ランニングで腸腰筋が重要であるという話を耳にしたことがあるかもしれません。
腸腰筋を鍛えることはパフォーマンス向上に役立ちますが、ここで腸腰筋とランニングのメカニズムについてご紹介していきたいと思います。
腸腰筋とは?
腸腰筋(ちょうようきん)とは、腰椎、骨盤、大腿骨をつなぐ筋肉群の総称です。
腸腰筋は股関節の屈曲(足を上げる動作)、体幹の安定、姿勢の維持など、様々な動作に関わっています。
腸腰筋が注目された背景
9秒台で走る世界トップクラスのスプリンターと日本人のスプリンターを比べると、世界トップクラスのスプリンターは腸腰筋が大きく発達していたことで徐々に注目が集まりました。
2008年3月9日にNHKで放送された番組にて、当時の世界一のスプリンターと日本一のスプリンターを比べた時に腸腰筋の大きさが違うと紹介されたことがあります。
しかし、NHKの番組では正確な腸腰筋の体積は算出されておらず、正確な情報は明らかにされていません。
加えてNHKの番組ではMRI断面図が身体の違う部分を映し出している可能性があり、腸腰筋に関して大きな疑問が残る形になっています。
腸腰筋とパフォーマンス
スプリンター
100m走のタイムが10.8秒台のスプリンターと比べると100m走が10.1台のスプリンターは腸腰筋が約8%ほど大きかったことが報告されています1。
また、スプリンターと一般の人を比べた研究ではスプリンターの腸腰筋は約1.4倍大きいことが報告されています1・2。
このようにトップレベルのスプリンターの腸腰筋は大きく発達しています。
そして100m走のタイムが速い選手ほど腸腰筋が大きい傾向にあることも報告されており1~3、腸腰筋はスプリント走のパフォーマンスに役立つと考えられます。
長距離ランナー
腸腰筋は短距離のスプリンターだけでなく、中長距離ランナーのパフォーマンスにも影響を与える可能性があります。
ある研究では腸腰筋が強いランナーのほうが少ない酸素消費量で効率的に走ることができ、ランニングエコノミーが良い傾向にあることが報告されています4。
腸腰筋とランニングのメカニズム
慣性モーメント
腸腰筋が強いと速く走れる理由として、ランニング時に脚が後方に流れることを防ぐことができることが挙げられます。
これは物理学で慣性モーメントなどと呼ばれ、回転の半径が小さいと抵抗が小さくなり、回転を速くすることができるという仕組みが関係しています。
ランニングにおいて脚が後方に残ってしまっていると、身体を小さくコンパクトにまとめることができず、回転の半径が長くなり慣性モーメントによる抵抗が大きくなってしまい、足が回転するスピードが遅くなってしまいます。
ここで腸腰筋が強いと脚を素早く前方に引き付けることができ、身体をコンパクトに使うことができるため、慣性モーメントによる抵抗が小さくなり効率的に走ることができます。
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ランニングのピッチ
腸腰筋はランニングのピッチ(1分間あたりの歩数)に関係していて、腸腰筋が強いスプリンターはピッチが多くなる傾向にあることが報告されています5。
ランニングフォームを分析し、ピッチが少ない選手は腸腰筋がうまく使えていない可能性があります。
この場合には腸腰筋を鍛えることでランニングのピッチを改善し、パフォーマンス向上を図ることができます。
腸腰筋のトレーニング
腸腰筋を鍛える場合には、ランニングのように脚を前方に引き付けるような動きでのトレーニングがに役立ちます。
チューブを使って負荷をかけることもひとつの方法ですし、上体を前傾姿勢にして行うこともひとつのバリエーションになります。
ランニングに向けたより実践的な腸腰筋のトレーニングには、着地した瞬間に反対の脚を素早く前に出すというものがあります。
これは走る時の動きのリズムや感覚を養う練習でもあり、走っているときに腸腰筋を機能させるのに役立ちます。
腸腰筋のストレッチ
腸腰筋を鍛えてばかりいると筋肉が硬くなったり、動きが悪くなったりすることがあるため、腸腰筋のストレッチも忘れてはいけません。
前足の膝を曲げた状態で脚を前後に広げることで腸腰筋をストレッチすることができます。
また、脚を胸に引き付けるようなストレッチをすることで、脚を滑らかに動かしやすくなります。
ただし、脚を引き付けた時に股関節が詰まる感覚がある場合にはストレッチが効きにくくなります。
これは腸腰筋に対して拮抗筋となる大臀筋や中殿筋などの筋肉が弱い可能性があり、バランスよく筋肉をつけることが股関節の詰まりを解消するポイントになります。
まとめ
スプリント走のタイムが速い選手ほど腸腰筋が発達している傾向にあり、腸腰筋が強いことで素早く脚を前に引き付けることができ、効率的な走り方につながります。
腸腰筋を鍛えることはランニングのパフォーマンスの向上に役立ちます。
<参考文献>
- Miller R, Balshaw TG, Massey GJ, Maeo S, Lanza MB, Johnston M, Allen SJ, Folland JP. The Muscle Morphology of Elite Sprint Running. Med Sci Sports Exerc. 2021 Apr 1;53(4):804-815. doi: 10.1249/MSS.0000000000002522. PMID: 33009196.
- Tottori N, Suga T, Miyake Y, Tsuchikane R, Tanaka T, Terada M, Otsuka M, Nagano A, Fujita S, Isaka T. Trunk and lower limb muscularity in sprinters: what are the specific muscles for superior sprint performance? BMC Res Notes. 2021 Feb 25;14(1):74. doi: 10.1186/s13104-021-05487-x. PMID: 33632290; PMCID: PMC7908676.
- Ema R, Sakaguchi M, Kawakami Y. Thigh and Psoas Major Muscularity and Its Relation to Running Mechanics in Sprinters. Med Sci Sports Exerc. 2018 Oct;50(10):2085-2091. doi: 10.1249/MSS.0000000000001678. PMID: 30222688.
- Silva WA, de Lira CAB, Vancini RL, Andrade MS. Hip muscular strength balance is associated with running economy in recreationally-trained endurance runners. PeerJ. 2018 Jul 24;6:e5219. doi: 10.7717/peerj.5219. PMID: 30065859; PMCID: PMC6063213.
- Tottori N, Suga T, Miyake Y, Tsuchikane R, Otsuka M, Nagano A, Fujita S, Isaka T. Hip Flexor and Knee Extensor Muscularity Are Associated With Sprint Performance in Sprint-Trained Preadolescent Boys. Pediatr Exerc Sci. 2018 Feb 1;30(1):115-123. doi: 10.1123/pes.2016-0226. Epub 2017 Oct 20. PMID: 28787247.