ランニング

ランナーのアキレス腱のバネの強化について

2025年1月12日

 

アキレス腱の役割

アキレス腱は弾性エネルギーを伝える役割があり、ランニング時にバネのような力を生み出します。

ふくらはぎの筋肉

ランニングで地面に着地する瞬間にふくらはぎの筋肉が力を入れることで、アキレス腱がピンと張って引き伸ばされ、アキレス腱はバネのようにエネルギーを蓄えます。

地面から足を離す瞬間に蓄えられた弾性エネルギーが一気に解放され、このバネのような反発力に筋肉の力が加わり、大きな推進力となります。

アキレス腱はランニングのエネルギー効率に関係していて1・2、マラソンの後半では徐々にアキレス腱の弾性エネルギーが失われてしまい、パフォーマンスが低下するという報告もあります

 

長距離ランナーのアキレス腱の構造

長距離ランナーは日々のトレーニングによってアキレス腱が強化されています。

実際に長距離ランナーは運動をしていない人と比べるとアキレス腱が大きく発達し、硬くなっていることがMRI検査によって報告されています

大きくて硬いバネは、より強力な弾性エネルギーを生み出すことができ、これがランニングのパフォーマンス向上に役立ちます。

トラック競技ランニング

一方で5000m走のタイムが良い長距離選手ほどアキレス腱が柔らかいという研究結果もありますが4・5、これは計測方法の違いによるものです。こういった研究結果はMRIよりも精度の低いエコー検査が用いられ、献体から採取したアキレス腱の計測数値との乖離が大きいため疑問が残ります

いずれにしても、硬くて丈夫なアキレス腱がより強力なバネであると考えられ、トレーニングでアキレス腱を強化していくことが役立つ可能性があります。

 

アキレス腱の鍛え方について

ふくらはぎのトレーニング

ふくらはぎの筋肉のトレーニングはアキレス腱を強化に役立ちます

ふくらはぎの筋肉はアキレス腱につながっているため、ふくらはぎに大きな力を加えることで必然的にアキレス腱にも負荷がかかるため、アキレス腱のトレーニングにもなります。

 

ふくらはぎの筋肉のトレーニングは、足首周りの筋肉もバランスよく鍛えることでさらなる効果が期待できます。

芝生ランニング
アキレス腱炎のリハビリとトレーニング

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坂道

坂道でのランニングはアキレス腱の強化に役立ちます。

トレイルランニング

マラソンランナーよりもトレイルランナーの方がアキレス腱が約30~40%大きく発達しているという報告があります

走行距離よりも獲得標高のほうがアキレス腱の発達への影響が大きいことが示されていて、通常のマラソンの走り込みだけではアキレス腱の発達には限界があるかと思います。

トレイルランニング
トレイルランニングの効果と怪我のリスクについて

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プライオメトリクス

プライオメトリクスなどのジャンプトレーニングでアキレス腱が鍛えることができます10

ジャンプの着地時にアキレス腱が勢いよく引き伸ばされ、そこに大きな力を加えて反発するためアキレス腱を強力に鍛えることができます。

 

プライオメトリクストレーニングも様々なバリエーションを取り入れることで、より高い効果を生み出すことができます。

バウンディング
長距離ランナーのプライオメトリクストレーニング

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ストレッチ

アキレス腱を鍛えるためにはある程度の足首の可動域もポイントになります。

足首の可動域が確保されることで、ジャンプの着地時などにアキレス腱が引き伸ばされやすくなるため、アキレス腱を鍛えやすくなります。

足首の背屈の可動域

このためふくらはぎのストレッチや足首周りのマッサージなどに取り組み、可動域を確保することが役立ちます。

とはいえ足首が柔らかすぎると問題になることがり、足首が不安定でグラグラするような軟体人間のような柔らかさでは、足首がぐらついて力が逃げやすくなってしまいます。

強力に硬いゴムのようなイメージで、可動域があるけれども硬い足首がランニングに適しています。

スプリンター足首
足首を固める走り方がパフォーマンス向上につながる

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アキレス腱炎のリスク

アキレス腱を鍛えるトレーニングはやり過ぎてしまうとアキレス腱炎のリスクがあります。

普段から多く走っている長距離ランナーはある程度の耐性があるかもしれませんが、練習でダメージが蓄積している可能性もあります12・13

月間走行距離が600kmあったとしてもアキレス腱がそこまで強靭に発達しているとは限らず、プライオメトリクスなどのトレーニングのほうが負荷が大きかったりするため、走行距離が多いランナーでもアキレス腱炎を引き起こしてしまうことがあります。

このためアキレス腱を鍛えるトレーニングを取り入れる際には、急激なトレーニングは避け、軽いものから少しずつ行うことがアキレス腱炎を防ぐのポイントになります。

ランニング
アキレス腱炎の応急処置とランニングを継続する際の注意点

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まとめ

アキレス腱はバネのような弾性エネルギーを発揮し、ランニングのパフォーマンス向上に役立ちます。

アキレス腱を強化するにはふくらはぎのトレーニング、坂道でのランニング、プライオメトリクスなどが役立ちます。

 

<参考文献>

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