アキレス腱炎は多くのランナーやスポーツ愛好家を悩ませる症状です。しかし、適切なリハビリとトレーニングで回復し、再発を防ぐことができます。
この記事ではアキレス腱炎に対するリハビリやトレーニングについて解説していきます。
アキレス腱炎のリハビリの特徴
アキレス腱炎のリハビリでは、ふくらはぎの筋肉のエクササイズがメインになります。
ふくらはぎの筋肉はアキレス腱とつながっているため、ふくらはぎのエクササイズを行うことでアキレス腱の状態が改善していきます。
とはいえ、ふくらはぎの筋肉が効率的に働くためには周辺の筋肉のサポートも大事になります。
足の指、足首、股関節、お尻の筋肉など、関連する部位のバランスを整えることで、アキレス腱への負担を分散し、アキレス腱炎の改善・予防につながります。
フェーズ1:急性期
歩行時のアキレス腱の痛みや日常生活に支障をきたすようなアキレス腱の痛みがある場合の対処方法となります。
十分な休養
まずは医療機関を受診して怪我の診断、治療、その他の必要な処置を受けることが重要です。
そして、アキレス腱に大きな負荷がかからないように十分な休養を取ることが大切です。
足首のストレッチ
ストレッチで足首の柔軟性を高めることはアキレス腱炎の改善に役立ちます。
足首の柔軟性が低下しているとアキレス腱炎の発生率が高くなるという研究結果も報告されています1・2。
つま先を上にあげるような足首の背屈の可動域を20°くらいは欲しいところです。
足首の背屈の可動域が小さいとランニング動作に乱れが生じることがあり、着地時の衝撃吸収が小さくなったり、足部が外に逃げてしまったり、軸がブレやすくなる、といったことが起こります。
ストレッチはアキレス腱炎の回復を早めるものではありませんが、ランニング動作などの改善につながるため、しっかりと柔軟性を確保しておきたいところです。
ストレッチでアキレス腱が引き伸ばされるため、ストレッチ時にアキレス腱の違和感が出ることがあり、その場合にはストレッチを中止することが大切です。
マッサージ
ストレッチだけではほぐしにくい硬さがあるため、必要に応じてマッサージを取り入れていくことが役立ちます。
ふくらはぎの筋肉をほぐすだけでなく、足首の前面や側面なども満遍なくマッサージでほぐすことが役立ちます。
より高い効果を得るためには、専門家の施術を受けることが役立ちます。
(Jayaseelan et al 2017)
股関節のトレーニング
アキレス腱炎を発症したランナーはお尻の筋肉の働きが悪く、ランニング時に股関節のブレが大きい傾向にあります3・4。
このため股関節やお尻の筋肉を鍛えるようなトレーニングがアキレス腱炎の改善・予防に役立ちます。
そして、股関節のトレーニングはアキレス腱に負荷をかけずにできるものも多く、早い段階でも取り入れやすいというのが利点です。
フェーズ2:活動期
ランニングなどの運動でアキレス腱に痛みがある場合、片足のカーフレイズで痛みが出るような場合のリハビリ・トレーニングになります。
過剰な負荷をかけないように注意しながら、少しずつリハビリを進めていくことがポイントです。
ふくらはぎの筋肉
ふくらはぎの筋肉はアキレス腱につながっていることから、アキレス腱炎のリハビリの中心はふくらはぎの筋肉になります。
ふくらはぎの筋肉が強化されると、アキレス腱の強度も高まり、怪我をしにくくなります5。
とはいえ過剰な負荷がかかるとアキレス腱の痛みが悪化する可能性があるため、リハビリのエクササイズは痛みや違和感のない範囲で行うことが大切です。
まずは、比較的負荷が小さい座った状態のカーフレイズから始めていきます。痛みのない範囲で行うことが重要です。
(Silbernagel et al 2015)
座った状態でチューブを使って、つま先を押すように力を入れることでふくらはぎの筋肉を鍛えることができます。
座った状態でのふくらはぎのエクササイズに問題がなければ、徐々に両足で立った状態で踵を上げるカーフレイズのエクササイズを取り入れていきます。
踵を台からはみ出した状態で行うカーフレイズで、ゆっくりと踵を降ろしていき、つま先よりも低い位置に持っていくエクササイズです。
(Silbernagel et al 2015)
このエクササイズではふくらはぎの筋肉が引き伸ばされながら力を発揮するエキセントリック収縮を鍛えることができます。
ランニングの着地やジャンプの着地など、スポーツではふくらはぎの筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する場面が多いことから、エキセントリック収縮のエクササイズにはアキレス腱炎に対して高い効果があります6。
しかし、足首の可動域が小さい状態ではエクササイズ中に踵を深く下げることができず、エクササイズの効果が弱くなってしまうことがあります7。
股関節のトレーニング
アキレス腱炎における股関節のトレーニングは、身体の軸を安定させるために行うことが大事なポイントになります。
フルスクワットで股関節を強化することがリハビリに役立ちますが、大事なポイントは足元です。
スクワットをする時に足首が大きく外を向いてしまう場合、かかとが浮いてしまう場合などには、足部に問題があります。
まず、足首の柔軟性不足によって足首が外側を向いてしまうという原因が考えられます。
次の図のように深くしゃがみ込む動作ができない場合、お尻を下げることができない場合には、足首の柔軟性が不足しています。
上述したストレッチやマッサージに取り組んで、柔軟性を改善していくことが大事になります。
足首の柔軟性に問題はないけれども、フルスクワットがうまくできない場合には足首の安定性、足首周りの筋力不足などの問題がある可能性があります。
この場合には次のような足首のトレーニングを行うことで、少しずつ足首の問題が改善されていきます。
足首のトレーニング
足首を鍛えることで足元の土台が安定しやすくなり、アキレス腱の負荷を軽減するのに役立ちます。
実際にアキレス腱炎を抱えている人は足首周りの筋肉が弱い傾向にあることが報告されています8。
まずは、チューブで足首を鍛えるエクササイズですが、こちらは4方向に満遍なく鍛えることが役立ちます。
(Abdelhaleem et al 2023)
そして、バランスパッドなどの不安定な足場でのエクササイズを行うことで、より実践的な足首の筋力を鍛えることができます。
バランスパッドの上で股関節のエクササイズを行うことで、股関節の機能を高めつつ、足首の安定性も高めることができます。
足の指のトレーニング
足の指の筋肉もアキレス腱炎に関わっており、足の指を鍛えることもポイントになります。
踵が上がっている場面ではアキレス腱に負荷がかかりやすいのですが、このときには足の指の筋肉が土台を支えているわけです。
足の指の筋肉を定番のエクササイズである、指でタオルを引くというエクササイズが役に立ちます。
より実践的に行うのならば、踵を浮かせた状態でタオルを引くことで効果が高まります。
バイク
アキレス腱炎で運動ができない時には心肺機能が落ちていくため、アキレス腱に負荷がかかりにくいバイクなどの有酸素運動で心肺機能を維持することが役立ちます。
ただし、バイクがつま先荷重でのペダリングになってしまうと、ふくらはぎが酷使されやすく、アキレス腱のダメージが大きくなってしまいます。
このため踵荷重でのペダリングがアキレス腱炎のリハビリに適しています。
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フェーズ3
ランニングでアキレス腱の痛みがなくなってきて、徐々にスポーツに復帰する段階でのリハビリ・トレーニングになります。
痛みがないからと急激に運動量を増やすと、アキレス腱炎が悪化してしまう可能性があるため、少しずつ負荷を上げていくことが大切です。
ふくらはぎの筋肉
まずは片足でのカーフレイズに取り組んでいきます、ふくらはぎの筋肉に大きな負荷がかかります。
(Abdelhaleem et al 2023)
片足でのカーフレイズが思うように上がらない、苦手だという声も多く、そういった場合には足元が不安定さが関係していることが多々あります。
上述した足首や足の指のトレーニングなどに取り組むことで、片足カーフレイズがスムーズにやりやすくなっていきます。
アキレス腱の状態が良くなっていくにつれて、ダンベルなどで重量を加えた状態で両足カーフレイズを行っていきます。
高重量のふくらはぎのトレーニングはアキレス腱炎に対して効果があります6。
過剰な重量にならないように、様子を見ながら徐々に重量を増やすことが大事です。
ジャンプ
高重量のカーフレイズが問題なく行えるようになってきたら、徐々にジャンプのエクササイズも取り入れてきます。
まずは両足ジャンプから始めていき、徐々に高さを出していきます。前方向への立ち幅跳びなども役に立ちます。
慣れてきたら片足ジャンプも取り入れていきます。
片足ジャンプがうまくできない場合には、片足でのカーフレイズという基礎に戻って鍛えなおすことが大切です。
ランニング
アキレス腱の状態が良くなっていくにつれて、徐々にランニングを始めていきます。
高重量でのカーフレイズや片足ジャンプで痛みや違和感がないことがひとつの目安になります。
まずはゆっくりとしたスピードで短い距離のランニングから行い、少しずつスピードや距離を伸ばしていきます。
急激な運動量の増加は痛みを悪化させてしまう可能性があるため、慎重な判断が大事になります。
フェーズ4
スポーツに復帰した後のアキレス腱炎の再発防止も大事なポイントです。
適切なランニングシューズ
アキレス腱炎を防ぐためには適切なランニングシューズを選ぶことも重要です。
かかとが低いシューズやクッション性の弱いシューズは、ふくらはぎの筋肉やアキレス腱に負荷がかかりやすい傾向にあります。
このため踵が高いシューズや適度なクッション性があるシューズを選ぶことが、アキレス腱炎を防ぐのに役立ちます。
適切なシューズを選ぶことが難しい場合には、オーダーメイドのインソールを取り入れるというのもひとつの選択肢になります。
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ランニング動作の改善
ランニングフォームもアキレス腱炎に影響を及ぼすことがあります。
膝の可動域が小さいランニングフォームはアキレス腱炎が起こりやすいことが報告されており1、膝のクッションを使った柔らかい着地がアキレス腱の負荷を減らすポイントになります。
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運動量の調整
アキレス腱炎を防ぐための最大のポイントは過剰な運動を避けることです。
普段慣れていない運動量にすると怪我をするリスクが高まるため、徐々に運動量を増やして身体を適応させていくことが怪我を防ぐのに役立ちます。
身体が慣れていくことで、運動量を増やしても怪我が起きにくくなります。
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そして、アキレス腱に違和感がある場合には早めに運動を中止して、休養を入れたり、対策を講じることが大切です。
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まとめ
アキレス腱炎のリハビリ・トレーニングは、ストレッチなどで十分な可動域を確保したうえで、ふくらはぎの筋肉を鍛えることと、周辺のサポートする筋肉もバランスよく鍛えていくことがポイントになります。
痛みや違和感のない範囲内で徐々に負荷を増やしながら、ジャンプやランニングなどスポーツの動きを取り入れていきます。
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の症状に対する診断や治療を保証するものではありません。アキレス腱炎の症状がある場合は、医療機関を受診し、専門家の指示に従うことが大切です。
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