身体のケア

水泳の後半の失速を防ぐ持久力トレーニング

 

水泳のレースで後半に力尽きて失速してしまう経験は一度はあるかもしれません。

後半の失速を防ぐためにたくさん練習を行っても、思うように持久力が伸びないことが珍しくありません。

ここで水泳の持久力トレーニングについて運動生理学の視点から解説していきたいと思います。

 

100mの持久力

100mに求められる持久力とは?

100mは速い選手で時間にして60秒前後くらいになります。

約60秒という短いレース時間では、酸素を使わずに瞬時に大きな力を生み出す『無酸素運動能力』がエネルギー供給の割合が大きくなります

もちろん有酸素運動能力によるエネルギー供給も行われるのですが、有酸素運動能力の全てを出し切る前にレースが終わってしまいます。

このため長時間を一定スピードを維持する能力だけではなく、乳酸がどんどん蓄積していく状況にどこまで耐えられるか、ラストスパートの焼けつくような激しい負荷に瞬間的に耐える力が100mの持久力で大事になります。

100mの持久力を改善するための練習メニューは高いスピード・強度を維持しながら行うことが基本になります。

実際にエリート水泳選手を対象とした研究で長時間の反復練習を増やすよりも、レースペース、あるいはそれ以上のスピードを意識したトレーニングを増やした方が、100mのタイムが改善したという研究結果が報告されています

これは100mがスピードに特化した持久力が求められていることを示しています。

 

100mの持久力トレーニングの方法

100mの持久力トレーニングは短い距離を速いスピードで反復するインターバルトレーニングが基本になります。

練習メニューの例は次のようなものになり、集中力を維持しながら高い強度で行うことが大切です。

  • 25mを30~60秒のレストで8~12セット:短距離の爆発的なスピード維持
  • 50mを1~3分のレスト6~8セット:レースペースに近いスピード感覚の習得
  • 100mを1~3分のレストで4~6セット:疲労下でのスピード維持能力向上
  • 200mを3~5分のレストで3セット:疲労下でのスピード維持能力向上

こういった短い距離の練習によって速いスピードを維持する、無酸素運動の持久力が刺激されます。

これらはあくまで一般的なメニュー例であり、実際のトレーニングではコーチとの相談や自身のコンディションに合わせて、さらに多様なバリエーションを取り入れることが重要です。

 

 

100mの持久力トレーニングの注意点

100mの持久力を高めるためにはもっと反復回数を増やした方がいいんじゃないか?と思うかもしれません。

確かに反復回数を増やすことで有酸素運動の持久力が向上していきます。

しかし、闇雲に反復回数を増やしすぎると、100mに不可欠なスピードそのものが失われてしまうリスクがあります。

100mでは無酸素運動による速いスピードを維持する能力が大事であるため、高いスピードを維持できる範囲で反復回数を増やしていくことがポイントになります。

量を増やすために質を犠牲にしてしまうと逆効果になってしまう可能性があります。

水泳選手

また、100mの持久力を高めるためにもっと長い距離の練習を増やした方がいいんじゃないかと思うかもしれません。

確かに長い距離での練習は有酸素運動能力を高め、持久力の改善に役立ちます。

しかし、繰り返しになりますが100mの持久力は速いスピードを維持することであり、スピードを犠牲にして距離を伸ばしてしまうと高い効果は得られにくくなります。

 

200mの持久力

200mに求められる持久力とは?

200mは速い選手で約2分前後になります。

約2分、あるいはそれ以上の時間のレースでは、酸素を使ってエネルギーを生み出す『有酸素運動能力』がエネルギー供給の大部分を担います

200mの持久力は、一定のペースを高いレベルで維持する能力、そして疲労物質である乳酸を効率的に除去・再利用する『乳酸処理能力』を高めることが基本となります。

乳酸処理能力を高めるには持続的な乳酸処理を中強度の持久力トレーニングで刺激することと、また、有酸素運動のエネルギー工場である『ミトコンドリア』を、低強度の持久力トレーニングで効果的に発達させていくことがポイントです。

 

200mの持久力トレーニング

200mの持久力トレーニングは一定スピードを長い時間維持する練習が基本になります。

 

中強度の練習

  • ペース練習:500m x 1、800m x 1、1000m x 1など
  • ショートインターバル:100m x 8~12、150m x 4~6など、レスト30~45秒
  • ロングインターバル:200m x 4~6、300m x 3~4など、レスト45~60秒

中強度の練習では一定程度乳酸が蓄積するため、乳酸処理能力に刺激が入ります。

これらの練習では主に筋肉や血液に蓄えられた糖質(グリコーゲン)からエネルギーが供給されます。繰り返し中強度の練習を行うことで、この糖質を効率よく利用し、乳酸を処理する能力を高めることができます。

 

低強度の練習

低強度で40分~60分泳ぎ続けるという練習も200mの持久力向上に役立ちます。

低強度の練習は主に脂肪をエネルギー源として利用します。これにより有酸素運動のエネルギー生成工場であるミトコンドリアが発達し、長時間の運動において効率的にエネルギーを生み出す能力が向上します。

速いスピードでの有酸素運動でもこういったミトコンドリアが多く使われるため、低強度の練習でも200mの持久力向上に役立つわけです。

低強度の練習は疲労が少なく頻繁に行うことが可能であり、毎日のように取り入れることで有酸素運動能力の土台を効率的に築き、200mの持久力向上に貢献します。

 

これらはあくまで一般的なメニュー例であり、実際のトレーニングではコーチとの相談や自身のコンディションに合わせて、さらに多様なバリエーションを取り入れることが重要です。

 

200mの持久力トレーニングの注意点

中強度の練習は高い効果が見込める一方で、疲労が蓄積しやすいという側面があります。

そのため中強度練習は週に2~3回を目安に行い、それ以外の日は低強度の練習をメインに据えることで、オーバートレーニングを避けつつ、着実に持久力を向上させることができます。

水泳選手

また、時間が長ければ長いほどいいわけではなく、毎日のように2~3時間と水泳の練習をしても意外と持久力は伸びないことが多々あります。

60分以上の長時間の練習は筋肉の使われ方が大きく違ってくるため、なかなか200mのレースの持久力には直結しにくい側面があります。

一度に長時間の練習を行うよりも、まずは40~60分の練習の頻度を増やすことのほうが効率的に持久力が鍛えられます。

余裕があれば週に1~2回くらい長時間の練習を加えることも持久力の向上に役立ちますが、毎日のように行う必要はありません。

 

泳ぎのフォームについて

ここまで運動生理学に基づいた持久力トレーニングの重要性を解説してきましたが、中には、必ずしも運動生理学に基づいた持久力トレーニングを行っていなくても、100mや200mでトップレベルの結果を出す水泳選手がいることも事実です。

これは水泳という競技が運動生理学的な能力に加えて、泳ぎのフォームやテクニックが非常に重要であることを示唆しています。

優れたフォームは水の抵抗を減らし、効率的に推進力を生み出すため、少ないエネルギーで速く泳ぐことを可能にします。

ある意味、フォームの改善自体が持久力トレーニングであり、かなり優先度が高いと言えます。

 

一方で陸上競技やマラソンでは、フォーム改良による成績向上の余地が水泳ほど大きくないため、運動生理学に基づいた持久力トレーニングの組み立て方が飛躍的に発展してきました。

この陸上競技で培われたノウハウは、水泳にも応用できる部分が多々あります。実際、運動生理学に基づいた体系的な持久力トレーニングを取り入れている水泳選手は、そこまで多くありません。

こういった部分は他の選手との差を生み出すチャンスがあると思います。

 

まとめ

100mのレースでは短時間で爆発的な力を出し続ける無酸素運動能力が重要であり、高いスピードを維持しながら反復するインターバルトレーニングが役立ちます。

200mのレースでは有酸素運動能力が重要であり、一定のスピードを長く維持するペース練習や、乳酸処理能力を高める中強度のインターバルトレーニング、そして有酸素能力の土台を築く低強度の長時間練習などが役立ちます。

 

<参考文献>

  1. Professor Brent S. Rushall, SWIMMING SCIENCE BULLETIN. San Diego State University.
  2. Pla R, Le Meur Y, Aubry A, Toussaint JF, Hellard P. Effects of a 6-Week Period of Polarized or Threshold Training on Performance and Fatigue in Elite Swimmers. Int J Sports Physiol Perform. 2019 Feb 1;14(2):183-189. doi: 10.1123/ijspp.2018-0179. Epub 2019 Jan 2. PMID: 30040002.

 

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