アキレス腱炎の痛みは意外としつこく、ランニングができないほどの痛みに悩まされることもあるかと思います。
競技レベルのランナーは、完全な休養が難しい場合もあるため、症状を悪化させないように注意しながら、練習を継続するための方法を模索せざるを得ない場合があるかもしれません。
しかし、アキレス腱炎の根本的な治療には安静が不可欠であり、専門家に相談することが大切です。
そういったことが基本ではありますが、私自身が競技志向のランナーとして走っている中で試行錯誤して見つけた、休養によるパフォーマンス低下を防ぎながらアキレス腱炎と付き合う方法をご紹介したいと思います。
アキレス腱炎とは
アキレス腱はふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつなぐ腱で、足首を伸ばしたり、つま先立ちになったりする際に重要な役割を果たしています。
アキレス腱炎とはランニングやジャンプ動作などを繰り返すことによってアキレス腱に炎症が起こる状態であり、急な運動量の増加、不適切なシューズの使用、足首の可動域制限などが原因となることがあります。
アキレス腱炎は症状には周辺の腫れ、熱感、圧痛、朝起きた時や運動開始時の痛み、運動後の痛み、アキレス腱を伸ばした時の痛みなどがあります。
アキレス腱炎が回復するまでの期間は症状の重さよって異なりますが、一般的には数週間から数ヶ月かかることがあります。
歩くことが難しいほどの強い痛みがある場合、腫れがひどい場合、安静にしていても痛みが改善しない場合などは、重度のアキレス腱炎の疑いがあるため、速やかに整形外科を受診することをお勧めします。
アキレス腱炎を放置すると慢性化して痛みが長引いたり、アキレス腱の断裂につながるリスクがあります。
アキレス腱炎の応急処置と練習継続時の注意点
次のステップをできるだけ多く取り入れることでアキレス腱炎の悪化のリスクを抑えながら、最低限のランニングに取り組みやすくなります。
都合のいい一部分だけ取り入れるとなると効果が弱まり、走りながら治すことが難しくなっていきます。
テーピング
ランニング時のアキレス腱の痛みを軽減するにはテーピングをして走ることが大切になります。
テーピングの仕方には様々なものがありますが、基本は踵からふくらはぎにかけてテーピングを施すことが基本になります。
そして、くるぶしの内側と外側をカバーするように横方向のテーピングを張るとアキレス腱への負荷がさらに軽減されやすくなります。
この時にテーピングの位置はくるぶしが出っ張っている部分の少し下くらいがいいでしょう。
ヒールパッドの導入
シューズの踵部分にヒールパッドを入れることで、ランニング時のアキレス腱の負荷を減らすことができます1。
これは踵をふくらはぎの筋肉で持ち上げる動作によってアキレス腱に負荷がかかりやすいため、踵を最初から高い位置に置くことでアキレス腱の負荷が減るというわけです。
ヒールパッドはアキレス腱炎の痛みを減らす効果も報告されていて、ヒールパッドを入れた時から痛みが減る即効性にも優れています2。
しかし、長期的なヒールパッドの使用は別の部分にダメージが蓄積する可能性があるため注意が必要です。
また、ヒールパッドを加えることによってシューズのクッションが柔らかくなり過ぎてしまう場合、シューズのフィット感が失われて安定性が失われてしまう場合など、ヒールパッドによって痛みが出てしまうこともあるため注意が必要です。
ヒールパッドの他にインソールの処方という選択もあるかと思います。
インソールは不適切なシューズの使用によるバランスの悪さを修正しやすいという利点があり、アキレス腱炎の症状緩和に役立ちますが、
オーダーメイドのインソールは費用が高いこと、インソールではかかとの高さを上げてアキレス腱の負荷を減らす効果に限りがあることなどがデメリットです。
ジョグの練習を減らして安静にする
走るスピードよりも走る距離の方がアキレス腱に与えるダメージが大きいため、アキレス腱炎を悪化させないためにはジョグの練習をできるだけ減らすこと、ジョグを一切なくして休養を取ることが大事です。
というのもジョグは距離が長くなりがちであり、限界を超えて長い距離のジョグをしてしまうことが多々あるためです。
ジョグの練習を減らしても短期間ではパフォーマンスの低下が起こりにくいため、練習量を減らす場合にはジョグから削っていくことが賢明です。
有酸素運動能力の低下が緩やかであるため、ジョグを無くしても思っているほど走力が落ちないかと思います。
ジョグは低負荷であるため適度にやったほうがいい、という意見もあるかもしれません。
何のために適度なジョグをやるのか?という点が重要であり、中途半端にジョグをやっても有酸素運動能力は伸びにくいですし、パフォーマンスの維持にそこまで大きな効果は期待しにくいと言えます。
むしろ、中途半端なジョグはアキレス腱炎を悪化させるリスクがあるため休養を取ったほうがダメージが回復しやすくなります。
短時間でのランニングをする場合の注意点
アキレス腱炎を抱えた場合にどうしても練習をせざるを得ない場合には400m X 8、800m X 5など、
できるだけ短い時間でのランニングでアキレス腱に負担がかからないようにすることが大事なポイントになります。
欲張って反復回数を多くしてしまったり、走る時間が長くなってしまっては意味がないので注意しましょう。
あくまで安静にすることがアキレス腱炎の適切な対処方法となります。
また、短時間での高強度のトレーニングにはアキレス腱炎を悪化させるリスクがあるためスピードの出しすぎもオススメしません。
狙っている大会でのレースペースよりも早いスピードで走ることは負荷が高すぎる可能性がありますし、アキレス腱炎を抱えている状態ではパフォーマンス向上の効果は限定的です。
そして、アキレス腱炎を抱えている場合には毎日走るのではなく、多くても1週間に2〜3回のランニングに抑えておくことも重要です。
そもそもインバーバル走は毎日やっても高い効果を得られるわけではありませんし、週2〜3回で効果が得られます。
この少ない練習量で効果を得られやすいという点も怪我のリスクを抑えながらパフォーマンスを維持しやすい理由のひとつです。
クロストレーニング(水泳・バイク)
アキレス腱炎を抱えている場合にはクロストレーニングが推奨されることがあります。
水泳や自転車などのクロストレーニングはアキレス腱に負担がかかりにくく、筋力や持久力を維持する効果があると言われています。
しかし、クロストレーニングを行う際にもいくつかの注意点があります。
まず、プールを歩くというトレーニングについてですが、やり過ぎに注意が必要です。
というのもプールを歩く場合にはつま先立ちのような歩き方になりやすく、アキレス腱に意外と負荷がかかる場合がありますし、負荷が軽いからと長時間プールで歩いて痛みを悪化させてしまう場合があります。
また、自転車のトレーニングもアキレス腱の負荷が低いと言われていますが、ペダリングの方法次第ではアキレス腱の負荷が高まってしまう可能性があります。
特につま先立ちに近いような状態でのペダリングはアキレス腱の負荷につながりやすく、足裏全体でペダリングをすることが大切です。
自転車のトレーニングもアキレス腱の負荷が軽いという印象があるため、やり過ぎてアキレス腱炎を悪化させてしまう場合があるので注意が必要です。
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ランナーに効果的なクロストレーニングとは?
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アキレス腱炎を走りながら治す時の注意点
直近数ヶ月の練習内容を考慮すること
直近の2〜3ヶ月激しい練習が続いている時、走行距離が多くなっている時はアキレス腱に慢性的なダメージがかなり蓄積している可能性が高く、走りながら治すことの難易度が上がります。
この場合にはじっくりと休養を入れた方がアキレス腱炎が長引かずに、結果的に練習量を維持しやすくパフォーマンスを高めることにつながるかと思います。
走りながら治すというのは、あくまで軽度のアキレス腱炎にしか通用しない方法であり、重度のアキレス腱炎の疑いがある場合には休養を取って安静にしましょう。
重症化のリスクに注意すること
走りながら治すために重要なポイントが回復速度を上回る負荷の練習をしないということであり、決してアキレス腱炎が綺麗さっぱり無くなる方法ではありません。
回復速度を上回るような負荷が加われば、アキレス腱炎が重症化していく可能性があります。
具体的には練習後に痛みが悪化しないこと、1週間単位で比べた時に痛みが軽減されて回復に向かっている範囲内での練習に抑えておくことが大事です。
走った後に痛みが以前よりも悪化するようであれば、走るという選択によってアキレス腱炎を長期化させてしまい、結果的に練習量が大幅に落ちてしまいますし、パフォーマンスの低下は避けられません。
特に痛みが軽い時、治りはじめの時にこそ注意が必要であり、無理しようと思えば長い距離を走れてしまうため慎重な判断が求められます。
ストレッチやマッサージについて
アキレス腱炎を抱えてしまった時の対処方法としてストレッチやマッサージを取り入れている人は多いことかと思います。
ストレッチやマッサージは柔軟性の向上や血流改善の効果がありますが、アキレス腱炎の根本的な治療効果があるわけではなく、アキレス腱炎を防ぐ効果は限定的であることが報告されています5・6。
あくまでストレッチやマッサージは柔軟性を高めるといった目的に使うことが適切であるかと思います。
アキレス腱の過度なストレッチ、アキレス腱に対するマッサージの強い刺激などはアキレス腱炎を悪化させる可能性があるため注意が必要です。
私自身もアキレス腱炎を抱えていた時にストレッチやマッサージを試してみましたが、アキレス腱炎の回復に高い効果があるわけではありませんでした。
最善の方法
ここまでアキレス腱を走りながら治す方法というものを紹介してきましたが、アキレス腱炎を最速で治しつつランニングのパフォーマンスを高める最善の方法も紹介しておきたいと思います。
それは無理に走らずに十分な休養を取ることです。
結局のところ、早めに休むという決断をして怪我を全回復させた方が十分な練習ができるため、パフォーマンスが高まりやすくなります。
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休養によるランニングパフォーマンス低下について
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アキレス腱炎の疑いがある場合には安静に休養を取ることが基本であり、痛みが続く場合は自己判断で練習を継続するのではなく、医師や理学療法士などの専門家に相談することが大切です。
まとめ
アキレス腱炎を改善させるための最善の方法は無理に走るのではなく、安静に休むことです。
どうしても走らざるを得ない場合には、テーピングやヒールパッドに加えて、できるだけ少ない量のランニングになるように心がけることが大事なポイントです。
この記事はあくまで著者の経験に基づくものであり、すべての人に当てはまるわけではありません。アキレス腱炎の治療については専門家に相談することが大切です。
<参考文献>
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- Alghamdi NH, Pohlig RT, Seymore KD, Sions JM, Crenshaw JR, Grävare Silbernagel K. Immediate and Short-Term Effects of In-Shoe Heel-Lift Orthoses on Clinical and Biomechanical Outcomes in Patients With Insertional Achilles Tendinopathy. Orthop J Sports Med. 2024 Feb 7;12(2):23259671231221583. doi: 10.1177/23259671231221583. PMID: 38332846; PMCID: PMC10851750.
- Morrissey D, Roskilly A, Twycross-Lewis R, Isinkaye T, Screen H, Woledge R, Bader D. The effect of eccentric and concentric calf muscle training on Achilles tendon stiffness. Clin Rehabil. 2011 Mar;25(3):238-47. doi: 10.1177/0269215510382600. Epub 2010 Oct 27. PMID: 20980351.
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