ランニング

スプリンターの大臀筋の鍛え方について

2025年2月8日

 

大臀筋の役割

大臀筋スプリント走における大臀筋の役割は強力な推進力を生み出すことであり、特に足を後方へ蹴り出す股関節の伸展の動作にあります。

大臀筋は体の中でも最も大きく強力な筋肉の一つであり、主に股関節の伸展を担います。

加速局面や最高速度に達した後でも、この推進力の生成において大臀筋は極めて重要になります

 

スプリンターの大臀筋

筋肉量

大臀筋の筋肉量は100m走のタイムに関係していて、大臀筋の筋肉量を増やすことは重要です

100m走のタイムが10.1秒台のスプリンターは、10.8秒台のスプリンターと比べると大臀筋が約40%ほど大きいという研究結果が報告されています

脚や体幹などの多くの筋肉の中でも大臀筋はスプリント走のタイムとの関連性が強い筋肉であり、スプリント走のパフォーマンスを高めるには大臀筋を強化することが大切になります。

スプリンター

 

筋力発揮

大臀筋は筋肥大させることに加えて、素早い筋力発揮を鍛えることも大切です。

というのもランニングで大臀筋の活動量が大きく増えるのは、時速25kmを超えるようなスピードになってからであり、ピッチ(回転数)が上がり始めると大臀筋の働きが大きくなります

スプリント走では1秒間に4回弱ほど地面に接地するような速い足の回転となり、そういった素早い脚の動きの中で大臀筋が筋力発揮することになります。

このため重いものをゆっくり持ち上げるような筋力だけではなくて、素早く動かすような筋力も鍛えておいたほうがよいでしょう。

 

大臀筋の筋力トレーニング

スクワット

脚を鍛える王道のエクササイズと言えばスクワットですが、ハーフスクワットよりもフルスクワットのほうが大臀筋に効かせることができます

スクワット

とはいえスプリント走ではフルスクワットのように深く腰を落とすような姿勢にはならないため、スプリント走の姿勢に近いハーフスクワットに取り組むことも役立ちます。

フルスクワットほどではありませんが、ハーフスクワットでも大臀筋を鍛えることができます5・6

ウサインボルトやノアライルズといった100m走の金メダリストはフルスクワットもハーフスクワットも両方取り組んでいる模様です。

スクワット

ウサインボルトやノアライルズはハーフスクワットが体重の3倍弱、フルスクワットが体重の2倍弱といった数値であり、一般の人からするとかなり強靭に鍛え上げられています。

しかし、100m走の金メダリストとはいえウェイトトレーニングがそこまで得意というわけではなく、ウェイトトレーニングの重量だけならもっと優れた選手が存在します。

というのもスクワットは一定のラインを超えると、スプリント走のパフォーマンスにつながりにくくなってくるわけであり、スクワットの重量が全てが決まるわけではありません。

 

ヒップスラスト

ヒップスラストのトレーニングは大臀筋に効かせることができます。

スクワットと比べるとヒップスラストは同程度か、少しばかり大臀筋を鍛える効果が大きいことが報告されています

ヒップスラスト

スプリント走の加速において重要なのは地面を後方に強く蹴る「水平方向への推進力」ですが、

ヒップスラストは水平方向の筋力発揮を鍛えるのに優れていて、ヒップスラストの挙上重量はスタートの加速との関連性が強いことが報告されています

 

レッグプレス

レッグプレスのマシンを使ったトレーニングも大臀筋を鍛えることができます

レッグプレス

一般的にはフリーウェイトによるトレーニングのほうが好まれることが多いですが、フリーウェイトとマシントレーニングを比べた時に筋肉量の増加や筋力強化、ジャンプ力の向上といった効果に大きな違いはないことが報告されています10

レッグプレスにおいても股関節を深く曲げることで、大臀筋により効かせることができます。

 

ヒップリフト

仰向けになった状態でお尻を上げるヒップリフトのエクササイズも大臀筋を鍛えることができます。

片足でヒップリフト行うと負荷を高めることができ、大臀筋により効かせることができます。

ヒップリフト

しかし、ヒップリフトのエクササイズは重量が限られているため、慣れてくるとウォームアップ程度のエクササイズにしかならないという欠点があります。

 

ステップアップ

階段やベンチなどに足を着いて身体を持ち上げるステップアップのエクササイズは大臀筋の活動量が大きいと言われています10

ステップアップ

一方で片足で体重を支えることになるため、重量が増えてくると不安定になり、高重量でのトレーニングが行いにくいという欠点があります。

ステップアップは重量だけにこだわらずに、勢いをつけてそのままジャンプするなどのバリエーションを取り入れることが役立ちます。

 

爆発的動作による大臀筋トレーニング

坂道ダッシュ

坂道ダッシュは大臀筋を鍛えるのに役立ちます。

上り坂では股関節を深く曲げることになり、大臀筋の活動量が増えますし、坂を駆け上がるため負荷がかかりやすくなります。

スプリント走に限りなく近い動作で大臀筋に効かせることができ、実戦的な筋力を身につけることができることもメリットです。

上り坂ダッシュ
坂道ダッシュの効果と怪我のリスク

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スレッド走

重い重量があるスレッドを押す、あるいは重いタイヤを引っ張るといったスレッド走は大臀筋を鍛えることができます。

スレッドトレーニング

前傾姿勢になった状態でのトレーニングは大臀筋が使われやすくなりますし、スプリント走の加速に近い姿勢で大臀筋を鍛えることができるというのも利点です。

 

まとめ

大臀筋はスプリント走で極めて重要な筋肉であり、大臀筋を鍛えることでパフォーマンス向上につながります。

大臀筋を鍛える際には筋肉量を増やすことに加えて、スプリント走に近い動作でのトレーニングや素早い筋力発揮なども鍛えていくことが大切です。

 

<参考文献>

  1. Yoshimoto T, Chiba Y, Ohnuma H, Yanaka T, Sugisaki N. Measuring Muscle Activity in Sprinters Using T2-Weighted Magnetic Resonance Imaging. Int J Sports Physiol Perform. 2022 May 1;17(5):774-779. doi: 10.1123/ijspp.2021-0327. Epub 2022 Mar 2. PMID: 35235903.
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  6. Krause Neto W, Krause TLV, Gama EF. The impact of resistance training on gluteus maximus hypertrophy: a systematic review and meta-analysis. Front Physiol. 2025 Apr 10;16:1542334. doi: 10.3389/fphys.2025.1542334. PMID: 40276368; PMCID: PMC12018462.
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  11. Neto WK, Soares EG, Vieira TL, Aguiar R, Chola TA, Sampaio VL, Gama EF. Gluteus Maximus Activation during Common Strength and Hypertrophy Exercises: A Systematic Review. J Sports Sci Med. 2020 Feb 24;19(1):195-203. PMID: 32132843; PMCID: PMC7039033.
  12. Vernillo G, Giandolini M, Edwards WB, Morin JB, Samozino P, Horvais N, Millet GY. Biomechanics and Physiology of Uphill and Downhill Running. Sports Med. 2017 Apr;47(4):615-629. doi: 10.1007/s40279-016-0605-y. PMID: 27501719.

 

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