ランニング

ランニングの息苦しさを改善するトレーニング

2024年9月13日

 

ランニング中に心臓がバクバクして、息が上がって苦しい、そんな経験があるかもしれません。

もう一歩前に進みたいのに呼吸が追いつかず、ペースを落としてしまう、その息苦しさの鍵を握っているのが呼吸筋かもしれません。

 

息苦しさの鍵を握る「呼吸筋」とは?

呼吸筋はランニングのパフォーマンスに影響を与える要素のひとつです。

ランナーは心肺機能が発達し、肺活量が一般の人よりも大きい傾向にあります

特に長距離選手のほうが肺活量が大きい傾向にあり,ハーフマラソンのタイムがいいランナーほど呼吸筋も強い傾向にあることが報告されています2・

ランニング中の呼吸が苦しい場合には呼吸筋が弱いことがひとつの可能性として考えられます。

ランニング呼吸

 

ランニング時の呼吸方法

速いテンポでの呼吸

速いテンポでフッフッハーハーというリズムで呼吸した方がいいとか、ランニングのステップに合わせてリズミカルに呼吸をした方がいいとか様々なテクニックがあります。

リズミカルな呼吸にすることで気持ちよさを感じることができる場合があり、持久走のペースを維持しやすくなることもあります。

ここは感覚的な部分もあり、身体の中にあるリズムやビートに合わせてテンポよく呼吸することがポイントです。

ランニング

一方で速いペースでのランニングや強度が高いインターバル走などではリズミカルな呼吸は難しくなり、求められる酸素量が大きいためゼーハーゼーハーと力強く呼吸した方が酸素を多く取り込むことができ、速いスピードを維持しやすくなります。

 

鼻呼吸

ランニングでは鼻から息を吸って呼吸するというテクニックがあります。

こちらは好みが分かれるところであり、私自身の場合には持久走が楽になるような感覚はありませんでした。

ちなみに水泳での鼻呼吸に関する研究では鼻を使った呼吸でパフォーマンスに変化は見られなかったものの、数か月と続けると普段使わない筋肉が鍛えられて、少しだけパフォーマンスアップすることが報告されています

鼻呼吸はしばらく続けてみると効果が出てくるかもしれませんが、鼻呼吸に不快感がある場合には長続きしにくいため、あまりオススメはしません。

 

腹式呼吸

ランナーなど持久力競技の選手を対象の研究ではお腹を使って呼吸をする、腹式呼吸をしている選手のほうが心肺機能が強いことが報告されています

(Sikora et al 2024)

興味深いことに約半数のアスリートが腹式呼吸をうまくできていないとのことであり、呼吸による恩恵を十分に受けていない可能性があります。

お腹から呼吸をするような意識をすることで、腹式呼吸が働きやすくなります。

 

呼吸方法を変えるメリット・デメリット

ランニングでは様々な呼吸方法やテクニックがありますが、最適な方法は個人差があります。

とはいえ呼吸方法を変えることによって普段使っていない呼吸筋を刺激することができ、継続することで呼吸筋が鍛えられ、パフォーマンスアップにつながる可能性があります。

一方でランニング中の呼吸方法を変えるだけでは、呼吸筋に対する強度や刺激がそこまで強いわけではなく、呼吸筋を発達させるには限界があります。

より強力な心肺機能を獲得するのならば、ランニング中の呼吸方法を変えるだけでなく、それとは別に呼吸筋を鍛えるためのトレーニングに取り組むことが大事になります。

 

呼吸トレーニング

呼吸筋トレーニングの効果

ランナーは呼吸筋を鍛えるトレーニングを取り入れることでパフォーマンスが向上する可能性があります。

呼吸筋とは呼吸を行う際に働く筋肉の総称であり、横隔膜や肋間筋、腹筋群(腹直筋、腹斜筋、腹横筋)などの多くの筋肉の働きが関与しています。

呼吸筋

ランナーを対象にした4週間の呼吸筋のトレーニングの研究では800mのタイムが約6秒改善したことが報告されていますし,他にも6週間の呼吸筋のトレーニングで1500mのタイムが約9秒改善したという研究結果もあります

5000m走においても呼吸筋のトレーニングによって、ランニング時の主観的なキツさが減少していることが報告されています

走る距離が長い競技ほど呼吸筋トレーニングの恩恵を受けやすい傾向にあり、長距離ランナーのほうが呼吸の重要性が高いと言えます。

そして、初心者ランナーのほうが呼吸筋のトレーニングによるランニングのパフォーマンス向上が大きく、競技レベルが高いランナーはタイムを縮める難易度が高くなります9・10

中距離ランナー

私自身が呼吸筋のトレーニングを行ったところ、心拍数が高くなるような状況でも苦しさが減りました。

以前は心拍数が170くらいが地獄のように辛くて数分で失速していたのですが、今では心拍数170くらいは余裕が増えていて、長い時間キープしやすくなっています。

心拍数

ただし、呼吸が楽になっても、脚の重さなどが消えるわけではないため、走り込みが重要であることに変わりはありません。

 

腹式呼吸トレーニング

腹式呼吸を鍛えるには仰向けになってお腹を膨らませるように呼吸をするトレーニング方法があります。

 

プランクなどの体幹トレーニングと腹式呼吸を組み合わせてトレーニングをすることで、身体を動かしている時にも腹式呼吸が働きやすくなります。

サイドプランク

トレーニングがきつくなってくると呼吸が乱れやすくなりますが、お腹を使った呼吸を意識し続けることがポイントになります。

 

トレーニング器具

呼吸に直接負荷をかけるような器具が呼吸筋を強力に鍛えることができ、パフォーマンス向上の効果があります。

特にパワーブリーズと呼ばれる商品が有名で人気があり、スポーツ科学の研究でも使われることが多い印象です。

パワーブリーズ

 

ちなみにパワーブリーズ以外の商品でも研究によって効果を確認できているものが複数あり、呼吸筋を鍛える器具には様々な選択肢があり、特定の商品でなければいけないということはありません。

パワーブリーズはブランド力や信頼性がありますが価格が高く、他の商品は比較的お手頃な値段であり購入しやすい価格設定になっています。

ただし、こういった商品は負荷が弱い傾向にあり、高い強度で鍛えにくいというデメリットもあります。

呼吸トレーナー

ちなみに呼吸のトレーニングとして息がしづらいマスクをつけて走るというものがあります。

しかし、マスクをした状態でインターバル走を行っても5km走のパフォーマンスは改善しなかったことが報告されています

一般的なマスクで呼吸を制限しても、呼吸筋そのものにあまり刺激が入らないのかもしれません。

 

トレーニング方法

呼吸筋のトレーニングを行う際には負荷の設定が大切になります。

ランナーに対しては最大パワーの約50%ほどの軽い負荷ではパフォーマンス向上がみられにくく、徐々に負荷を上げて約80%のパワーといった高い負荷でのトレーニングが役立つことが報告されています

このため呼吸のパワーを鍛えるためには大きな力を入れて30回の呼吸を2セット、週に3~5回といった形のトレーニングが大切になります。

呼吸筋のトレーニングは想像以上に心肺機能に負荷がかかるため、違和感や嫌な苦しさがある場合にはトレーニングを中止することが大切です。

 

長距離ランナーは持久力が重要であり、呼吸筋のトレーニングも持続性を重視した方法がよいという考え方もあります。

この場合には呼吸の負荷は最大パワーの50%以下といった低めに設定しても問題なく、かわりに20~30分といった長い時間のトレーニングを行います。

さらにランニングでの呼吸の形に近づけるために1分間に30回~40回と速いテンポでの呼吸を維持しながら負荷をかけるといったバリエーションもあります。

 

まとめ

ランナーは呼吸筋がパフォーマンスに影響を及ぼし、肺活量が大きく呼吸筋が強いことでパフォーマンス向上に役立ちます。

ランニング中はリズムに合わせたテンポのよい呼吸をすることで楽に走りやすくなりますが、テクニックだけでなく呼吸筋そのものを鍛えることも役立ちます。

 

<参考文献>

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