. PMID: 30849114; PMCID: PMC6407765.
  4. Miller R, Balshaw TG, Massey GJ, Maeo S, Lanza MB, Johnston M, Allen SJ, Folland JP. The Muscle Morphology of Elite Sprint Running. Med Sci Sports Exerc. 2021 Apr 1;53(4):804-815. doi: 10.1249/MSS.0000000000002522. PMID: 33009196.
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  6. Sugisaki N, Kobayashi K, Tsuchie H, Kanehisa H. Associations Between Individual Lower-Limb Muscle Volumes and 100-m Sprint Time in Male Sprinters. Int J Sports Physiol Perform. 2018 Feb 1;13(2):214-219. doi: 10.1123/ijspp.2016-0703. Epub 2018 Feb 13. PMID: 28605265.
  7. Kumagai K, Abe T, Brechue WF, Ryushi T, Takano S, Mizuno M. Sprint performance is related to muscle fascicle length in male 100-m sprinters. J Appl Physiol (1985). 2000 Mar;88(3):811-6. doi: 10.1152/jappl.2000.88.3.811. PMID: 10710372.
  8. Drazan JF, Hullfish TJ, Baxter JR. Muscle structure governs joint function: linking natural variation in medial gastrocnemius structure with isokinetic plantar flexor function. Biol Open. 2019 Dec 16;8(12):bio048520. doi: 10.1242/bio.048520. PMID: 31784422; PMCID: PMC6918776.

 

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