呼吸筋とは?
呼吸筋とは呼吸を行う際に働く筋肉の総称であり、肺自体には収縮・拡張する機能がないため、呼吸筋が胸郭を広げたり縮めたりすることで肺に空気を取り込んだり、吐き出したりする役割を担っています。
呼吸筋は横隔膜や肋間筋、腹筋群(腹直筋、腹斜筋、腹横筋)などの多くの筋肉の働きが関与しています。
呼吸筋とランニングのパフォーマンス
呼吸筋はランニングのパフォーマンスに影響を与える要素のひとつです。
ランナーは心肺機能が発達し、肺活量も一般の人よりも大きい傾向にあります1。
そして、短距離選手よりも長距離選手のほうが肺活量が大きい傾向にあり2,ハーフマラソンのタイムがいいランナーほど呼吸筋も強い傾向にあることが報告されています3。
ランニング中の呼吸が苦しい場合には呼吸筋が弱いことがひとつの可能性として考えられ、呼吸筋を鍛えてみる価値があるかもしれません。
呼吸筋トレーニングの効果
ランナーは呼吸筋を鍛えるトレーニングを取り入れることでパフォーマンスが向上する可能性があります。
ランナーを対象にした4週間の呼吸筋のトレーニングの研究では800mのタイムが約6秒改善したことが報告されていますし4,他にも6週間の呼吸筋のトレーニングで1500mのタイムが約9秒改善したという研究結果もあります5。
しかし、これらは競技レベルが低いランナーを対象にしているという点に注意が必要です。
というのも初心者ランナーのほうが呼吸筋のトレーニングによるランニングのパフォーマンス向上が大きく、競技レベルが高いランナーは効果が小さくなる傾向にあることも報告されています6・7。
そして、走る距離が長い競技ほど呼吸筋トレーニングの恩恵を受けやすい傾向にあり6、長距離ランナーのほうが呼吸の重要性が高いと言えます。
呼吸筋のトレーニング方法
器具
ランナーの呼吸筋トレーニングでは呼吸に負荷をかけるような器具がパフォーマンス向上効果があります。
特にパワーブリーズと呼ばれる商品が有名で人気があり、スポーツ科学の研究でも使われることが多い印象です。
(画像:パワーブリーズ公式ウェブサイトより引用)
ちなみにパワーブリーズ以外の商品でも研究によって効果を確認できているものが複数あり7、呼吸筋を鍛える器具には様々な選択肢があり、特定の商品でなければいけないということはありません。
パワーブリーズはブランド力や信頼性がありますが価格が高く、他の商品は比較的お手頃な値段で購入しやすい価格設定になっています。
ちなみに呼吸のトレーニングとして息がしづらいマスクをつけて走るというものがあります。
しかし、マスクをした状態でインターバル走を行っても5km走のパフォーマンスは改善しなかったことが報告されています8。
一般的なマスクでは呼吸筋に対する負荷がイマイチになってしまうことが理由かもしれません。
負荷・回数
呼吸筋のトレーニングを行う際には負荷の設定が大切になります。
一般的に呼吸の最大パワーの約50%ほどの負荷のトレーニングで呼吸筋が強化されるという研究結果がありますが7、ランナーに対しては最大パワーの約50%ほどの負荷ではパフォーマンス向上がみられないことが報告されています4。
ランナーに対する呼吸筋のトレーニングでは徐々に負荷を上げて約80%といった高い負荷でのトレーニングが役立ちます4。
呼吸のパワーを鍛えるためには大きな力を入れて30回の呼吸を2セット、週に3~5回といった形のトレーニングになります。
呼吸筋のトレーニングは想像以上に心肺機能に負荷がかかるため、違和感や嫌な苦しさがある場合にはトレーニングを中止することが大切です。
長距離ランナーは持久力が重要であり、呼吸筋のトレーニングも持続性を重視した方法がよいという考え方もあります。
この場合には呼吸の負荷は最大パワーの50%以下といった低めに設定しても問題なく、かわりに20~30分といった長い時間のトレーニングになります7。
さらにランニングでの呼吸の形に近づけるために1分間に30回~40回と速いテンポでの呼吸を維持しながら負荷をかけるといったバリエーションもあります。
どのような負荷が最適なのか?については研究で明らかになっていない部分も多く、ここには議論の余地があります。
まとめ
ランナーは呼吸筋がパフォーマンスに影響を及ぼし、肺活量が大きく呼吸筋が強いことでパフォーマンス向上に役立ちます。
呼吸筋のトレーニングは初心者ランナーのほうが効果が大きく、競技レベルが上がると効果が比較的小さくなる傾向にあります。
呼吸筋のトレーニングは専用の器具を用いて、一定の負荷をかけることが大事なポイントになります。
<参考文献>
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