バドミントンでは肘を痛める選手も多く、長い間しつこい肘の痛みに悩まされることも珍しくありません。
ここで肘の痛みの原因、改善方法についてバドミントン特有の要素を踏まえて詳しく解説していきます。
バドミントンの肘の痛みの種類
バドミントンの肘の痛みはテニス肘やゴルフ肘であることが多いと言われています1・2。
テニス肘(外側の痛み):肘の外側にある腱に負担がかかり、炎症を起こした状態です。テニスプレーヤーに多いため「テニス肘」と呼ばれますが、バドミントンにも多く見られます。バドミントンでは、特にバックハンドストロークで手首を酷使することが主な原因とされています。
ゴルフ肘(内側の痛み):肘の内側にある腱に微細な損傷や炎症を起こした状態です。ゴルフプレーヤーに多いため「ゴルフ肘」と呼ばれますが、バドミントンなどでも多く見られます。バドミントンではフォアハンドストロークやスマッシュなどで肘の内側に過度な負担がかかることで発症しやすいと言われています。
他にも肘関節の軟骨の損傷や神経の炎症など様々な怪我の可能性が考えられ、肘の痛みが続く場合には医療機関を受診することが大切です。
バドミントンの肘の痛みの原因
スイング
不適切なスイングは肘の負担につながりやすく、怪我のリスクとなります。
肘の外側の痛みの原因はバックハンド時の手首の動きに関係していて、手首を返すような動きをする筋肉が肘の外側につながっていて、手首のスナップに頼ったスイングなどで手首が酷使されると肘の外側の痛みにつながります。
肘の内側の痛みの原因はフォアハンド時の手首の動きに関係していて、手首を内に動かす筋肉が肘の内側につながっていて、手首に頼ったスイングなどで手首が酷使されると肘の内側の痛みにつながります。
スマッシュのテイクバックの動きも肘の内側に負担がかかりやすく、テイクバックの振りが大きいほど負担が大きくなってしまいます。
さらにスマッシュのインパクトからフォロースルーにかけて肘をあまり曲げずに、肘を伸ばすようにスマッシュのスイングをするとスピードが出やすくなりますが1、このスイングの方法は肘の負担が大きくなってしまいます。
スマッシュの肘の負担を減らすにはテイクバックはコンパクトにして、フォロースルーでは肘を曲げて衝撃を吸収するように意識することがポイントです。
また、身体全体を使ったスマッシュのフォームで、肘への負担を分散させることも役立ちます。
グリップ
バドミントンの肘の痛みにはグリップも関係していて、グリップを握る筋肉は肘までつながっているため、グリップの筋肉が酷使されると肘にも負担がかかります。
また、グリップのサイズが不適切だと、余計な力がかかってしまい肘の負担へとつながります。
強いテンションのガットはスピードが出やすくなりますが、ガットによる衝撃吸収が弱く、より強いグリップの力が求められるため肘の負担が大きくなってしまいます。肘に不安がある場合には弱めのテンションのガットを使うことで肘の負荷を軽減することができます。
柔軟性
柔軟性の低下はバドミントンの肘の痛みに関係していることがあります。
ある研究では定期的に肩回りのストレッチをしているバドミントン選手は肘を痛めることが少ないことが報告されています2。
肩回りが柔らかいことで肩の動きが良くなり、負荷を分散させることができるため肘の負担を減らしやすくなります。
筋力不足
バドミントンの肘の痛みには筋力不足も関係していて、筋力が弱いと怪我のリスクにつながります。
バドミントンでは手首のスナップに頼ったショットが多く、手首を動かす筋肉は肘までつながっているため手首を動かす筋肉が重要なポイントになります。
プロのバドミントン選手を対象にした研究でこういった筋肉のバランスが乱れやすいことが報告されています3。
また、スマッシュなどの大きなスイングでは肩回りの筋肉も多く使われるため、肩回りの筋力不足が肘の痛みにつながります。
過剰な練習
練習時間が長かったり、強度の高い練習など、過剰な練習は肘の痛みにつながります。
特に急激に練習量を増やすことにリスクがあり、普段やっていないような練習メニューや練習時間には注意が必要です。
怪我を防ぐポイントは少しずつ負荷を増やすことであり、身体を徐々に慣らすことで耐性ができ、怪我が起こりにくくなります。
バドミントンの肘の痛みの改善方法
休養
バドミントンの肘の痛みを改善するためには十分な休養を取ることが基本になります。
無理をしてプレーを続けるほど肘が回復するのに時間がかかり、休養期間が長くなってしまう可能性があります。
最小限の休養期間で済ませるには、痛みを感じた早い段階で休養を取ることが大事なポイントです。
そして、プレー時の痛みや違和感がなくなるまで休養を取ることが再発を防ぎやすくなります。
テーピング
バドミントンの肘の痛みの種類によってテーピングの仕方が変わってきます。
肘の外側の痛み(テニス肘)がある場合には、外側の手首を反る働きをする筋肉を補助するようにテーピングをすることが役立ちます。
肘の内側に痛み(ゴルフ肘)がある場合には、肘の内側の手首を丸める働きをする筋肉を補助するようにテーピングをすることが役立ちます。
肘の痛みが外側や内側ではなく、肘全体にある場合などにはテーピングの方法も変わってきます。
身体の状態に応じて最適なテーピングの方法が変わってくるため、詳しいテーピングの方法は専門家に相談することが大切になります。
サポーター
バドミントンの肘の痛みにはサポーターを使うことも役立ちます。
テーピングでは細かい調整がしやすいというメリットがありますが、サポーターには面倒な手間が省けるというメリットがあります。
サポーターは肘の周りを巻くようなストラップ形状のものが基本となりますが、ストラップ形状のものに突起部やパッドが付いているサポーターの場合には突起部を酷使されている筋肉に当てるように調整します。
突起部を筋肉に当てることで酷使されている筋肉の働きが抑制され、痛みが軽減する効果が期待できます。
肘のサポーターには痛みを軽減する効果がありますが、負傷した部分が治癒しているわけではありません。
サポーターをして無理にプレーを続けると肘の痛みが悪化する可能性があるため注意が必要です。
特に肘周りの筋力不足がある場合には肘のサポーターの効果が弱くなりやすいという指摘もあり4、リハビリなどで筋力不足を解消することも大事になります。
ストレッチ
肘周りの筋肉は硬くなりやすいため、ストレッチでほぐすことが肘の痛みの改善に役立ちます。
また、バドミントンの肘の痛みは肩の柔軟性も関係しているため、肩をほぐすようなストレッチも役立ちます。
特に肩の後ろ部分の硬さが問題になることが多いため、腕をクロスさせて肩の後ろをストレッチで伸ばすことがポイントになります。
ストレッチは柔軟性を高め、肘に負担がかかりにくいスイングにつながりますが、ストレッチ自体には負傷した部位を回復させる効果がないことに注意が必要であり、痛みが強い場合は無理にストレッチを行わないことも大切です。
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マッサージ
ストレッチだけで肘周りの筋肉をほぐすには限界があり、マッサージも取り入れることで肘周りの細かい筋肉をほぐしやすくなります。
肘周りの筋肉の硬さがあると筋肉の働きが悪くなることがあるため、広範囲に筋肉をほぐすことが役立ちます。
ただし、患部をマッサージでほぐしすぎると逆効果になってしまうことがあるため注意が必要です。
トレーニング
バドミントンの肘の痛みの改善にはトレーニングで弱い筋肉を鍛えることが役立ちます。
痛みがあるときに無理にトレーニングをすると悪化させてしまう可能性があるため、最初はを軽い負荷での簡単なエクササイズから始めることが大事です。
手首を動かす筋肉は肘につながっているため、手首を鍛えるトレーニングが基本になりますが、特定の筋肉ばかりに偏らないように手首を前後左右と4方向に満遍なく鍛えることがポイントになります。
ある程度痛みが回復してきたら、ダンベルなどの重量をつかったトレーニングも徐々に取り入れていきます。
肘の痛みは上腕の筋肉も関与していることが多く、特に二の腕にある上腕三頭筋が弱くなりやすいため、忘れずに鍛えておくことが役立ちます。
上腕三頭筋を鍛えるには肘の位置を固定したまま、肘を伸ばすようなフレンチプレスなどのエクササイズが役立ちます。
まとめ
バドミントンの肘の痛みは手首に頼ったスイング、スマッシュ動作、柔軟性不足、筋力バランスの乱れ、過剰な練習などが原因になります。
肘の痛みの改善には十分な休養、テーピング、ストレッチやマッサージ、トレーニングで弱い筋肉を鍛えることが役立ちます。
<参考文献>
- Pardiwala DN, Subbiah K, Rao N, Modi R. Badminton Injuries in Elite Athletes: A Review of Epidemiology and Biomechanics. Indian J Orthop. 2020 Mar 10;54(3):237-245. doi: 10.1007/s43465-020-00054-1. PMID: 32399141; PMCID: PMC7205924.
- Sithravelayuthan, Mayooran & Senadheera, Vindya & Dissanayake, Jayampathy. (2019). Elbow, Wrist and Hand Tendinopathies in Badminton Players. 10.12691/ajssm-7-1-3.
- I. Cancela Cilleruelo, C. Fernández de las Peñas, J. Rodríguez Jiménez, J.L. Arias Buría,
Adaptaciones musculotendinosas del tendón extensor común del codo en jugadores profesionales de bádminton: un estudio observacional, Fisioterapia, Volume 47, Issue 3, 2025, Pages 128-137, ISSN 0211-5638. - Harding WG 3rd. Use and Misuse of the Tennis Elbow Strap. Phys Sportsmed. 1992 Aug;20(8):65-74. doi: 10.1080/00913847.1992.11947467. PMID: 29272676.
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