ランニングの腕振りが重要であるという話を一度は耳にしたことがあるかと思います。
しかし、どのような腕振りがいいのかがわからない、という人も少なくないかと思います。
ここでランニングにおける腕振りの役割、適切な腕振り方法を身に着けるトレーニングなどについて解説していきたいと思います。
ランニング中の腕振りの役割
安定性
ランニング時の腕振りには様々な効果がありますが、意外と大事なのが身体の軸が安定する効果です。
腕振りをすることで体幹の安定性が高まり、ランニング時のエネルギー消費量を節約できることが報告されています1。
一方で腕振りをしないとエネルギーの消費量が増え、ランニングの歩幅のブレも大きくなってしまいます2。
ランニングでは片足ずつパワーを生み出しますが、相対する腕をタイミングよく後方に引くことで、身体のブレを相殺しやすくなります。
パワー
腕振りをすることで下半身のパワー発揮を高めることができます。
こちらは垂直飛びにおける腕振りの研究になりますが、腕振りがあることで下半身のパワー出力が上がることが報告されています3。
興味深いのは、腕を振ったエネルギーよりも大きなエネルギーを下半身が生み出せるようになるという点です。
これは腕を振ることで地面との接地時間が少し長くなり、下半身で地面を蹴りやすくなることが関係しています。
そして、上半身のパワーが強い方がスプリント走やジャンプ力が高くなる傾向にあるという研究結果も報告されています4。
腕振りに力強さがあることで、下半身のパワーを引き出しやすくなると考えられます。
柔軟性
腕振りは闇雲にパワーが大きいだけでは不完全であり、力を抜いたリラックスした動きが重要になります。
実際に肩甲骨が硬いとスプリント走のパフォーマンスが低下することが報告されています5。
このように肩甲骨が滑らかに動くことが腕振りの効果を高めることにつながります。
肩甲骨や肩回りのストレッチやマッサージなどのケアを行い、柔軟性を高めてスムーズで軽やかな腕振りにすることも大切です。
効果的な腕の振り方を見つけるエクササイズ
片足ジャンプでの腕振り
連続で片足ジャンプをしながら腕振りを行います。
うまく腕を振ることができると片足ジャンプが楽に高く飛べることができます。
そして、どのような腕の使い方が効果的なのか、どんなフォームが良いのか、といったヒントを得ることができます。
ここで興味深いのが、片足ジャンプのタイミングに合わせることが重要である点です。
片足ジャンプのリズムが速くなれば速い腕振りが求められ、ジャンプのリズムがゆっくりになると腕振りをゆっくりにしてタイミングを合わせると高く飛べるわけです。
さらに重要なポイントが、腕を力強く振れば高く飛べるわけではないということです。
実際にやってみると、無駄に力んでしまっている腕振りだと、片足ジャンプが高く飛べないことがわかるかと思います。
力んでしまった腕の振りは軸のブレを生み出してしまうため、安定性を損ねてしまいます。
このためリラックスして腕を振ることができると、足が速くなりやすいというわけです。
スキップドリル
片足ジャンプで腕振りの感覚を掴んだら、スキップ動作に腕振りを組み合わせていきます。
スキップ動作はスプリンターのランニングドリルの一環として用いられることが多く、ランニングに必要なリズムや感覚を鍛えることができます。
次の動画はパリオリンピックの100m金メダリストの練習動画です。
ランニング中の腕振り
いきなりランニング中の腕振りを調整するのは、現実的ではないことがあります。
ランニングの動きの中で理想的な腕振りを探るというのは感覚がわかりにくく、最適な腕の振り方を見つけられない可能性があります。
まずは、もっとシンプルなエクササイズの中で腕振りの感覚を学んでいくことが役立ちます。
慣れてら徐々に腕振りのエクササイズの負荷を上げていき、最終的にはランニングで効果的な腕振りができるようにしていきます。
肩のケア
肩のストレッチ
腕振りの効果を高めるためには肩回りのストレッチが役立ちます。
壁に手をついて肩の前部分をほぐすようなストレッチを行うことで、腕が後方にスムーズに動きやすくなります。
また、腕を身体の前でクロスさせるようなストレッチを行うことで、肩甲骨がスムーズに動きやすくなります。
マッサージ
ストレッチだけではほぐすことが難しい部分があるため、必要に応じてマッサージやフォームローラーなどでほぐすことも役立ちます。
肩の前面や横部分、肩の後部や肩甲骨の間など、肩回りを満遍なくほぐすことが大切です。
トレーニング
肩甲骨のトレーニング
ランニングの腕の振りを鍛えるトレーニングとしては、まずは肩甲骨回りのインナーマッスルを鍛えることが重要です。
最初はパワーを高めることよりも、腕の振りを安定させることの優先度が高く、リラックスした状態でスムーズに腕を振れるようにしていきます。
肩甲骨周りのインナーマッスルが強化されることで、楽に腕を振ることができ、疲れにくくなるという効果もあります。
広背筋
ランニングで腕を振る動作は、主に広背筋による腕を引く力が大きく関係しています。
このため懸垂やローイングなどの動作を鍛えるような広背筋のトレーニングを取り入れていくことが役立ちます。
まとめ
ランニングの腕の振りによって軸の安定性やパワーが向上し、速く走ることができます。
闇雲に力強く腕を振ればいいわけではなく、リラックスした動きで脚の動きとタイミングを合わせることも大切になります。
<参考文献>
- Koo YJ, Ogihara N, Koo S. Active Arm Swing During Running Improves Rotational Stability of the Upper Body and Metabolic Energy Efficiency. Ann Biomed Eng. 2025 Feb 3. doi: 10.1007/s10439-025-03688-0. Epub ahead of print. PMID: 39900823.
- Arellano CJ, Kram R. The effects of step width and arm swing on energetic cost and lateral balance during running. J Biomech. 2011 Apr 29;44(7):1291-5. doi: 10.1016/j.jbiomech.2011.01.002. Epub 2011 Feb 12. PMID: 21316058.
- Hara M, Shibayama A, Takeshita D, Fukashiro S. The effect of arm swing on lower extremities in vertical jumping. J Biomech. 2006;39(13):2503-11. doi: 10.1016/j.jbiomech.2005.07.030. Epub 2005 Sep 15. PMID: 16168998.
- Curovic I, Grecic D, Rhodes D, Alexander J, Harper DJ. Potential Importance of Maximal Upper Body Strength-Generating Qualities and Upper Body Strength Training for Performance of High-Intensity Running and Jumping Actions: A Scoping Review. Sports (Basel). 2024 Dec 23;12(12):357. doi: 10.3390/sports12120357. PMID: 39728897; PMCID: PMC11679821.
- Otsuka M, Ito T, Honjo T, Isaka T. Scapula behavior associates with fast sprinting in first accelerated running. Springerplus. 2016 May 20;5(1):682. doi: 10.1186/s40064-016-2291-5. PMID: 27350917; PMCID: PMC4899390.
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