肘の痛み

テニス肘のリハビリとトレーニング

2025年1月5日

 

テニス肘のしつこい痛みに悩まされる人も多く、なかなかテニス肘が治らないというケースもあるかと思います。

テニス肘の原因には筋力なども関係していますが、こういった点が見逃されていることも珍しくありません。

 

テニス肘のリハビリの特徴

手首を動かす筋肉の腱にテニス肘が起こるため、テニス肘のリハビリの基本は手首や前腕のエクササイズになります。

しかし、肩甲骨へのアプローチなどテクニカルな手法のみを行うケースもあり、基本が疎かになっている事例も見受けられます。

テニス肘

基本をしっかりと行ったうえで、肩甲骨や肩回り、指先といった広範囲にエクササイズを行うことでさらなる効果を見込むことができます。

そして、テニス肘のリハビリは一見単純そうなエクササイズに見えますが、細かいところの働きが悪いことがあったり、動きが雑になってしまうことが珍しくなく、注意深く行うことが大切になります。

 

フェーズ1 急性期

休養

まずは医療機関を受診して怪我の診断、治療、その他の必要な処置を受けることが重要です。

そして、肘に大きな負荷がかからないように十分な休養を取ることが大切です。

 

ストレッチ

テニス肘は前腕が関係しているため、前腕のストレッチが役立ちます。

手首が約70~80°曲がれば標準的な可動域であり、それ以上の可動域を獲得する必要はありません。

 

マッサージ

筋肉が硬いとうまく力が入らなかったり、細かい動きがやりにくかったり、握力が弱くなってしまうことがあります

リハビリのエクササイズの前段階として、ある程度前腕の筋肉を柔らかくほぐすことで、適切な動きでエクササイズが行いやすくなります。

前腕のマッサージ

 

フェーズ2 トレーニング

手首を動かす際に痛みや違和感が出なくなってきたら少しずついリハビリのエクササイズを始めていきます。

適度なエクササイズであればテニス肘の回復が早まるなどの効果も期待できますが、やり過ぎると逆効果になるため注意が必要です。

 

手首の筋肉

まずは軽いダンベルやペットボトルなどを掴んで、手の甲を上にしたまま10~15秒ほどキープするエクササイズから始めていきます。

手の甲を上にすることでテニス肘に関わる筋肉に直接刺激を入れることができます。

手首を動かさないエクササイズは負荷が軽く、痛みが悪化しにくいため早い段階で取り入れやすいという利点があります

手首のエクササイズ

肘の違和感がなければ、徐々に手首を上下に動かすエクササイズも取り入れていきます。

特に手首を下げるときのいわゆるブレーキをかける動作(エキセントリック収縮)のほうがテニス肘の改善効果が大きいことが報告されています

ただし、手首を下げる動作は負荷がかかりやすいため、痛みや違和感がある場合にはエクササイズを中止することが大切です。

(Peterson et al 2014)

手首のエクササイズは上下だけでなく、左右の動きや内外の回旋の動きのエクササイズも行います。

勢いで手首を動かしてしまったり、動きが斜めにブレてしまったりと、動きが雑になりやすいので注意が必要です。

こういった細かい動きを含めて、色々な筋肉をバランスよく手首の筋肉を鍛えることが大切になります。

手首の回旋エクササイズ

 

ジャイロボールやパワーリストボールなどと呼ばれている道具がテニス肘の改善に役立つことが報告されています4・5

ジャイロボールを握って手首を回すと、ローター内部の回転を維持しようとする力と利用者が手首を動かす力の間に抵抗が生じ、手首や前腕の筋肉に負荷となってかかり、手首や前腕の筋肉を多方向から刺激できるため、テニス肘の改善に効果的です。

 

上腕三頭筋

上腕三頭筋

一般的にテニス肘を発症している人は上腕二頭筋が発達し、二の腕にある上腕三頭筋が弱くなりやすい傾向があります。

肘を伸ばすような動きで上腕三頭筋を鍛えることができ、肘が動かないようにその場に固定して肘から先を動かすようにすると上腕三頭筋により効かせることができます。

上腕三頭筋エクササイズ

また、ディップスと呼ばれる体重をかけて肘の曲げ伸ばしをするエクササイズも上腕三頭筋に効かせることができます。

ディップス

 

肩甲骨

肩甲骨周りの筋肉を鍛えるエクササイズもテニス肘の改善・予防に役立ちます。

特に細かい筋肉が弱いことが多く、地味に効かせるようなエクササイズに取り組むことが大切です。

ローテーターカフエクササイズ

肩甲骨周りには多くの筋肉が存在するため、多くのバリエーションのエクササイズを取り入れていくことが役立ちます。

菱形筋のエクササイズ

 

指の筋肉

テニス肘の改善には指先の筋肉を鍛えることも役立ち、指先を動かす筋肉は肘までつながっています。

テニス肘では握力を酷使していることが多いのですが、一方で指先でつぶす力があまり鍛えられていないことがあります。

指先の筋肉を鍛えるには、柔らかいものを指先でつぶすようなエクササイズなどが役立ちます。

指先のトレーニング

また、指先を開くような筋肉も弱くなりやすいため、指を開くエクササイズも役立ちます。

指先をグーパーと開くのを繰り返すエクササイズが一般的であり、慣れてきたら専用のチューブなどを使うことでより効果的に鍛えることができます。

指のエクササイズ

テニスラケットを握る場面
テニスラケットのグリップの握り方と怪我のリスク

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フェーズ3 復帰

痛みや違和感がなくなってきたら、徐々に競技に復帰していきます。

いきなりフルで練習すると肘の痛みが悪化する可能性があるため、少しずつ運動量を増やしていくことが大切です。

最初は簡単なショットのみを行い、痛みや違和感が出ないか確かめます。運動中は痛みを感じにくいことがあるため、翌日に痛みがないかどうか状態を確かめます。

テニススイング踏み込み

問題がなければ、1日休養を取った上で運動時間を少しずつ伸ばしていきます。同様のステップを繰り返しながら、最終的には以前と同じような練習量を目指していきます。

痛みや違和感が出た場合には、休養を増やして肘を回復させることが大切です。

 

テニスへの復帰に限らず、肉体労働などへの復帰についても同様であり、いきなり以前と同じ運動量にするのはリスクがあります。

とはいえ仕事の場合には運動量を調整することが難しく、フルでの勤務になることが多いため、十分に休みを取って回復させたうえで余裕をもって仕事に戻ることが大事になります。

 

フェーズ4 再発防止

テニス肘の再発を防ぐためには定期的な身体のケアと、トレーニングで弱い筋肉を鍛えていくことが役立ちます。

テニスなどの運動を続けていると徐々に肘周りの筋肉が張ってくるため、定期的にマッサージで筋肉をほぐすことが大切です。

筋肉が硬くなり過ぎると、手首周りの筋肉の働きが悪くなるため、適度にほぐしておくことが役立ちます。

 

そして、上腕三頭筋や背筋といった背中側の筋肉が弱くなりやすいため、こういった筋肉を鍛えてバランスを整えることが大事になります。

また、肩回りのインナーマッスルも弱くなりやすいため、ウォームアップにチューブエクササイズを取り入れることなども怪我の予防に役立ちます。

 

まとめ

テニス肘のリハビリ・トレーニングは、ストレッチなどで十分な可動域を確保したうえで、手首の筋肉を鍛えることと、周辺のサポートする筋肉もバランスよく鍛えていくことがポイントになります。

無理をせずに身体の状態を見極めながらリハビリを進めていくことが大切です。

 

※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の症状に対する診断や治療を保証するものではありません。テニス肘の症状がある場合は、医療機関を受診し、専門家の指示に従うことが大切です。

 

<参考文献>

  1. König, M., Buchmann, N., Seeland, U. et al. Low muscle strength and increased arterial stiffness go hand in handSci Rep 11, 2906 (2021). https://doi.org/10.1038/s41598-021-81084-z
  2. Stasinopoulos D, Stasinopoulos I. Comparison of effects of eccentric training, eccentric-concentric training, and eccentric-concentric training combined with isometric contraction in the treatment of lateral elbow tendinopathy. J Hand Ther. 2017 Jan-Mar;30(1):13-19. doi: 10.1016/j.jht.2016.09.001. Epub 2016 Nov 4. PMID: 27823901.
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  5. Babaei-Mobarakeh M, Letafatkar A, Barati AH, Khosrokiani Z. Effects of eight-week "gyroscopic device" mediated resistance training exercise on participants with impingement syndrome or tennis elbow. J Bodyw Mov Ther. 2018 Oct;22(4):1013-1021. doi: 10.1016/j.jbmt.2017.12.002. Epub 2017 Dec 6. PMID: 30368325.
  6. Herquelot E, Bodin J, Roquelaure Y, Ha C, Leclerc A, Goldberg M, Zins M, Descatha A. Work-related risk factors for lateral epicondylitis and other cause of elbow pain in the working population. Am J Ind Med. 2013 Apr;56(4):400-9. doi: 10.1002/ajim.22140. Epub 2012 Nov 13. PMID: 23152138.

 

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