速いペースで泳いでいると、息が苦しい…と感じた経験があるかと思います。
タイムを縮めようとすればするほど心肺機能への負担は増大し、その息苦しさがパフォーマンス低下の大きな要因となることがあります。
ここで水泳の呼吸の苦しさを根本から改善するための、効果的なトレーニング方法をご紹介します
水泳の呼吸方法について
鼻で吐き出す方法
水泳の呼吸方法には口から息を吸い、口から息を吐き出す方法と、鼻から息を吐き出す方法があります。
こういった口で息を吸い込んで鼻から息を吐き出す、あるいは口から息を吐きだすといった呼吸方法の違いで水泳のパフォーマンスには大きな影響がないことが報告されています1。
しかし、鼻で吐き出す呼吸法を週に2回を8週間継続することで水泳のパフォーマンスが改善したという研究結果があり、25mを34秒かかっていたものが約1秒改善したことが報告されています1。
これは意識的に鼻で息を吐きだすことを継続したことによって、普段使っていない呼吸の筋肉が鍛えられ、水泳のパフォーマンス向上につながったと考えられます。
呼吸回数の制限をした泳ぎ
クロールのストロークの3回に1度呼吸をする、といった呼吸回数を制限した泳ぎ方があります。
泳いでいるときの呼吸の回数を減らすことで、心肺機能に大きな負荷がかかり、こういった呼吸制限による練習を続けることで呼吸筋が鍛えられる可能性があります。
このトレーニングは特に水泳初心者の方に大きな効果が期待できます。
実際に、初心者を対象とした研究では、週3回の練習を4週間継続することで、肺活量が約4%増加したことが報告されています2。
ただし、長年の経験を持つスイマーにおいては、呼吸筋がすでに発達しているため、この呼吸回数を制限した泳ぎ方による効果は限定的になります。
腹式呼吸
腹式呼吸にすることで水泳の呼吸の効率が良くなると言われています。
腹式呼吸は、横隔膜を大きく動かすことで、腹直筋や腹斜筋といった体幹の深層筋を効果的に活用します。
これにより深く力強い呼吸が可能となり、水泳中の酸素摂取効率を高め、パフォーマンス向上に繋がります。
また、腹式呼吸は水泳における泳ぎのテクニックやフォームを改善させる可能性があります。
胸で呼吸する胸式呼吸に比べて、腹式呼吸は重心と浮心のバランスを整え、足の沈みを抑える効果があると報告されています3。
これにより水中での水平姿勢を保ちやすくなり、水の抵抗を減らして効率的な泳ぎに繋がります。
呼吸の仕方を変えるメリットとデメリット
水泳の呼吸法には様々なアプローチがあり、それぞれにメリットとデメリットが存在します。
水泳の呼吸方法に関する研究結果を踏まえると、呼吸方法を変えることによる即効性は弱いことが多いのですが、継続することで普段使っていない呼吸の筋肉が鍛えられ、パフォーマンス向上につながる可能性が示されています。
しかし、呼吸方法を変えることによる恩恵が大きいのは水泳初心者であり、呼吸方法を変えるだけでは呼吸の筋肉を鍛えることには限界があります。
呼吸方法の変更だけでは、呼吸筋に段階的な負荷をかけ続けることが難しく、呼吸筋そのものの絶対的な筋力を大幅に強化しにくいという欠点があります。
そして、呼吸方法は泳ぎのフォームやテクニックに関連しているため、水の抵抗が少なく効率的なフォームにする最適な方法は人によって異なってきます。
呼吸トレーニング
トレーニング効果
水泳における呼吸の苦しさを改善するためには呼吸の筋肉を鍛えることが大切です。
呼吸筋は主に横隔膜や肋間筋、さらには腹筋群や体幹の筋肉などの多くの筋肉の働きが関与しています。
筋トレのように呼吸自体に負荷をかけて呼吸トレーニングを行い、段階的に呼吸に対する負荷を高めていくことがポイントになります。
呼吸の筋肉が強くなることで肺活量が増えますし、一度の呼吸でより多くの酸素を取り込むことができるようになり、水泳の呼吸が楽にできるようになります。
実際に6週間の呼吸筋トレーニングによって100mを平均で約64秒だった水泳選手が約1~2秒タイムを縮めていることが報告されています4。
そこそこ速いレベルの水泳選手でも、筋トレのように段階的に呼吸に負荷をかけていくことで呼吸の筋肉が強化され、パフォーマンス向上につながります。
ただし、よりレベルの高いエリート選手になると呼吸の筋力がもともと強いため、呼吸トレーニングによる効果は小さく、タイムが改善しにくくなります5。
トレーニングの道具
呼吸筋のトレーニングに使う道具はパワーブリーズと呼ばれる商品が有名で人気があり、スポーツ科学の研究でも使われることが多い印象です。
(画像:パワーブリーズ公式ウェブサイトより)
パワーブリーズ以外の商品でも科学的根拠が確認できているものが複数あり6、呼吸筋を鍛える器具には様々な選択肢があり、特定の商品でなければいけないということはありません。
パワーブリーズはブランド力や信頼性がありますが価格が高く、他の商品は比較的お手頃な値段で購入しやすい価格設定になっています。
しかし、これらの商品の多くは負荷の設定に限りがあるというデメリットがあります。
パワーブリーズは呼吸の負荷をより高い強度に設定することができ、呼吸の筋肉を徹底的に強くしたいという人にはオススメです。
トレーニングメニュー
呼吸トレーニング器具を使ったトレーニングには様々な方法があります。
まず基本となるトレーニングは器具を使って30回呼吸をするというものです。1日に1~2回を週に複数回行います。
最初は負荷を弱めに設定し、慣れてきたら徐々にトレーニング器具の負荷を高めに設定していきます。
そして、呼吸トレーニングの回数や時間設定を変えることで、トレーニングのバリエーションを広げることができます。
- 30秒間できるだけ力強く呼吸する
- 1分間強めの呼吸を繰り返す、1分間休憩して3~5セット行う
- 3分間そこそこの強さの呼吸を維持、1~2分休憩して3セット行う
- 10分~20分と中程度の強さの呼吸を維持する
競技の特性や目標とする大会の距離に合わせてトレーニングメニューを組み合わせ、鍛え方にバリエーションを持たせることが、より効果的な水泳パフォーマンス向上につながります。
まとめ
水泳の呼吸方法は息苦しさや泳ぎのフォーム、パフォーマンスに関係してきます。
呼吸筋を鍛えるには段階的に呼吸の負荷を高めていくことがポイントであり、呼吸トレーニング器具を使うことで呼吸筋を強化することができ、水泳での呼吸の苦しさやタイムの改善につながります。
<参考文献>
- Cevi̇z, Ebru. (2024). The Effect of 3 Breathing Techniques on 25 m Freestyle Swimming Performance Level in Swimming Branch. Turkish Journal of Sport and Exercise. 26. 574-583. 10.15314/tsed.1498030.
- Lavin KM, Guenette JA, Smoliga JM, Zavorsky GS. Controlled-frequency breath swimming improves swimming performance and running economy. Scand J Med Sci Sports. 2015 Feb;25(1):16-24. doi: 10.1111/sms.12140. Epub 2013 Oct 24. PMID: 24151982.
- Yusuke Maruyama, Shoji Konda, Toshimasa Yanai, Influence of breathing technique on the center of mass and center of buoyancy: Its implications for horizontal alignment during swimming, Taiikugaku kenkyu (Japan Journal of Physical Education, Health and Sport Sciences), 2012, Volume 57, Issue 2, Pages 641-651
- Kilding AE, Brown S, McConnell AK. Inspiratory muscle training improves 100 and 200 m swimming performance. Eur J Appl Physiol. 2010 Feb;108(3):505-11. doi: 10.1007/s00421-009-1228-x. Epub 2009 Oct 16. PMID: 19841931.
- Gómez-Albareda E, Viscor G, García I. Inspiratory Muscle Training Improves Maximal Inspiratory Pressure Without Increasing Performance in Elite Swimmers. Int J Sports Physiol Perform. 2023 Feb 8;18(3):320-325. doi: 10.1123/ijspp.2022-0238. PMID: 36754056.
- HajGhanbari B, Yamabayashi C, Buna TR, Coelho JD, Freedman KD, Morton TA, Palmer SA, Toy MA, Walsh C, Sheel AW, Reid WD. Effects of respiratory muscle training on performance in athletes: a systematic review with meta-analyses. J Strength Cond Res. 2013 Jun;27(6):1643-63. doi: 10.1519/JSC.0b013e318269f73f. PMID: 22836606.
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