膝痛

ロードバイクの膝痛の原因と改善方法

2024年10月20日

 

ロードバイクでは膝痛に悩まされる選手が多く、思うように練習ができずに苦しんでいる選手も珍しくありません。

ここでロードバイクにおける膝痛の原因、改善方法について解説していきます。

 

ロードバイクのポジションと膝の痛み

サドルの高さ

サドルの高さが不適切だと膝に負担がかかりやすくなり、膝痛につながることがあります。

サドルが低いと膝が深く曲がった状態になり、膝の圧迫も大きくなり、サイクリングによる膝の負荷が大きくなることが報告されています

また、サドルが低いと膝が外側に逃げやすくなってしまい膝の負荷が大きくなります、実際に膝を怪我したサイクリストはペダリング中に膝が左右に逃げている傾向にあることが報告されています

一方でサドルが高すぎると膝が伸びすぎて負荷がかかることがありますし、お尻やハムストリングスの筋肉の働きが悪くなってしまいます。

このため適度な高さにサドルを調整することが大切です。

 

さらに、サドルが後方にあると膝の負荷が増えることが報告されており、サドルが後方にあると膝の角度が深くなりやすいことなどが関係しています

 

クランクの長さ

ロードバイククランク

クランクが長くなると膝の動きが大きくなり、膝に負担がかかりやすいことが報告されています5・6

一方でコンスタントに一定のペースでのペダリングをすることで、クランクが長くても膝の負担は大きくなりにくいことも報告されています5・6

このためクランクの長さが膝に影響を与える可能性はありますが、ペダリングの技術でカバーできる部分も大きいと考えられています。

 

クリート

ロードバイクのクリートも膝痛に少なからず影響を与えると言われています。

クリートの角度によってヒールイン、ヒールアウトが大きくなり過ぎると膝に負担が大きくなります。

クリートポジション

また、ロードバイクのクリートのフロート(遊び量)が大きいと、ペダリング中に足首が左右に動きやすく疲れにくくなりますが、フロート量が多すぎると膝が不必要に左右に動いてしまい、結果的に膝関節への負担が増える可能性があります

 

専門家のフィッティング

上述したロードバイクのポジションはあくまで個別の要素であり、様々な要因が複合的に重なり合って影響しますし、全体的にポジションを最適化することが大事になります。

サドルの高さを調整するだけでも、明確な基準があるわけではなく、色々なことを考慮したうえで最適なポジションを探る必要があります。

より適切なポジションに調整するためには競技用自転車の専門店などに相談することが大切です。

 

ツールドフランス優勝者の膝痛の事例

ツールドフランス優勝経験がある選手の膝痛についての論文の紹介で、ロードバイクのポジションだけでなく身体のバランスも重要であることを示すものです。

1名のみを対象としたケーススタディであり、再現性は低いのですが、ツールドフランス優勝者に対するものとなると興味深いものがあります。

ちなみ論文では具体的にどの選手の事例であるのかまでは記述されていませんが、7年間膝痛に悩まされているとのことです。

 

怪我をしている足はハムストリングスの筋力が大きいのですが、大腿四頭筋の筋持久力が弱く、筋肉のバランスが乱れている印象です。

また、ペダリングの際には右足で強く踏む傾向があり、特に低いケイデンス(75RPM以下)で右足で踏み込む傾向が強くなるとのことです。

そして、同レベルのエリート選手と比べると低めのケイデンス(85RPM以下)でのペダリングの効率が悪いことも報告されています。

 

ロードバイクでの膝痛では自転車のポジションに注目しがちかもしれませんが、それ以外の要因でも膝痛が起こる可能性があるということを示しているかと思います。

ツールドフランス優勝者となれば優秀なメカニックがついているため、ロードバイクのポジションが悪いという可能性は低いと考えられます。

 

ロードバイクでの膝痛の原因

姿勢の悪さ

ロードバイクでの姿勢の悪さは膝痛の原因になりますが、姿勢の悪さはロードバイクのフィッティングだけでなく身体的要因も関係していることがあります。

たとえば足首の柔軟性も膝の動きに関係していて、ペダリング次第では足首の背屈の可動域が求められることも多く、足首の背屈の可動域が小さいと、ペダルを踏み込んだ際に膝が外側に逃げやすくなり、膝に負担がかかることがあります。

ロードバイクダンシング

他にも膝を痛めているサイクリストは股関節の内旋の可動域が小さいという報告もあり、股関節の柔軟性が低いと膝が外側や内側にブレてしまいやすくなります。

また、膝を痛めているサイクリストは前傾姿勢の傾向にあることが報告されており10、体幹部の前傾姿勢も膝が圧迫されやすくなります。

ロードバイク
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筋力不足

筋力バランスの乱れもロードバイクでの膝痛の原因になります。

膝痛を抱えているサイクリストはハムストリングスの働きが悪いことが報告されており11、ハムストリングスの筋肉が弱かったり、ペダリング中にハムストリングスが過剰に働いて膝がロックされた状態でのペダリングは膝に負担がかかります。

ロードバイク

お尻の筋肉も重要も膝痛に関連があり、大臀筋や中殿筋は股関節を安定させ膝のブレを抑える役割がありますが、これらの筋肉が弱いと膝の動きが不安定になりますし、股関節のパワーが使われにくく膝の負荷が高まりやすくなります。

一般的に膝痛を抱えている人はお尻の筋肉が弱い傾向にあり12、お尻の筋肉の働きは重要であると言えます。

 

さらには体幹の筋肉も膝の負担と関係があり、特に腹斜筋などは膝の負担を軽減する役割があります。

 

過剰な運動

過剰な練習量もロードバイクでの膝痛の原因になることが多く、十分な休養を取らないまま自転車に乗り続けると膝痛を引き起こしやすくなります。

特に普段慣れていないような距離や頻度での練習は膝を痛めるリスクが高く、徐々に身体を慣らすことが大事になります。

 

また、一定期間のまとまったシーズンオフによって身体を休めないと膝を痛めやすくなります。

膝の痛みは数か月後にやってくると言われることもあり、日々のダメージの蓄積を甘くみてはいけません。

 

膝の痛みの改善方法

休養

膝の痛みの改善の基本は十分な休養を取ることです。

痛みを誤魔化しながら走り続けるよりも、潔く休んだほうが回復が早まり、結果的に練習量を増やすことができます。

痛みや違和感がある時に無理に練習をしてしまうと、ダメージが大きくなり、長期離脱を引き起こしやすくなります。

また、余裕を持った休養期間を設けることも大事であり、この日までに治ったらいいなという希望的観測ではなく、痛みや違和感がなくなるまで休養を取ることが大切です。

 

ストレッチ

膝の痛みにはストレッチで柔軟性を高めることも役立ちます。

ロードバイクでは大腿四頭筋が酷使されやすいため、太ももの前を適度にストレッチで伸ばしておくといいでしょう。

大腿四頭筋ストレッチ

股関節の柔軟性もペダリングに影響を及ぼすため、股関節の前部分を伸ばすようなストレッチを取り入れることも役立ちます。

脚を前後に開いて股関節の前部分を伸ばすストレッチによって、股関節の内旋の可動域を向上させることができます。

腸腰筋のストレッチ

また、お尻を伸ばすようなストレッチは股関節の過剰な硬さを解消し、お尻の筋肉が働きやすくなります。

股関節のストレッチ

さらに、ふくらはぎを伸ばすストレッチは足首の背屈の可動域を高めることができ、ペダリングが深くなった時に膝が窮屈になるのを防ぎ、膝の動きをよくすることにつながります。

ふくらはぎのストレッチ

 

トレーニング

ロードバイクでの膝の痛みの改善には、トレーニングで弱い筋肉をしっかりと鍛えることが役立ちます。

痛みがある時に膝周りに負荷がかかるトレーニングをすると、痛みが悪化してしまう可能性があるため、まずは膝を痛めないように体重をかけずにできる股関節周りのトレーニングから始めます。

クラムシェル

内転筋エクササイズ

痛みが解消されてきたら徐々に膝周りのトレーニングも始めていきます。

レッグエクステンション

ロードバイクでは大腿四頭筋が酷使されやすいですが、ハムストリングスはそこまで使われないため筋肉のバランスが乱れやすい傾向にあります。

このためハムストリングスを忘れずに鍛えておくことが大事になります。

レッグカール

 

まとめ

ロードバイクでの膝痛は不適切なポジション(サドルの高さ、クリートの角度など)、身体的な要因(股関節や足首の柔軟性不足、筋力バランスの乱れ)、そして過剰な練習量が複合的に絡み合って発生します。

膝痛の改善のためには、十分な休養を取り、適切なストレッチで柔軟性を高め、弱い筋肉をトレーニングで強化することが役立ちます。

 

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