ランニング

スプリンターのハムストリングスの鍛え方について

2025年1月10日

 

ハムストリングスの筋肉の役割

ハムストリングスは太ももの裏側にある筋肉であり、膝を曲げたり、脚を後ろに伸ばす股関節の伸展といった機能があります。

ハムストリングス

スプリント走においてハムストリングスは地面を強く蹴り出す際に股関節を伸ばす役割があり、ハムストリングスの筋力が前方向への推進力を生み出す重要な筋肉であり、水平方向への推進力と最も関係している筋肉であるという報告もあります

また、トップスピードに乗った時にもハムストリングスの役割は重要であり、足が地面に着地する直前にハムストリングスは急激に伸ばされながらも収縮するエキセントリック収縮という働きをします。この筋力発揮が地面の反発力を活かし、トップスピードを維持するのに重要になります。

 

スプリンターのハムストリングスの筋肉

筋肉量

ハムストリングスの筋肉量はスプリント走のタイムに関係していて、ハムストリングスの筋肉量が多いほどスプリント走のタイムが良い傾向にあります2・3

100m走のタイムが10.1秒台のスプリンターは、10.8秒台のスプリンターと比べると、ハムストリングスが約20~30%ほど大きいことが報告されています

スプリント走スタート

ハムストリングスの部位によってスタートダッシュ、トップスピードへの関連性が違うことも報告されています。ハムストリングスは複数の筋肉で構成されているため、トレーニングを複数組み合わせてバランスよく鍛えることも大事になるかと思います。

一方でハムストリングスの筋肉量は必ずしも100m走のタイムと関係しているわけではないケースもあり、ただ筋肥大させるだけでハムストリングスの筋肉の力を最大限に引き出せるわけではありません。

 

素早い筋力発揮

スプリント走のパフォーマンスを高めるためにはハムストリングスの筋肉を大きくするだけでなく、素早い筋力発揮を強化することも大事になります。

実際にハムストリングスのエキセントリック収縮の筋力が30m走のタイムや100m走のトップスピードに関係してることが報告されています6~8

スプリント走トップスピード

(Depositphotos)

このためハムストリングスを鍛える際には、重いものをゆっくり持ち上げるだけではなく素早く持ち上げること、そして、降ろす動作を丁寧に行うことなどもポイントになってきます。

 

柔軟性

柔軟性が高いほど優れたパフォーマンスを発揮できるという考え方がありますが、スプリント走においてはハムストリングスの柔軟性はタイムにあまり関係ないことが報告されています

このためストレッチでハムストリングスの柔軟性を高めても、パフォーマンス向上はあまり期待できません。

ストレッチ

 

ハムストリングスのトレーニング

スクワット

スクワットは下半身の筋力を総合的に鍛える優れたエクササイズですが、スクワットではハムストリングスの筋肉量があまり増えないことが報告されています10

スクワットでは大腿四頭筋や大臀筋などの筋肉が使われやすく、ハムストリングスは補助的にしか働きません。

スクワット

 

デッドリフト

デッドリフトは全身の筋肉を鍛えるエクササイズであり、ハムストリングスの筋肉を鍛えるのにも役立ちます。

特に前傾姿勢のほうがハムストリングスの筋肉の活動量が増えやすくなります11

一方で深い前傾姿勢でのデッドリフトは腰への負担が大きく、腰痛のリスクが大きくなるので注意しながら取り組む必要があります。デッドリフト

 

レッグカール

レッグカールはハムストリングスの筋肉に集中的に効かせることができます。

レッグカール

レッグカールにはうつ伏せと座位のマシンがありますが、座った状態でのレッグカールのほうがハムストリングスの筋肉量が増えることが報告されています12

うつ伏せのレッグカールのほうが重い重量を持ち上げることができますが、ハムストリングスの可動域が小さく、ハムストリングスが伸ばされた状態での負荷がかかりにくいため筋肉量が増えにくくなります。

これはハーフスクワットのほうが重い重量を持ち上げられるけれども、そこまで筋肉に効かせることができないことに似ています。

レッグカール

 

ノルディックハムストリングス

ノルディックハムストリングスはハムストリングスを引き伸ばしながら筋力発揮をするため、エキセントリック収縮の筋力を強化できるというメリットがあります。

このためスプリント走のパフォーマンス向上などに役立つ、実戦的な筋力を鍛えるのに役立ちます。

ノルディックハムストリングスのエクササイズ

しかし、ノルディックハムストリングスはしばらくすると筋肉の成長が停滞しやすいことが報告されています13

体幹が不安定でブレやすいことや、段階的に負荷をあげていくことが難しいことなどが関係していると考えられます。

(Maeo et al 2024)

 

ヒップリフト

ヒップリフト

仰向けに寝た状態でお尻を上げるヒップリフトのエクササイズはハムストリングスの筋肉を鍛えるのに役立ちます。

足の位置を身体から遠くに離すほどハムストリングスに効かせやすくなります14

片足でのヒップリフト、バランスボールを使ったヒップリフトなどのバリエーションがあります。

 

グライダー

(Marušič et al 2020)

後ろ脚にタオルなどを置いた状態で、後ろ脚を後方に滑らせるように広げていくグライダーのエクササイズもハムストリングスを鍛えるのに役立ちます。

このエクササイズでは前足のハムストリングスが引き伸ばされながら働くため、エキセントリック収縮の筋力を鍛えられるというメリットがあります15

 

ハムストリングスの肉離れ

スプリント走のトレーニングはハムストリングスを酷使することが多く、肉離れを引き起こすことが珍しくありません。

肉離れは回復するのに意外と時間がかかり、競技復帰するのに1カ月以上かかることも多々あります。

ハムストリングスの肉離れ

肉離れを防ぐためにはハムストリングスの筋肉を鍛えることが重要なのですが、特にエキセントリック収縮の筋力不足がスプリンターの肉離れにつながりやすいことが報告されています16

このため単にハムストリングスを筋肥大させるだけではなく、ハムストリングスが引き伸ばされた状態での筋力発揮も強化していくことが大切になります。

 

また、スプリント走を繰り返しているとハムストリングスが疲労しやすく、大臀筋に頼りがちになることが報告されています17

ハムストリングスの筋持久力を鍛えることも肉離れの予防のポイントになります。

 

このように肉離れの予防にはハムストリングスを強化していくことが大事なのですが、過度なトレーニングを行うとダメージが蓄積し、肉離れを引き起こしてしまうリスクもあります。

このため過剰な負荷にならないように注意しながら、少しずつハムストリングスを強化していくことが大切になります。

スプリント走
肉離れのリハビリとトレーニング

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まとめ

ハムストリングスはスプリント走の加速やトップスピードを高めるのに重要な筋肉であり、筋肉量を増やすだけでなく素早い筋力発揮を鍛えることが重要になります。

 

<参考文献>

  1. Morin JB, Gimenez P, Edouard P, Arnal P, Jiménez-Reyes P, Samozino P, Brughelli M, Mendiguchia J. Sprint Acceleration Mechanics: The Major Role of Hamstrings in Horizontal Force Production. Front Physiol. 2015 Dec 24;6:404. doi: 10.3389/fphys.2015.00404. PMID: 26733889; PMCID: PMC4689850.
  2. Nuell S, Illera-Domínguez V, Carmona G, Alomar X, Padullés JM, Lloret M, Cadefau JA. Sex differences in thigh muscle volumes, sprint performance and mechanical properties in national-level sprinters. PLoS One. 2019 Nov 5;14(11):e0224862. doi: 10.1371/journal.pone.0224862. PMID: 31689336; PMCID: PMC6830821.
  3. Takahashi K, Kamibayashi K, Wakahara T. Relationship between individual hip extensor muscle size and sprint running performance: sprint phase dependence. Sports Biomech. 2024 Dec;23(12):3615-3627. doi: 10.1080/14763141.2023.2296919. Epub 2024 Jan 18. PMID: 38237906.
  4. Miller R, Balshaw TG, Massey GJ, Maeo S, Lanza MB, Johnston M, Allen SJ, Folland JP. The Muscle Morphology of Elite Sprint Running. Med Sci Sports Exerc. 2021 Apr 1;53(4):804-815. doi: 10.1249/MSS.0000000000002522. PMID: 33009196.
  5. Tottori N, Suga T, Miyake Y, Tsuchikane R, Tanaka T, Terada M, Otsuka M, Nagano A, Fujita S, Isaka T. Trunk and lower limb muscularity in sprinters: what are the specific muscles for superior sprint performance? BMC Res Notes. 2021 Feb 25;14(1):74. doi: 10.1186/s13104-021-05487-x. PMID: 33632290; PMCID: PMC7908676.
  6. Li Y, Guo Q, Shao J, Gan Y, Zhao Y, Zhou Y. Neuromuscular factors predicting lower limb explosive strength in male college sprinters. Front Physiol. 2025 Jan 7;15:1498811. doi: 10.3389/fphys.2024.1498811. PMID: 39839532; PMCID: PMC11746912.
  7. Alt T, Komnik I, Ryan LJ, Clark KP. Top speed sprinting: Thigh angular motion and eccentric hamstring strength in faster vs. slower sprinters. Hum Mov Sci. 2024 Dec;98:103280. doi: 10.1016/j.humov.2024.103280. Epub 2024 Sep 18. PMID: 39299173.
  8. Douglas J, Pearson S, Ross A, McGuigan M. Reactive and eccentric strength contribute to stiffness regulation during maximum velocity sprinting in team sport athletes and highly trained sprinters. J Sports Sci. 2020 Jan;38(1):29-37. doi: 10.1080/02640414.2019.1678363. Epub 2019 Oct 19. PMID: 31631783.
  9. Meckel Y, Atterbom H, Grodjinovsky A, Ben-Sira D, Rotstein A. Physiological characteristics of female 100 metre sprinters of different performance levels. J Sports Med Phys Fitness. 1995 Sep;35(3):169-75. PMID: 8775642.
  10. Kubo K, Ikebukuro T, Yata H. Effects of squat training with different depths on lower limb muscle volumes. Eur J Appl Physiol. 2019 Sep;119(9):1933-1942. doi: 10.1007/s00421-019-04181-y. Epub 2019 Jun 22. PMID: 31230110.
  11. Coratella G, Tornatore G, Longo S, Esposito F, Cè E. An Electromyographic Analysis of Romanian, Step-Romanian, and Stiff-Leg Deadlift: Implication for Resistance Training. Int J Environ Res Public Health. 2022 Feb 8;19(3):1903. doi: 10.3390/ijerph19031903. PMID: 35162922; PMCID: PMC8835508.
  12. Maeo S, Huang M, Wu Y, Sakurai H, Kusagawa Y, Sugiyama T, Kanehisa H, Isaka T. Greater Hamstrings Muscle Hypertrophy but Similar Damage Protection after Training at Long versus Short Muscle Lengths. Med Sci Sports Exerc. 2021 Apr 1;53(4):825-837. doi: 10.1249/MSS.0000000000002523. PMID: 33009197; PMCID: PMC7969179.
  13. Lehecka BJ, Edwards M, Haverkamp R, Martin L, Porter K, Thach K, Sack RJ, Hakansson NA. BUILDING A BETTER GLUTEAL BRIDGE: ELECTROMYOGRAPHIC ANALYSIS OF HIP MUSCLE ACTIVITY DURING MODIFIED SINGLE-LEG BRIDGES. Int J Sports Phys Ther. 2017 Aug;12(4):543-549. PMID: 28900560; PMCID: PMC5534144.
  14. Maeo S, Balshaw TG, Nin DZ, Mc Dermott EJ, Osborne T, Cooper NB, Massey GJ, Kong PW, Pain MTG, Folland JP. Hamstrings Hypertrophy Is Specific to the Training Exercise: Nordic Hamstring versus Lengthened State Eccentric Training. Med Sci Sports Exerc. 2024 Oct 1;56(10):1893-1905. doi: 10.1249/MSS.0000000000003490. Epub 2024 Jun 6. PMID: 38857522; PMCID: PMC11419281.
  15. Marušič J, Vatovec R, Marković G, Šarabon N. Effects of eccentric training at long-muscle length on architectural and functional characteristics of the hamstrings. Scand J Med Sci Sports. 2020 Nov;30(11):2130-2142. doi: 10.1111/sms.13770. Epub 2020 Jul 30. PMID: 32706442.
  16. Sugiura Y, Saito T, Sakuraba K, Sakuma K, Suzuki E. Strength deficits identified with concentric action of the hip extensors and eccentric action of the hamstrings predispose to hamstring injury in elite sprinters. J Orthop Sports Phys Ther. 2008 Aug;38(8):457-64. doi: 10.2519/jospt.2008.2575. Epub 2008 Aug 1. PMID: 18678956.
  17. Edouard P, Mendiguchia J, Lahti J, Arnal PJ, Gimenez P, Jiménez-Reyes P, Brughelli M, Samozino P, Morin JB. Sprint Acceleration Mechanics in Fatigue Conditions: Compensatory Role of Gluteal Muscles in Horizontal Force Production and Potential Protection of Hamstring Muscles. Front Physiol. 2018 Nov 30;9:1706. doi: 10.3389/fphys.2018.01706. PMID: 30555346; PMCID: PMC6283907.

 

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