400m走はただ速く走るだけでなく、後半の失速を防いで走り切る「持久力」も求められる、奥深い競技です。しかし、その持久力は、一般的な長距離走でイメージするそれとは大きく異なります。
この記事では、400m走における持久力の特徴と、後半の失速を防ぐトレーニング方法について解説していきます。
400m走に特有の持久力
400m走の競技特性
400m走はトップスピードを出す『無酸素運動』と、そのスピードを維持し続ける『有酸素運動』、両方の能力が非常に重要です1。
400mスプリンターの中には、スタートからの瞬発力が高いスピード型と、後半に粘り強い持久力型がいますが、いずれのタイプも両方の能力をバランス良く高めることが重要です。
400m走におけるエネルギー供給は無酸素によるものが約5割強、有酸素によるエネルギー供給が4割弱であると言われており2、
この数字からもわかるように、無酸素運動能力の重要性は高いですが、有酸素運動によるエネルギー供給も無視できないほど大きな割合を占めています。
つまり、400m走のタイムを少しでも改善し、後半の失速を防ぐためには、スピード能力と合わせて400m走に特化した持久力を高めることが非常に重要になってきます。
スプリンターの持久力
「持久力」と聞くと、マラソンランナーのように長時間一定のペースで走り続ける能力をイメージするかもしれません。しかし、400m走で必要とされる持久力は、中長距離ランナーやマラソンに求められる持久力とは大きく異なります。
一般的な持久力トレーニングで高める最大酸素摂取量や乳酸除去能力は、400m走では最大まで使い切らないことが報告されています3。
実際に、最大酸素摂取量や乳酸除去能力が高い800mランナーが、必ずしも400m走でスプリンターより速いタイムを出すわけではありません4・5。これは、400m走では有酸素運動能力をフルに発揮する前にレースが終わってしまうためです。
400m走においてより重要なのは、乳酸除去能力よりも、乳酸をどこまで「出せるか」という、有酸素運動における瞬間的な最高到達点です6。
長時間を一定のスピードで走り続ける持久力ではなく、「高いスピードを維持したまま、どれだけ乳酸に耐えられるか」といった能力が、400mスプリンターの持久力トレーニングでは求められます。
400m走の持久力トレーニングの方法
インターバル走
400m走の後半の持久力を高めるには、高いスピードを維持したまま走り続けることが重要になります。
そのため、休憩を挟みながらスプリント走を繰り返し行うインターバル走が基本となり、例として次のようなものがあります。
- 300mを4-8本: レースペースの85-95%で走り、3-5分休憩します。疲労の中でもペースと良いフォームを維持することが目標となります。
- 250mを2-5本: 目標とする400mペースよりも少し速いペースで走ります。5-7分休憩します。
- 200mを3本、150mを3本、100mを3本: 200mは3-4分の休憩で走り、次に150mはさらに速く、休憩はやや短く、100mはほぼ最大で、質の高さを確保するために十分な休憩を挟みます。
- 600m (200m, 200m, 200m): 200mを走り、短い休憩(30秒)を取り、さらに200m、短い休憩、そして最後の200mは400m後半の疲労を再現しています。セット間には長めの休憩(例:5-8分)を挟んで2-5セット行います。
インターバル走の注意点
400m走の持久力を高めるためには一本一本集中して行うことが重要であり、無駄に反復回数が多すぎると問題になることがあります。
例えば400m走を20回、30回と反復するようなトレーニングは一本一本の走りの質が低下し、遅いスピードでのランニングが身体に染みついてしまうことがあります。
私自身も400mを25回のインターバル走を行って瞬発力が落ちてしまったことがあります。
反復回数を多くするようなトレーニングを行うことで、どんどん反復回数は伸びていったのですが、それと引き換えに以前のように速いスピードで走ることがかなり苦しくなってしいました。
また、400mを超える距離のランニングで持久力を高めようとしても、400m走のパフォーマンスにはそこまで役には立ちません。
500m以上の距離になると400m走とは違った筋肉が使われるという研究結果が報告されています7。
私自身も800m走インターバルを繰り返しても、400m走の後半の持久力はそんなに改善しませんでした。
こういったことから400mの持久力を鍛えるトレーニングは、一本一本集中して高いスピードで走ることが重要であり、質を落として量を増やすと逆効果になってしまう可能性があります。
筋持久力の強化
筋持久力は400m走における後半の失速と関係があり、レッグエクステンション、ヒップフレクションなど50回ほど反復する筋持久力が400m走の持久力に関係している可能性があります8。
これは一般的な筋力トレーニング(数回~十回程度の高負荷)とは異なり、持久的な筋力が必要であることを示唆しています。
400m走の持久力を改善するには、ウェイトトレーニングの反復回数を増やしてみるようなメニューを加えてみるのもいいかもしれません。
ここでも無駄に反復回数を増やせば良いというわけではなく、400m走の競技特性の範囲内で反復回数を増やすことがポイントになります。
瞬発力を損なわないように、適切な負荷と回数を見つけることが重要になります。
まとめ
400m走の後半の失速を防ぐためには有酸素運動能力を高めて持久力を鍛えることが重要なのですが、中長距離ランナーやマラソンとは違った持久力が求められます。
反復回数が多ければいいわけではなく、長い距離を走る練習もあまり役には立たず、高い強度を維持し続けるようなトレーニングが重要になります。
<参考文献>
- Rappelt L, Riestenpatt S, Lesinski M, Ferger K, Donath L. Performance prediction and athlete categorization using the anaerobic speed reserve in 400m sprinters. J Sci Med Sport. 2025 Mar 26:S1440-2440(25)00093-3. doi: 10.1016/j.jsams.2025.03.012. Epub ahead of print. PMID: 40222867.
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