スノーボーダーの前十字靭帯断裂
スノーボードでの前十字靭帯の断裂は非常に深刻な怪我であり、痛み、腫れ、膝の不安定さを引き起こし、そのシーズンはもうスノーボードができなくなってしまうことがほとんどです。
スキー場に併設されたクリニックが20年近く行った調査によるとスキーに比べてスノーボードの前十字靭帯断裂は少なく、スキー選手は怪我の20%が前十字靭帯断裂ですが、スノーボードでは怪我の2%くらいが前十字靭帯断裂であることが報告されています1。
スノーボードでの前十字靭帯断裂のリスク
ジャンプ着地
スノーボードでの前十字靭帯断裂で最も多いのがジャンプの着地の瞬間であり2・3、ジャンプを着地した時に前脚の前十字靭帯断裂が約9割を占めるという報告もあります2。
一般的に前十字靭帯は脚を捻るような負荷がかかった時に断裂しやすいのですが、スノーボードの場合にジャンプの着地時に膝が捻るような感覚は少なく、真っ直ぐ着地した時に前十字靭帯断裂が起きているという点です2・3。
そして、ジャンプ着地で前十字靭帯断裂をするのは上級者のスノーボーダーに多い傾向にあり、初心者はジャンプの着地で前十字靭帯断裂は少ないと言われています2・3。
これは上級者の方が高いところからジャンプする傾向にあり、初心者はあまりジャンプをしないことが理由として考えられ、ビッグジャンプによる着地がスノーボードにおける前十字靭帯断裂の原因に関係していると考えられます。
スノーボードのワールドカップを解析した映像では、ビッグジャンプで前十字靭帯断裂が起きる時にはテクニカルなミスが発生していることが多く、高い軌道でのジャンプになったり、ライン取りが悪かったり、着地時にバランスを崩していることが多いことが報告されています4。
(Bakken et al 2011)
こういったことからスノーボードのジャンプで大きな着地衝撃がかかるような状況、細かなミスが重なってうまく着地できないような時に前十字靭帯断裂のリスクがあると言えます。
鋭いターン
スキー選手の場合には鋭いターンが主な前十字靭帯断裂の原因なのですが、スノーボードにおいてはターンをするときに前十字靭帯断裂はあまり起こらないことが報告されています2。
スキーと比べるとスノーボードでは鋭い角度でのターンになりにくく、膝が捻れたり曲がったりすることが少なく、これがスノーボードのターンで前十字靭帯断裂が少ないことと関係していると考えられます。
というのもスノーボードの場合には両脚がひとつのボードに固定されているため、膝の自由度が少なく、膝に大きな負担がかかりにくいと言われています5。
そもそも前十字靭帯に限らずスノーボードでは膝の怪我が少ない傾向にあり、ある研究ではスキーと比べるとスノーボードの膝の怪我は半分以下であることが報告されています6。
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リハビリ
ジャンプ着地への対策
スノーボードにおいてはビッグジャンプでの前十字靭帯断裂が多いことから、ジャンプの着地で怪我しないように対策をしていくことが大切です。
前十字靭帯断裂をすると怪我した脚に体重をかけることに恐怖を感じることも多いため、まずは丁寧で的確なリハビリを行って膝を良い状態に持っていくことが重要です。
前十字靭帯断裂後に簡単なジャンプの着地でさえ怖いということがありますが、経験上はシンプルに質の良いリハビリを行うことでこの問題は解決しやすく、ジャンプの着地が怖い場合にはリハビリに穴があることが多い印象です。
そしてスノーボードでの高いところから安全に着地するためには膝の安定性、衝撃に対抗できる筋力、柔らかく着地できるテクニックを高めていくことがポイントになります。
こういったものは簡単に獲得できるようなものではないのでリハビリの中でも地道にトレーニングしていくことが役立つかと思います。
パルクールの着地は衝撃吸収に優れている
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足首や足部の重要性
スノーボード選手の前十字靭帯再建手術後のリハビリで忘れてはいけないのが、足首や足部の機能強化です。
スノーボードでは両方の足首をひとつのボードに固定したまま動くため、スキーよりも足首に大きな負担がかかりやすく、ある研究ではスキーの4倍近く足首の怪我が発生していることが報告されています6。
近年では前十字靭帯のリハビリにおいて足首の重要性が認識されてきましたが、スノーボードの場合にはいつも以上に注意を払うことが大事です。
足首周りのストレッチやマッサージだけでなく、足首や足部のトレーニングは多くのバリエーションを取り入れ、より徹底して機能強化しておくことが大事です。
スノーボードへの復帰
前十字靭帯再建手術後のリハビリは地道なことの積み重ねであり、スノーボードへの復帰に1年前後、あるいはそれ以上の時間がかかることも珍しくありません。
ある研究では70%がスノーボードに復帰し、前十字靭帯の再断裂は4%ほどであることが報告されています7。
他のスポーツでは前十字靭帯の再断裂は約10〜20%ほどであることが多く、これと比べるとスノーボードにおける再断裂のリスクは低いと言えます。
しかし、前十字靭帯断裂をしてしまうと大きな影響があるので、復帰には慎重な判断が求められます。
まとめ
スノーボードにおける前十字靭帯断裂は主にジャンプの着地時起こりやすく、高い軌道でのジャンプやライン取りのミス、着地の不安定さがリスクになります。
スノーボードの怪我を減らすためにはジャンプ着地の強化、そして足首周りの機能を高めていくことが大切です。
<参考文献>
- Kim S, Endres NK, Johnson RJ, Ettlinger CF, Shealy JE. Snowboarding injuries: trends over time and comparisons with alpine skiing injuries. Am J Sports Med. 2012 Apr;40(4):770-6. doi: 10.1177/0363546511433279. Epub 2012 Jan 20. PMID: 22268231.
- Davies H, Tietjens B, Van Sterkenburg M, Mehgan A. Anterior cruciate ligament injuries in snowboarders: a quadriceps-induced injury. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2009 Sep;17(9):1048-51. doi: 10.1007/s00167-008-0695-7. Epub 2008 Dec 16. PMID: 19083202.
- Janes PC, Abbott PC (1999) The Colorado snowboarding injury study eight year results. In: Johnson RJ, Mote CTJ, Zelcer J (eds) Skiing trauma and safety, vol 12 (ASTM STP 1182). American Society for Testing and Materials, West Conshohocken, pp 141–149
- Bakken A, Bere T, Bahr R, Kristianslund E, Nordsletten L. Mechanisms of injuries in World Cup Snowboard Cross: a systematic video analysis of 19 cases. Br J Sports Med. 2011 Dec;45(16):1315-22. doi: 10.1136/bjsports-2011-090527. Epub 2011 Nov 15. PMID: 22085990.
- Wijdicks CA, Rosenbach BS, Flanagan TR, Bower GE, Newman KE, Clanton TO, Engebretsen L, Laprade RF, Hackett TR. Injuries in elite and recreational snowboarders. Br J Sports Med. 2014 Jan;48(1):11-7. doi: 10.1136/bjsports-2013-093019. Epub 2013 Nov 26. PMID: 24282020.
- Bladin C, Giddings P, Robinson M. Australian snowboard injury data base study. A four-year prospective study. Am J Sports Med. 1993 Sep-Oct;21(5):701-4. doi: 10.1177/036354659302100511. PMID: 8238711.
- Erickson BJ, Harris JD, Fillingham YA, Cvetanovich GL, Bhatia S, Bach BR Jr, Bush-Joseph CA, Cole BJ. Performance and Return to Sport After Anterior Cruciate Ligament Reconstruction in X-Games Skiers and Snowboarders. Orthop J Sports Med. 2013 Nov 7;1(6):2325967113511196. doi: 10.1177/2325967113511196. PMID: 26535253; PMCID: PMC4555512.