膝痛

ランナー膝の原因と改善方法について

2024年2月5日

長距離を走るランナーに多い悩みの一つがランナー膝であり、練習量が多くなって負荷がかかってくるとランナー膝によって長期離脱を余儀なくされてしまうケースも珍しくありません。

 

ランナー膝(腸脛靭帯炎)とは

ランナー膝とは膝の外側が痛くなってくる疾患であり、腸脛靭帯炎とも呼ばれています。腸脛靭帯は大腿骨の外側を通って、脛骨の外側に繋がっています。

 

ランナー膝(腸脛靭帯炎)はランニングで腸脛靭帯が何度もこすれることによって炎症を引き起こし、膝の外側に痛みが生じると一般的には考えられています。

ランナー膝に症状が似ている場合でも他の怪我の可能性もあり、その場合には対処方法が違ってくるので注意が必要です。

精密検査で正確な診断を受ける場合には整形外科に行くことが大切です。

 

ランナー膝の原因

腸脛靭帯が擦れる

一般的にランナー膝(腸脛靭帯炎)はランニングなどで腸脛靭帯は擦れて引き起こされていると考えられていますが、近年の研究でこの可能性の誤りが指摘されています。

健康的な人や腸脛靭帯炎を持っている人の膝をMRIで撮影したり解剖してみたところ、腸脛靭帯は強固に固定されており、動いて擦れることが難しいということが報告されています1・2

(Fairclough et al 2007)

他にも腸脛靭帯は膝の安定性に貢献しているなどの考え方も提唱されていて、単純に腸脛靭帯が擦れるという考えだけでは怪我のメカニズムを説明しきれないかと思います。

 

腸脛靭帯の硬さ

ランナー膝の原因は腸脛靭帯の硬さではないかという考え方があり、実際にランナー膝を抱えている人達は腸脛靭帯の周りが硬かったりします。

(Fairclough et al 2007)

ある研究ではランナー膝を発症した人達はランニング時に大きな負荷がかかっている傾向があり、より急激に腸脛靭帯が引っ張られている可能性があることが報告されています

ランニング時に腸脛靭帯に負荷がかかり、この負荷に反応して腸脛靭帯が硬くなる可能性があるわけです3・4

このため腸脛靭帯が硬いことが原因というよりも、腸脛靭帯に負荷がかかり続けた結果として腸脛靭帯が硬くなるという症状が表れると考えた方がいいかもしれません。

 

ランニングフォーム(ニーイン)

ランニング時の骨盤や膝の働き次第では腸脛靭帯への負荷が増える可能性があり、膝が内側に入ってしまうニーインなどのランニングフォームはランナー膝のリスクがあると言われています。

股関節や膝関節に不安定さがあるとニーインなどの動きを誘発する可能性が考えられ、ランナー膝へと繋がっていく可能性があります

 

動きのバリエーション

ランニング

ある研究で腸脛靭帯炎を複数回繰り返しているマラソンランナーの走り方はバリエーションの変化が少なかったことが報告されています

怪我を繰り返しにくいマラソンランナーは一定速度で走っている中にも毎回動き方が微妙に変化をしていたと考えられます。

これによって負荷を分散しやすくなり、怪我を繰り返しにくい理由になると考えられています。

 

ランナー膝の改善方法

柔軟性の向上

ストレッチやフォームローラーなどを使うことで短期的にはランナー膝の痛みを減らすなどの効果がみられることがあります10

柔軟性を向上させることでニーインなどの負荷がかかりやすい動きを防ぎやすくなります。

しかし、柔軟性の向上によるランナー膝への長期的な効果は微妙なところであることが報告されています11

 

シューズ

ニーインなどの動きがランナー膝につながりやすいことから、インソールなどでランニングフォームを修正することがランナー膝を防ぐのに役に立つ可能性があります。

インソールの処方

一般的にオーダーメイドのインソールは精度が高く、ランニング時の負荷を軽減しやすいのですが、費用が高くなりやすい傾向にあります。

一方でスポーツ用品店で市販されているインソールなどは比較的安価ではありますが、うまく調整できなかったりすることも多く見受けられます。

 

臀筋のトレーニング

ランナー膝を発症しているランナーは大臀筋や中臀筋などのお尻の筋肉のうまく働いていない可能性があります7・8

お尻の筋肉にはニーインなどを防ぎ、腸脛靭帯への負荷を和らげる働きがあります。このため、お尻の筋肉を鍛えることがランナー膝を防ぐのに大事になってくるというわけです10

 

まとめ

ランナー膝には様々なメカニズムが関わっていますが、適度な休養とトレーニング量の調整という大事な要素を忘れてはいけません。

練習量が多くなってくると腸脛靭帯炎を繰り返し発症してしまうという場合には、しっかりとリスク要因を取り除くことが大切です。

 

<参考文献>

  1. Fairclough J, Hayashi K, Toumi H, et al. The functional anatomy of the iliotibial band during flexion and extension of the knee: implications for understanding iliotibial band syndrome. J Anat. 2006;208(3):309-316.

  2. Fairclough J, Hayashi K, Toumi H, et al. Is iliotibial band syndrome really a friction syndrome? Journal of Science and Medicine in Sport. 2007;10(2):74-76.

  3. Geisler PR, Lazenby T. Iliotibial Band Impingement Syndrome: An Evidence-Informed Clinical Paradigm Change.International Journal of Athletic Therapy & Training. 2017;22(3):1.

  4. Eng CM, Arnold AS, Biewener AA, Lieberman DE. The human iliotibial band is specialized for elastic energy storage compared with the chimp fascia lata. Journal of Experimental Biology. 2015;218(15):2382-2393.

  5. Eng CM, Arnold AS, Lieberman DE, Biewener AA. The capacity of the human iliotibial band to store elastic energy during running. J Biomech. 2015;48(12):3341-3348.

  6. Hamill J, Miller R, Noehren B, Davis I. A prospective study of iliotibial band strain in runners. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2008;23(8):1018-1025.

  7. Foch E, Brindle RA, Pohl MB. Lower extremity kinematics during running and hip abductor strength in iliotibial band syndrome: A systematic review and meta-analysis. Gait Posture. 2023 Mar;101:73-81. doi: 10.1016/j.gaitpost.2023.02.001. Epub 2023 Feb 4. PMID: 36758425.

  8. Baker RL, Souza RB, Rauh MJ, Fredericson M, Rosenthal MD. Differences in Knee and Hip Adduction and Hip Muscle Activation in Runners With and Without Iliotibial Band Syndrome. PM R. 2018;10(10):1032-1039.

  9. Foch E, Milner CE. Influence of Previous Iliotibial Band Syndrome on Coordination Patterns and Coordination Variability in Female Runners. Journal of Applied Biomechanics. 2019;35(5):305-311.

  10. Friede MC, Innerhofer G, Fink C, Alegre LM, Csapo R. Conservative treatment of iliotibial band syndrome in runners: Are we targeting the right goals? Phys Ther Sport. 2022 Mar;54:44-52. doi: 10.1016/j.ptsp.2021.12.006. Epub 2021 Dec 27. PMID: 35007886.
  11. Opara M, Kozinc Ž. Stretching and Releasing of Iliotibial Band Complex in Patients with Iliotibial Band Syndrome: A Narrative Review. J Funct Morphol Kinesiol. 2023 Jun 4;8(2):74. doi: 10.3390/jfmk8020074. PMID: 37367238; PMCID: PMC10299000.

-膝痛

© 2020 biomechclinic.com