NBAのスーパースター選手が試合中に突然倒れ、膝を押さえている姿を一度は見たことがあるかもしれません。
その怪我が前十字靭帯断裂だとすると選手生命にかかわる事態になってしまうことがあります。
前十字靭帯断裂とは?
前十字靭帯断裂は膝関節の安定性を維持する前十字靭帯が断裂する外傷のことであり、スポーツを継続するためには手術が必要であり、リハビリを含めて1年近くの長期離脱を余儀なくされることが珍しくありません。
バスケでは前十字靭帯損傷が起こりやすく、ジャンプや急激な方向転換や接触プレーなどが前十字靭帯断裂の原因となります。
NBAでの前十字靭帯断裂の発生状況
NBAの試合における前十字靭帯断裂はゴール付近で起きやすく、コンタクトプレーを伴わないことも多いことが報告されています1。
特にジャンプの着地時や急激なステップなどでの前十字靭帯断裂が多い傾向にあるようで、特に体勢やバランスが崩れている時に前十字靭帯が起こりやすいことが報告されています2・3。
そして、ドライブで中に切り込むプレーが多いNBA選手は前十字靭帯断裂のリスクが高くなることも報告されています4。
NBAへの復帰とパフォーマンスの変化
前十字靭帯断裂をしたNBA選手の約9割以上がNBAの試合に復帰していますが、試合への復帰には平均で1年以上かかっており、すぐに復帰できるわけではありません5・6。
試合に復帰したとしても以前のようなパフォーマンスでプレーできているわけではなく、以前のパフォーマンスに戻すには2シーズン以上かかることが多いことも報告されています6。
前十字靭帯断裂したNBA選手のキャリアへの影響
前十字靭帯断裂したNBA選手の給料に大きな影響はないことが報告されていますが7、有力選手の方が試合に復帰しやすく、控え選手には厳しい現実が待ち受けていることが多々あるようです8。
NBA選手は前十字靭帯断裂から高い確率で試合に復帰できているのですが、前十字靭帯損傷によって選手生命は短くなる傾向にあるようです9。
こういったことから前十字靭帯断裂は選手生命を左右しかねない怪我であると言われています。
一方で前十字靭帯断裂後も優れたパフォーマンスを発揮しているNBA選手もいます。
NBA選手の前十字靭帯の再断裂
NBA選手の前十字靭帯の再断裂は約3%とかなり低い数字であることが報告されています10。
NBAには優秀なメディカルチームがいるからと思うかもしれませんが、資金豊富な他のプロスポーツよりも再断裂の発生率が低いことを考えるとNBAならではの特性による影響の方が大きいのではないかと思います。
他のプロスポーツでは前十字靭帯再建手術後から半年で復帰することがよくありますが、NBA選手は試合に復帰するまで平均で1年以上かけていることが報告されており6、急いで復帰するわけではなく時間をかけている傾向にあると言えます。
バスケでは1チームの登録選手の15名に対して試合に出場するのはわずか5人であり、他のプロスポーツに比べて選手が酷使されにくい状況にあることも影響しているかと思います。
前十字靭帯損傷からNBAに復帰したシーズンでの試合数が多い選手は前十字靭帯の再断裂が多いことが報告されており11、復帰後のシーズンに酷使されていない選手の方が再断裂のリスクが少ないと言えます。
このように急いで試合に復帰せず、復帰した後も試合数は控えめにするなど、焦らずに余裕を持つことは前十字靭帯の再断裂を防ぐのに大いに学ぶことができる点ではないでしょうか。
NBAスター選手の前十字靭帯断裂の事例
デリック・ローズ
2010-2011シーズンMVPであるデリック・ローズ選手は2011-12シーズンのプレーオフの試合で前十字靭帯を断裂しています。
翌シーズンはNBAの試合には出場しておらず、翌々シーズンにNBAに復帰するもすぐに半月板損傷によってそのシーズンは戦線離脱することになっています。
2シーズンを棒に振ってしまいましたが、2014年には復活し、世界選手権にアメリカ代表としてプレーしています。
しかし、その後も半月板損傷を繰り返し、本来のパフォーマンスを発揮できないシーズンが続きます。それでも徐々にコンディションを取り戻しNBAで活躍しています。
前十字靭帯断裂後に活躍した選手ではありますが、高いパフォーマンスを維持することがいかに難しいかを示している事例かと思います。
ザック・ラビーン
大学で1年間プレーしてNBA入りしたザック・ラビーン選手は、2016-17シーズンにデトロイトピストンズとの試合で前十字靭帯を断裂しています。
翌シーズンにNBAの試合に復帰し、そのまま無事に試合に出場し続けて以前よりも高いパフォーマンスを発揮し続けています。
2021年にはNBAオールスターゲームのリザーブに選出される活躍を見せています。
前十字靭帯断裂後もこのように順調な活躍をしたいところですが、NBA選手でもこのような成功事例はかなりの少数派であるのが現実です。
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まとめ
NBAの試合ではゴール付近でのドライブやジャンプなどでの前十字靭帯断裂が多く、特に体勢が崩れた時にリスクが高まります。
NBA選手は高い確率でバスケの試合に復帰できますが、試合に復帰するまでに意外と時間がかかっており、これが前十字靭帯の再断裂を減らす要因のひとつと考えられます。
しかし、以前のようなパフォーマンスに戻すには複数シーズンかかることも多く、控え選手ほど時間の猶予がなく選手生命に影響してしまうことも珍しくありません。
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