ランニング

100m走の後半の失速について

2025年1月6日

 

トップスピードと後半の失速

100m走では50m~70m前後でトップスピードに到達し、そこから20~30mほどスピードを維持して、徐々に失速していきます。

最高速度が速い選手ほどトップスピードに到達するまでの距離が長くなり、後半でも速いスピードで走ることができると言われています。

100mスプリント

実際に複数の世界大会を分析した研究では、100m走のタイムは加速と最高速度で勝負が9割方決まることが報告されています

トップスピードを長く維持できる選手は少なく、後半の失速は個人差がさほど大きくないため、後半の失速が勝負を左右することは少ないようです。

このため100m走のタイムを良くするためには加速と最高速を高めることが極めて重要であり、後半の失速の優先度は低いと言えます。

 

逆に言えば、トップスピードを長く維持することができる選手が少ないため、後半の失速を抑えることができるとパフォーマンスアップにつながる可能性は少なからずあるかと思います。

 

後半の失速が少ない選手の事例

ウサインボルト

ウサインボルト

(Depositphotos)

史上最速の男、ウサインボルトは100m走の後半の失速が少ない選手です。

100m走の世界記録9.58秒を出したレースでは、ライバル選手はトップスピードを20m~30mほどしか維持できなかったのに対し、ボルトはトップスピードを50m近く維持するという驚愕のパフォーマンスを発揮しています。

(Štuhec et al 2023)

しかし、ボルトは持久力に優れているから後半の失速が少ない、というわけではないようです。

ボルトは200m走でも世界記録保持者ですが、200mのレースの後半の100mがボルトよりも速い選手が存在しています。

 

さて、200mの持久力が優れているわけではないのに、なぜボルトが100m走の後半の失速が少ないのか?という疑問が浮かび上がります。

ボルトはトップスピードに到達してからは、ピッチが徐々に減っていき、代わりにストライドが伸びるという特徴があります

ピッチが1秒間に4.6歩だったものが4.2歩に落ちますが、ストライドが2.72mから2.86mへと伸びることでトップスピードを50m近くにわたって維持し続けています。

(Štuhec et al 2023)

つまり、ボルトはトップスピードに到達してから走り方を変えている可能性が考えられます。

地面からバネで弾むように、宙に浮いているような走り方にシフトしていると思われます。

使う筋肉が徐々に変えていくことで、パワーが枯渇しにくくなるのかもしれません。

 

ちなみにウサインボルトはトップスピードが時速44kmに到達していて、これは史上最速の速さであると言われています。

純粋なトップスピードの速さにも優れていて、結局のところトップスピードを高めることが重要であることには変わりありません。

 

ノアライルズ

2024年のパリオリンピック100m金メダリストであるノアライルズ。

後半の失速が少ない選手として有名であり、パリオリンピックでは最後の10mでライバル選手を追い抜かして金メダルを獲得しています。

99m走のレースだったら金メダルを取れなかったと揶揄されるくらい、後半に強い選手です。

 

ノアライルズは100m走のベストは9秒79ですが、200m走は19.31秒という記録を持っています。

ボルトは100m走が9秒58秒であり200m走が19秒19という世界記録を保持していますが、ボルトと比較するとノアライルズの後半の強さがわかるかと思います。

 

ノアライルズも後半にかけてストライドの幅が広がっていく選手です。

パリで銀メダルだったトンプソン選手と同じピッチの回転数で途中まで走っていましたが、ノアライルズは終盤でストライド幅が伸びて逆転しています。

データは少ないですが、スプリント走の後半の失速が少ない選手は、強力なバネで宙に浮くような走り方になっているのかもしれません。

後半の失速を抑えるには持久力を鍛えるというよりも、バネで弾むようにストライドを伸ばすことが後半の強さを生み出す可能性があるかもしれません。

 

まとめ

100m走のタイムは加速と最高速度で9割方決まり、後半の失速では大きな差がつきにくいと言われています。

しかし、金メダルを獲得するようなスプリンターは後半の失速が抑えられていることががあり、後半の失速を抑えることが勝利につながる可能性はあります。

 

<参考文献>

  1. Healy R, Kenny IC, Harrison AJ. Profiling elite male 100-m sprint performance: The role of maximum velocity and relative acceleration. J Sport Health Sci. 2022 Jan;11(1):75-84. doi: 10.1016/j.jshs.2019.10.002. Epub 2019 Oct 18. PMID: 35151419; PMCID: PMC8847979.
  2. Štuhec S, Planjšek P, Čoh M, Mackala K. Multicomponent Velocity Measurement for Linear Sprinting: Usain Bolt's 100 m World-Record Analysis. Bioengineering (Basel). 2023 Oct 26;10(11):1254. doi: 10.3390/bioengineering10111254. PMID: 38002378; PMCID: PMC10669785.

 

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