膝痛

スキー選手の前十字靭帯断裂が桁違いに多い理由

2024年11月20日

 

スキーにおける前十字靭帯断裂

スキー選手にとって前十字靭帯の断裂はとても深刻な怪我で、急斜面や高速でのターン中に発生しやすいと言われています。

前十字靭帯は膝関節の安定性を保つ重要な靭帯であり、これが断裂すると膝の安定性が失われ、スキー選手の競技生活に大きな影響があります。

スキー

スキー場に併設されたクリニックが行った20年近くにわたる調査によると、スノーボードにおける怪我の約2.4%が前十字靭帯損傷であったのに対し、スキーでは怪我の約20%が前十字靭帯損傷で占めていることが報告されており、スキーでは前十字靭帯断裂が10倍近く多く発生しています。

オリンピックに出場するレベルのスキー選手でも前十字靭帯断裂が多い印象で、ある研究ではアルペンスキーの世界ランキング上位30位の選手の半分近くが前十字靭帯断裂を経験していることが報告されています

他のスポーツではオリンピック選手が前十字靭帯断裂している事例というのは珍しく、スキーがいかに前十字靭帯断裂と隣り合わせの競技であるということを考えさせられます。

 

前十字靭帯断裂のリスク要因

スキーのターン

スキー選手の前十字靭帯断裂が多い理由として考えられるのがスキーのターンであり、前十字靭帯断裂の半分近くがターンをする際に起きていることが報告されています3・4

スノーボードに比べるとスキーのターンはより鋭く、より急なカーブを曲がることができ、これがスキーでの前十字靭帯断裂が多い理由のひとつと考えられます。

というのもスキーでは板が両脚に分離しており、それぞれ独立して操作できるため、ターンにおける遠心力に対抗するため重心を大きく傾けることを可能になり、ターンで膝に大きな負荷がかかりやすいと言えます。

(Bere et al 2011)

また、スキーのターンにおける前十字靭帯断裂の原因にスリップキャッチというものがあり、AIによると次のような説明となります。

「スキーのスリップキャッチとは?」

「スキーのスリップキャッチ(スリップキャッチング)とは、スキーの操作や滑走中にスキーが意図せず滑ったり、制御が難しくなる状況を指します。特に、スキーエッジが雪面を正しく捉えられずに滑ってしまうことが多く、この結果、スキーヤーはバランスを崩しやすくなります。

雪の状態がアイスバーン(硬く圧縮された雪面)である場合や、急斜面でスピードを出し過ぎた場合にスリップキャッチが起こりやすくなります。このような状況では、エッジングのテクニックやバランスの取り方が非常に重要です。スリップキャッチを防ぐためには、体重をスキー全体に均等にかけたり、正しい姿勢を保つことが大切です。」

Microsoft Copilot 2024年11月20日

この回答によると、スキーでバランスを崩さなければ前十字靭帯断裂を減らせる、テクニック不足で前十字靭帯断裂が起こる、という印象を受けるかもしれません。

実際にスキーのテクニックが劣っている選手の方が前十字靭帯断裂が多いことが報告されています

しかし、世界ランキングの上位勢でも前十字靭帯断裂が多いという事実を踏まえると、世界レベルのスキーの才能を有していても前十字靭帯断裂をそこまで防げるとは限らないと思います。

というのも急激に膝を曲げる、急なターンをするとスリップキャッチのリスクが高まることが報告されていて、競技として高いレベルを追い求めると、より急激なターンで前十字靭帯断裂をするリスクを伴うと言えるかと思います。

 

攻めのスタイル

スキー選手の前十字靭帯断裂にはテクニックだけでなく、スキーに取り組む姿勢も関係しています。

リスクを取って攻める姿勢のスキー選手は前十字靭帯断裂のリスクは5倍近くになることが報告されています6・7

急激なターンに挑んだり、高難易度の滑りに挑むというのは膝の負担が大きくなりやすいと言えます。

スキー選手

そして、スキーを続けていると微細な損傷の蓄積されるということも忘れてはいけません。

他のスポーツでは頻繁な試合数や休息が十分でないと前十字靭帯断裂が起きやすいというのが徐々に広がっている印象がありますが、スキーではそのような意識がまだまだ弱いような印象を受けています。

サッカー選手を対象にした研究では継続的なサッカーの練習によって、徐々に前十字靭帯に微細なダメージが蓄積されていく可能性が示唆されています10

このため完璧にコントロールされたスキーの滑りであったとしても、急激なカーブを曲がることは膝のダメージが大きく、こういったことを続けていると知らず知らずのうちにダメージが蓄積され、ある日突然前十字靭帯断裂が引き起こされるという事態が考えられます。

アルペンスキー

他のスポーツでは膝がこんなに急激な角度で動くということは珍しく、恐ろしいほどの負荷が膝にかかっていることがスキーでの前十字靭帯断裂が多い理由ではないかと思うわけです。

 

スキー板

スキー板の種類によっては前十字靭帯断裂のリスクが高まると言われており、特に長いスキー板や幅の広いスキー板が前十字靭帯断裂につながりやすいと言われています。

スキー板

とはいえスキー板が長いことによる前十字靭帯断裂のリスクは約1.1倍という研究結果が多く7・8、前十字靭帯断裂をしたスキーヤーの用具には違いは見られなかったとする研究結果もあります

こういったデータを踏まえるとスキー板などの装備はリスク要因ではあるのものの、そこまで致命的というほどのリスク要因ではないかと思います。

このためスキー板などの装備は好みのものを使うことで全然問題ないと思いますし、どちらかというと慣れていないスキー板を使って操作性が悪い状況で下手にスリップしてしまうことの方が怖いと個人的には思います。

 

スキー復帰について

選手生命

前十字靭帯断裂をすると競技復帰までに1年近くかかることが多く、選手としてのキャリアが心配になるかもしれません。

前十字靭帯断裂の有無はスキー選手のキャリアの長さにそこまで関係しているわけではなく、ある研究では前十字靭帯断裂をしている選手の方がスキー選手としてのキャリアが長いことが報告されています

これはスキーが前十字靭帯断裂と隣り合わせの競技であり、前十字靭帯断裂でスキーを諦める選手が少ないのかもしれません。

スキー

とはいえ若いスキー選手の方が以前のパフォーマンスを取り戻しやすく、年齢を重ねたスキー選手は前十字靭帯断裂が起こると以前のパフォーマンスを取り戻すことに苦労する傾向にあります11

無理をすれば前十字靭帯断裂を乗り越えられるわけではないので、気合いだけでなく適切な処置と地道なリハビリが大切になってくるかと思います。

 

リハビリ

前十字靭帯断裂後は左右差が生まれやすく、リハビリで左右差を解消していくことが大事なポイントになります12

リハビリのエクササイズやバランストレーニングに取り組むことでスキーの前十字靭帯断裂の予防へとつながります13

レッグエクステンション

現在の前十字靭帯断裂リハビリはスキー選手に最適化されているのか?という疑問があり、スキーの急激なターンなどに対処するためのリハビリや予防プログラムが十分に行われているのか懸念が残ります。

というのも一般的な前十字靭帯断裂のリハビリでは筋力の強さや、直線的なパワーの強さなどの比重が高すぎる場合が多々あるような気がしています。

 

例えばターンの時に股関節や足首がうまく働くようにトレーニングを行うことで膝の負担を軽減することができます。

こういった股関節や足首のトレーニングの種類や量が不足している事例が多々あるように感じています。

他にも体幹も強化することがスキーの前十字靭帯断裂を防ぐのに役立ち14、もっともっと色々な種類の体幹のトレーニングを取り入れていった方がいいかと個人的には思います。

筋力やパワーを鍛えることも大事ですが、精緻で細やかな動きを実現するためのトレーニングをもっと多く取り入れていくことでスキーにおける膝の負担を減らすことができると思います。

 

前十字靭帯の再断裂

プロスキー選手の前十字靭帯再断裂の発生率は50%近くという異常に高い数値を叩き出しています15・16

他のスポーツでは前十字靭帯の再断裂はここまで多くなく、サッカーやバスケなどでは前十字靭帯再断裂の発生率が10%前後であることが多い印象です。

サッカー怪我
欧州プロサッカー選手の前十字靭帯断裂が増えている

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ある研究ではスキーで前十字靭帯断裂を5回断裂した人、再断裂を9回繰り返した選手も珍しくないことが報告されており2・15、スキー選手の前十字靭帯断裂が異常に多いことを物語っています。

こんなに何度も再断裂することは他のスポーツでは限られていて、3回も前十字靭帯断裂していたら結構なレアケースだと思います。

アルペンスキー

スキーにおいては反対側の脚の前十字靭帯断裂も多く、前十字靭帯再建手術をした脚の倍近く発生していることが報告されています15

怪我をした脚は思うように重心がかけられず、鋭いターンを攻めることが難しくなり、反対側の脚に負荷がかかっていることが関係しているのではないかと考えられます。

 

まとめ

スノーボードに比べてスキーの前十字靭帯断裂は10倍ほど多く、世界ランキング上位のスキー選手でも前十字靭帯断裂を経験していることが多々あります。

スキーでは急激なターンや鋭い動きなどによって膝に大きな負荷がかかりやすく、前十字靭帯断裂が頻発しやすいため適切な対処をすることが重要です。

 

<参考文献>

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  9. Posch M, Ruedl G, Greier K, Faulhaber M, Tecklenburg K, Schranz A, Burtscher M. Ski-geometric parameters do not differ between ACL injury mechanisms in recreational alpine skiing. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2022 Jun;30(6):2141-2148. doi: 10.1007/s00167-021-06852-w. Epub 2021 Dec 31. PMID: 34971432; PMCID: PMC9165279.
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