ランニング

スプリント走のための体幹の鍛え方について

 

スプリンターは腹筋がバキバキに割れて、シックスパックのイメージがあるかもしれません。

もちろん腹筋は重要ですが、スプリント走においては腹筋だけでなく、他の体幹の筋肉も重要になってきます。

 

スプリント走における体幹の筋肉

腹直筋

腹筋

シックスパックに代表されるように、スプリンターは腹筋をバキバキに鍛えています。

60mのスプリント走を行った後の筋肉をMRIで計測したところ、体幹の他の筋肉が多く使われていて、腹直筋はさほど疲労がなかったとのことが報告されています

スプリント走では体幹を屈曲させるような動きは少ないため、腹直筋のパワーがそこまで求められるわけではありません。

このため腹筋をバキバキに割るようなトレーニングだけでは限界があるかと思います。

 

腹直筋は体幹を屈曲させる動きに最も関与します。しかし、スプリント走は体幹を大きく屈曲させる動きが少ないため、腹直筋のパワーがそれほど強く求められるわけではありません。

実際に、60mのスプリント走を行った後の筋肉をMRIで計測したところ、腹直筋はさほど疲労しておらず、体幹の他の筋肉がより多く使われていたことが報告されています

このことから腹直筋をバキバキに鍛えるトレーニングだけでは、スプリントのパフォーマンスを高めるには限界があると言えます。

 

腹斜筋

腹斜筋

スプリント走で重要になるのが体幹の横部分の筋肉であり、腹斜筋を鍛えることがポイントになります。

スプリント走では手足の振りなどにより脊柱が回旋するような負荷がかかるため、腹斜筋で脊柱のブレを抑えて、綺麗な姿勢を維持して脚力を発揮しやすくするという役割があります。

実際に60mのスプリント走の後の筋肉をMRIで計測したところ、腹斜筋が大きく疲労していたことが報告されています

また、400mスプリンターは体幹の筋肉の中でも横の筋肉がタイムとの関係性が強いことが報告されています

 

腹斜筋を鍛える場合には身体を捻る動きや体幹の側屈など、斜めや横方向の体幹トレーニングで鍛えることができます。

クランチなどのエクササイズで斜め方向への捻りを入れるロシアンツイスト、横方向へのクランチ、サイドプランクなどのトレーニングがあります。

腹斜筋クランチ

 

腰方形筋

腰方形筋

少し細かい筋肉になりますが、腰方形筋も体幹の横方向を構成する筋肉のひとつであり、スプリント走に重要になります。

腰方形筋は脊柱のブレを防ぐことに加えて、骨盤が落ちてしまうことを防ぐことなどの役割があります。

実際に腰方形筋がスタートダッシュのタイムに関係していることが報告されています

 

腰方形筋を鍛えるためには体幹の横方向のエクササイズが効果的であり、サイドプランクなどが特に腰方形筋の活動量が多くなります

必要に応じて手足を動かすなどのバリエーションを加えることが役立ちます。

サイドプランク

 

脊柱起立筋

脊柱起立筋

脊柱起立筋は上体をまっすぐ綺麗に保つ役割があり、猫背や前かがみになるのを防ぐ役割があります。

特にスプリント走の加速時には前傾姿勢で背中が丸まりやすく、首も前に出やすく、この姿勢では力が伝わりにくくなってしまいます

スプリント走加速

実際にスプリント後の筋肉をMRIで計測したところ脊柱起立筋が疲労していること、そして脊柱起立筋がスタートダッシュのタイムに関係していることが報告されています

脊柱起立筋を鍛えるにはスクワットやデッドリフトなど前傾姿勢で重い重量を扱うようなトレーニングが効果的です。

デッドリフト

 

呼吸筋

呼吸筋

あまり注目されていませんが体幹の筋肉には呼吸筋も含まれており、体幹のパフォーマンスに影響する可能性があります。

実際に呼吸筋のウォームアップで400mスプリント走のタイムが改善したことが報告されています

また、スプリンターを対象にした呼吸筋のトレーニングの研究はありませんが、国際大会に出場するようなボディビルダーが呼吸筋のトレーニングで最大挙上重量や筋肉量が増えることが報告されています

これは呼吸筋を鍛えることで腹圧が上昇し、より大きなパワーを発揮しやすくなることが関係しているかと思います。

ランニング
ランニングの息苦しさを改善するトレーニング

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連動性

体幹はただ筋肉を大きくしていけばいいわけではなく、体幹の筋肉の連動性もポイントになります。

体幹の多くの筋肉を同時に収縮させることで、体幹が安定し、手足に力が入りやすくなります。

実際に体幹の筋肉に力を入れることで股関節のパワーが高まることが報告されています

おりゃー!っと大きな声を出すとパワー発揮が高まるのもこういった仕組みが関係しています。

いわゆる丹田に力を入れるとか、お腹に力を入れるブレーシングと呼ばれる方法など、体幹の筋肉を連動させて使うことでパワー発揮が高まる事例は多々あります。

 

体幹の筋肉に100%の力を込めなくても、比較的弱めの力でも複数の筋肉を連動させることがパワーを高めるポイントでもあります。

実際にゴリゴリの高負荷ではない体幹トレーニングでもスプリント走のパフォーマンスが改善することが報告されています

プランクエクササイズ

こういった連動性を高める体幹トレーニングは強い負荷をかけて体幹の筋肉の筋肥大を引き起こすことが狙いではなく、あくまで体幹の筋肉の連動性を高めることによって手脚のパワーを高めることが目的になります。

ブレない体幹というのはこういった連動性を高めるための負荷を生み出すトレーニング手段であり、あくまでパワー発揮が高めることがトレーニングの目的になります。

しかし、負荷が弱くて効いている気がしないからと、闇雲に高い負荷をかけてしまうと体幹の連動性が損なわれてしまい、トレーニング効果が弱まる可能性があります。

 

体幹トレーニングの注意点

高重量トレーニング

体幹の筋肉をより強靭に鍛えるためには高い負荷で鍛えることが大切なのですが、現実的には高重量で鍛えることが最善の選択肢であるとは限りません。

クランチ

腹体幹の筋肉の筋肥大を狙うならば、高重量の負荷をかけることや身体を大きく捻るような動作でのトレーニングになりますが、こういったトレーニングは腰に大きな負担となり腰痛のリスクがあります。

現実的にはこういったトレーニングを長期的に継続することは困難になる場合があり、深刻な腰痛を引き起こしてコンディション悪化につながる可能性があります。

特にウェイトベルトをしないと高重量のスクワットやデッドリフトに不安があるような、体幹の筋肉が発達していない選手の場合には高重量の体幹トレーニングでの腰痛のリスクが高まります。

 

腰痛防止

スプリント走のトレーニングは腰に負担がかかりやすいため、まずは腰痛を防ぎながら質の高いトレーニングを継続できるような体幹の基礎を身につけることから始めることが重要になります。

体幹の筋力が強いほど腰痛を防げるとは限らず、体幹の筋肉をバランスよく鍛えつつ、連動性を高めていくことが腰痛防止の基本になります。

まずは体幹を大きく動かさないような、体幹を固定した状態でのアイソメトリック収縮による体幹トレーニングから始めることで、腰痛が起こりにくい体幹の基礎を鍛えていくことができます。

体幹トレーニング

そして、徐々に自重での体幹トレーニングのバリエーションを増やしていき、体幹を動かすようなダイナミックなトレーニングも取り入れいてきます。

100m走のパリオリンピック金メダリストが自重での体幹トレーニングを紹介しており、参考になるかと思います。

 

体幹の基礎的な筋力やバランス、連動性を高めてから少しずつ負荷を高めていくことが腰痛のリスクを減らすポイントになります。

 

まとめ

スプリント走のパフォーマンスを高めるためには腹斜筋や脊柱起立筋など、体幹の多くの筋肉をバランスよく鍛えていくことが大事になります。

まずは負荷の小さい自重での体幹トレーニングから始めていき、徐々に負荷やバリエーションを広げていくことが役立ちます。

 

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