アキレス腱炎の痛みは意外としつこく、ランニングができないほどの痛みに悩まされることもあるかと思います。
アキレス腱炎を治すためには練習を休んだほうがいいというのは頭でわかっている、けれど練習は休みたくないという気持ちもあるかと思います。
スポーツ医学の定石では完治するまで無理しないことが大切なのですが、競技ランナーの現場においては走りながら治すということをやらざるを得ない場面もあるわけです。
私自身が競技志向のランナーとして走っている中で試行錯誤して見つけた、できるだけ走りながら治すための方法をご紹介したいと思います。
アキレス腱炎とは
アキレス腱炎とはランニングやジャンプ動作などを繰り返すことによってアキレス腱に炎症が起こる状態です。
アキレス腱炎が回復するまでの期間は症状の重さよって異なりますが、一般的には数週間から数ヶ月かかることがあります。
重度のアキレス腱炎の疑いがある場合には整形外科で診断を受けることが大切です。
アキレス腱炎を走りながら治す方法
次のステップをできるだけ多く取り入れることでアキレス腱炎を走りながら治すということがやりやすくなります。
都合のいい一部分だけ取り入れるとなると効果が弱まり、走りながら治すことが難しくなっていきます。
テーピング
ランニング時のアキレス腱の痛みを軽減するにはテーピングをして走ることが大切になります。
テーピングの仕方には様々なものがありますが、基本は踵からふくらはぎにかけてテーピングを施すことが基本になります。
そして、くるぶしの内側と外側をカバーするように横方向のテーピングを張るとアキレス腱への負荷がさらに軽減されやすくなります。
この時にテーピングの位置はくるぶしが出っ張っている部分の少し下くらいがいいでしょう。
ヒールパッドの導入
シューズの踵部分にヒールパッドを入れることで、ランニング時のアキレス腱の負荷を減らすことができます1。
これは踵をふくらはぎの筋肉で持ち上げる動作によってアキレス腱に負荷がかかりやすいため、踵を最初から高い位置に置くことでアキレス腱の負荷が減るというわけです。
ヒールパッドはアキレス腱炎の痛みを減らす効果も報告されていて、ヒールパッドを入れた時から痛みが減る即効性にも優れています2。
ヒールパッドはスポーツ用品店に売っていることは少なく、ネット通販で購入することがオススメです。
値段は1000円弱で購入できることも嬉しいポイントです。
短時間での高負荷ランニング
意外かもしれませんが、高負荷のランニングをメインにした方がアキレス腱炎を走りながら治すことがやりやすくなります。
というのも走るスピードを2倍にすることは難しいですが、走る距離を2倍にすることは簡単にできてしまうわけで、長距離練習の方がアキレス腱への負荷が高くなりやすいわけです。
具体的な練習メニューとしては200m X 10、400m X 10、800m X 5のインターバル走などがオススメです。
こういったトレーニングならば走っている時間が10分弱になるので、アキレス腱にそこまで大きな負荷がかかりにくくなります。
高強度ランニングにする目的は短時間でトレーニングを終わらせることなので、反復回数を多くしてしまうと意味がないので注意しましょう。
そして、毎日高強度のインターバル走をやるのではなく1週間に2〜3回に抑えておくことも重要です。
そもそもが高強度のトレーニングなので毎日やっても高い効果を得られるわけではありませんし、週2〜3回で効果が得られます。
この少ない練習量で高い効果を得られるという効率の良さもアキレス腱炎を走りながら治すのに高強度ランニングが適している理由です。
ジョグの練習をなくす
走るスピードよりも走る距離の方がアキレス腱に与えるダメージが大きいため、アキレス腱炎を走りながら治す場合にはジョグの練習を無くすことが大事です。
高強度ランニングと比べた場合、ジョグの練習をなくしてもパフォーマンスの低下が起こりにくいため、練習量を減らす場合にはジョグから削っていくことが賢明です。
筋力低下よりも有酸素運動能力の低下が緩やかであるため、走力を維持しやすいと言えます。
できるだけ練習量を減らさずに走りながら治す方法はないのか?と思うかもしれませんが、怪我をしている時にもたくさん練習してパフォーマンスを高めようとするのは高望みしすぎであり、リスクが高すぎると思います。
怪我や痛みを抱えてしまったのなら、どれだけ走力を落とさないかに集中した方が効率的だと思います。
普段からウェイトトレーニングをやる
走りながら治すを実現するために大事なのが、普段からカーフレイズのウェイトトレーニングに取り組んでいることです。
高重量のウェイトトレーニングでふくらはぎを鍛えることでアキレス腱の強度が高まり、アキレス腱炎を防ぐ効果が期待できます3・4。
そして、走りながらアキレス腱炎を治す状況下において、普段やっているウェイトトレーニングを無くすことでアキレス腱への大幅に負荷を減らすことができます。
普段から強度の高いトレーニングに取り組むことで、怪我への対処能力が上がるわけです。
アキレス腱炎を走りながら治す時の注意点
直近数ヶ月の練習内容を考慮すること
直近の2〜3ヶ月激しい練習が続いている時、走行距離が多くなっている時はアキレス腱に慢性的なダメージがかなり蓄積している可能性が高く、走りながら治すことの難易度が上がります。
この場合にはじっくりと休養を入れた方がアキレス腱炎が長引かずに、結果的に練習量を維持しやすくパフォーマンスを高めることにつながるかと思います。
走りながら治すというのは、あくまで軽度のアキレス腱炎にしか通用しない方法であり、重度のアキレス腱炎の疑いがある場合には安静にしましょう。
重症化のリスクに注意すること
走りながら治すために重要なポイントが回復速度を上回る負荷の練習をしないということであり、決してアキレス腱炎が綺麗さっぱり無くなる方法ではありません。
回復速度を上回るような負荷が加われば、アキレス腱炎が重症化していく可能性があります。
こうなってしまうと走りながら治すという選択が、アキレス腱炎を長期化させてしまい、結果的に練習量が大幅に落ちてしまいます。
特に痛みが軽い時、治りはじめの時にこそ注意が必要であり、無理しようと思えば長い距離を走れてしまうため重症化のリスクがあります。
ストレッチやマッサージについて
アキレス腱炎を抱えてしまった時の対処方法としてストレッチやマッサージを取り入れている人は多いことかと思います。
しかし、アキレス腱炎に対するストレッチの科学的根拠は弱く、アキレス腱炎を防ぐ効果はあまり見込むことができないことが報告されています5。
マッサージに関しても強い科学的根拠があるわけでもなく、アキレス腱炎の治療でマッサージがそこまで推奨されているわけではありません6。
私自身もアキレス腱炎を抱えていた時にストレッチやマッサージを試してみましたが、アキレス腱炎の回復にそんなに高い効果があるようには思えませんでした。
ストレッチやマッサージを取り入れるとするならば足首の可動域が著しく低下している場合など、あくまで柔軟性を戻すという役割で取り入れるくらいがちょうどいいかと思います。
まとめ
アキレス腱炎を走りながら治すためにはランニング時にアキレス腱にかかる負荷を減らしていき、回復速度を上回るような高い負荷の練習をしないことが重要なポイントになります。
<参考文献>
- Wulf M, Wearing SC, Hooper SL, Bartold S, Reed L, Brauner T. The Effect of an In-shoe Orthotic Heel Lift on Loading of the Achilles Tendon During Shod Walking. J Orthop Sports Phys Ther. 2016 Feb;46(2):79-86. doi: 10.2519/jospt.2016.6030. Epub 2016 Jan 11. PMID: 26755409.
- Alghamdi NH, Pohlig RT, Seymore KD, Sions JM, Crenshaw JR, Grävare Silbernagel K. Immediate and Short-Term Effects of In-Shoe Heel-Lift Orthoses on Clinical and Biomechanical Outcomes in Patients With Insertional Achilles Tendinopathy. Orthop J Sports Med. 2024 Feb 7;12(2):23259671231221583. doi: 10.1177/23259671231221583. PMID: 38332846; PMCID: PMC10851750.
- Morrissey D, Roskilly A, Twycross-Lewis R, Isinkaye T, Screen H, Woledge R, Bader D. The effect of eccentric and concentric calf muscle training on Achilles tendon stiffness. Clin Rehabil. 2011 Mar;25(3):238-47. doi: 10.1177/0269215510382600. Epub 2010 Oct 27. PMID: 20980351.
- Sivrika AP, Papadamou E, Kypraios G, Lamnisos D, Georgoudis G, Stasinopoulos D. Comparability of the Effectiveness of Different Types of Exercise in the Treatment of Achilles Tendinopathy: A Systematic Review. Healthcare (Basel). 2023 Aug 11;11(16):2268. doi: 10.3390/healthcare11162268. PMID: 37628466; PMCID: PMC10454459.
- Park DY, Chou L. Stretching for prevention of Achilles tendon injuries: a review of the literature. Foot Ankle Int. 2006 Dec;27(12):1086-95. doi: 10.1177/107110070602701215. PMID: 17207437.
- Silbernagel KG, Hanlon S, Sprague A. Current Clinical Concepts: Conservative Management of Achilles Tendinopathy. J Athl Train. 2020 May;55(5):438-447. doi: 10.4085/1062-6050-356-19. Epub 2020 Apr 8. PMID: 32267723; PMCID: PMC7249277.