坐骨神経痛とは?
坐骨神経痛はランニングなどによって坐骨神経が圧迫されたり、炎症を起こしたりすることで、腰から足にかけて痛みやしびれが生じる症状の総称です。
ランニング中に痛みや重さを感じたり、ランニングが困難になることもあります。また、前かがみになったり、座ったり、長時間立ったりすることで痛みが増すことがあります。
症状が改善しない場合には、整形外科などの医療機関を受診することが大切です。
ランナーの坐骨神経痛の原因
筋肉の硬さ
ランニングによって股関節や腰回りの筋肉が硬くなり、坐骨神経が圧迫されることが原因になることがあります。
特に股関節にある梨状筋と呼ばれる筋肉が関係していることが多々あり、柔軟性不足が大きな要因となります。
過剰な運動
ランナーの坐骨神経痛には走り過ぎなど、過剰な運動が原因であることが珍しくありません。
たとえばロング走を繰り返すことで股関節にダメージが蓄積し、坐骨神経の炎症につながります。
特に普段あまりやらない長い距離の練習にはリスクがあります。
また、走るスピードが速いと股関節へのダメージが大きくなります。
時速6km(1km10分ペース)で体重の約7倍の負荷が股関節にかかるのに対し、時速12km(1km5分ペース)では体重の約10倍の負荷が股関節にかかることが報告されています1。
このため速いペースでのランニングが坐骨神経痛につながりやすく、坐骨神経痛を防ぐには軽いペースでのジョグ、スロージョグなどが適しています。
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ランニングシューズ
ランニングシューズはランニングの怪我に影響を及ぼすものであり、身体に合わないシューズは坐骨神経痛につながる可能性があります。
一般的にクッションシューズのほうが股関節の負担が少なく、坐骨神経痛を防ぐためにクッションシューズが推奨されています。
しかし、興味深いことにクッション性がない裸足ランニングも股関節の負担が少ないことが報告されています2。
これは裸足で走ることによる重心位置の変化、足首での衝撃吸収などのランニングフォームの変化によって股関節の負荷が軽くなると考えられます。
というのも踵が低いフラットシューズも同様に股関節の負担が少ないことが報告されています3。
このためクッションシューズの中でも、つま先と踵の高低差が低いクッションシューズのほうが股関節の負担を和らげることができると言えます。
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ランニングフォーム
ランニングフォーム次第では股関節の負担が大きくなり、坐骨神経痛につながることがあります。
ストライド(歩幅)が大きいランニングフォームは股関節の負荷が大きく、ピッチ(一分間の歩数)が多いランニングフォームのほうが股関節の負荷が少ないことが報告されています4。
また、ニーインなどによりランニング時の左右のブレが大きいほど股関節の負荷が大きくなります5。
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ランニングの着地の位置も股関節の負荷に影響を及ぼし、身体よりも前の位置で着地すると股関節の角度が大きくなり、股関節の負荷が大きくなります。
このため身体の真下で着地するようなランニングフォームにすることで股関節の負荷を減らすことができます。
ちなみに、フォアフットかリアフット着地であるかどうかは股関節の負荷にそこまで大きな影響がないことが報告されています6。
筋力不足
筋力不足がある状態でのランニングは坐骨神経痛の原因になることがあります。
お尻の筋肉や内転筋などの筋力が弱いとランニング時の股関節の負荷が大きくなることが報告されています7・8。
また、股関節周りの筋肉が弱いと梨状筋などの負担が大きくなり、筋肉が硬くなりやすく坐骨神経の圧迫へとつながります。
腰痛
坐骨神経痛は腰痛が関係していることがあります。
特に椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、神経が圧迫されるような腰痛はリスクが高くなります。
ランナーの坐骨神経痛の改善方法
休養
ランニングで坐骨神経痛が生じた場合には休養を取ることが大事になります。
軽度のものであれば数日安静にすれば症状が緩和されることがあります。
重症の坐骨神経痛になると数か月の休養が必要になる場合もあります。
痛みや違和感がある時には無理に走らないことが大切になります。
マッサージ
股関節や腰回りの筋肉の硬さは坐骨神経痛の原因にあることがあるため、マッサージで筋肉をほぐすことは坐骨神経痛の改善に役立ちます。
自分自身でケアをする場合にはフォームローラーを使ってお尻の筋肉をほぐすことができますし、テニスボールを使うとよりピンポイントでお尻の筋肉をほぐすことができます。
しかし、闇雲にマッサージをしてしまうと痛みが悪化してしまうことがあり、特に強い力でのマッサージや長時間のマッサージは症状を悪化させるリスクがあるので避けたほうがいいでしょう。
安全にマッサージをするならば医療資格を持った専門家に依頼することがいいでしょう。
ストレッチ
筋肉の硬さは坐骨神経痛の原因にあることがあるため、ストレッチで筋肉をほぐすことは坐骨神経痛の改善に役立ちます。
次の図のように股関節をストレッチすることで梨状筋が約10%ほど伸ばすことができます9。
股関節をより深く曲げることでより大きなストレッチとなり、梨状筋が約30%ほど伸ばされます9。
過度なストレッチは症状を悪化させることがあるため、身体の状態に合わせて違和感のない範囲内でストレッチを行うことが大切です。
トレーニング
股関節周りのトレーニングに取り組むことで坐骨神経痛の改善に役立ちます2。
痛みがある時にスクワットのような激しいトレーニングだとお尻に過剰な負荷をかけてしまう可能性があるため、股関節周りの細かいインナーマッスルなどを鍛えていくことが役立ちます。
特に中殿筋や内転筋のトレーニングが症状の改善、ランニングフォームのブレの改善に役立ちます。
まとめ
ランナーの坐骨神経痛は筋肉の硬さによる神経の圧迫、ランニングフォームの乱れ、ランニングシューズ、筋力不足、過剰な練習などが原因になります。
坐骨神経痛の改善には休養、マッサージ、ストレッチ、股関節周りのトレーニングが役立ちます。
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