ロードバイクでは骨盤の前傾をするべきか、骨盤を立てるべきか、という議論があります。
様々な意見が飛び交い、何が正解かわかりにくい部分があるかと思います。
ここでそれぞれのメリットとデメリット、骨盤の姿勢に影響を与える要素について解説していきたいと思います。
骨盤の前傾姿勢
メリット
ロードバイクでのパフォーマンスを高めるには骨盤を前傾した姿勢が適していると言われており、エリート選手は骨盤を前傾が大きい傾向にあることが報告されています1-3。
骨盤が前傾していると上体を低くして、エアロポジションが取りやすいというメリットがあります。
また、骨盤が前傾した状態だと大臀筋やハムストリングスが働きやすく、ペダルを踏むパワーが上がりやすくなります。
さらに、前傾姿勢を維持するには体幹の力が必要なため、前傾姿勢をしていると自然と体幹に力が入りやすく、パワーを出しやすくなります。
デメリット
骨盤の前傾はペダルを踏むパワーが上がりますが、意外と疲れる、むしろ失速してしまうこともあります。
そもそもロードバイクでの骨盤の前傾は姿勢が取りにくい、姿勢を維持し続けることが難しいというデメリットもあります。
また、骨盤の前傾姿勢がうまく姿勢が取れないと、腰が反り気味になって腰に負担がかかりやすくなってしまいます。
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骨盤を立てる姿勢
メリット
ロードバイクでは無理に骨盤を前傾させずに、骨盤を立てる姿勢、つまり骨盤がニュートラルに近い姿勢の方が適しているという意見もあります。
ロードバイクで骨盤を立てる姿勢は自然な状態に近いため、楽に姿勢を維持しやすいというメリットがあります。
無理に骨盤を前傾させるよりも骨盤を立てるほうが楽に漕げる選手も多いかと思います。
また、骨盤が立っていると上体が過度に前かがみにならないため、腰に負担がかかりにくいというメリットもあります。
デメリット
骨盤を立てていると上体が起きやすく、空気抵抗が悪くなりやすいというデメリットがあります。
また、骨盤を立てていると大臀筋やハムストリングスを使いにくい、パワーが出にくいというデメリットがあります。
骨盤の姿勢に影響を与える要素
柔軟性
ハムストリングスなどの柔軟性が高い方が前傾姿勢を取りやすく、パフォーマンスも高かったという研究結果が報告されています1。
このため太ももの裏を伸ばすようなストレッチなどが役立ちます。
一方でハムストリングスの柔軟性と骨盤の前傾との関連性は弱かったという研究結果もあります2。
というのもロードバイクでは膝を曲げた状態になるためハムストリングスへのテンションが弱まり、そこまで高い柔軟性は必要ないと考えられています3。
骨格
エリート選手は立位姿勢の時にも骨盤が前傾している傾向にあることが報告されています3。
そして立位姿勢で骨盤が前傾していると、ロードバイクに乗っているときにも骨盤の前傾がやりやすくなります。
このため普段立っているときの骨格次第で最適なロードバイクのポジションが変わってくる可能性があるわけです。
ちなみに、エリート選手は立った時に綺麗な姿勢をしているわけではなく、腰の反りが大きく、背中が丸まったような姿勢になっている傾向があります3。
アマチュア選手のほうが立位姿勢がまっすぐで綺麗だと言えるかもしれません。
競技歴
エリート選手は膨大なトレーニングによって骨格が変化し、骨盤の前傾がやりやすい身体を獲得していると考えられます。
というのもトレーニング量が多いスポーツ選手は脊柱のアライメントが徐々に適応していくという研究結果が報告されています4。
しかし、年間で約400時間のトレーニングを超えるような練習量でないと脊柱が変化せず、それを少なくとも5年間続けないと身体の適応が起こらないことも報告されています5。
これはあくまで目安となる練習量であり、練習の負荷が高ければもっと短い期間で身体が適応していく可能性は十分にあります。
年齢
年齢も骨盤の前傾の度合いに影響を与える可能性があります。
自転車の競技歴が約5年のサイクリストを調べた研究では年齢が高い選手は骨盤の前傾が小さく、特に30~40歳以上の選手は差が生まれやすいことが報告されています6・7。
年齢が高いと身体的な適応能力が落ちてしまうことが関係しているのかもしれません。
自転車のポジション・フィッティング
骨盤の前傾姿勢を取りやすいかどうかは骨格的な要因だけでなく、サドルやハンドルなど自転車のフィッティングなども関係してきます。
ロードバイクのフィッティングは奥深いテーマであり、理想的なポジションに近づけるためには専門家に診てもらうことがいいでしょう。
骨盤の前傾をするべきか?
ロードバイクでは骨盤の前傾をするべきか、骨盤を立てるべきか、という議論があります。
理想をいえば骨盤が前傾した状態のほうがパフォーマンスが高まりますし、エリート選手は骨盤が前傾している傾向にあります。
しかし、現実的には骨盤の前傾をした状態を維持し続けることが難しいことも多々あるかと思います。
プロ選手は膨大なトレーニングによってロードバイクに適した骨格に変化している側面もあるため、プロ選手がやっているような姿勢を無理に真似しても限界があります。
このため骨盤の前傾が難しい場合には骨盤を立てるような姿勢、快適だと感じる姿勢でいいかと思います。
さらなる高いパフォーマンスを求める場合には、膨大な練習をこなすことで徐々に骨格を変化させて、骨盤の前傾がやりやすい状態に近づけることで、パフォーマンスが高まるポジションを取りやすくなります。
まとめ
ロードバイクでの骨盤の前傾によりエアロポジション、大臀筋やハムストリングスをうまく使えるようになり、パフォーマンスを高めることができます。
しかし、骨格的要因、柔軟性、競技歴や年齢などによって骨盤の前傾のやりやすさが違ってきます。
身体の状態にあった適切な姿勢を見つけることが大事であり、トレーニングの積み重ねによって効率的なポジションを獲得しやすくなります。
<参考文献>
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- Muyor JM, López-Miñarro PA, Alacid F, López-Plaza D. Degree of Hamstring Extensibility and Its Relationship with Pelvic Tilt in Professional Cyclists. Applied Sciences. 2024; 14(9):3912. https://doi.org/10.3390/app14093912
- Muyor JM, López-Miñarro PA, Alacid F. Spinal posture of thoracic and lumbar spine and pelvic tilt in highly trained cyclists. J Sports Sci Med. 2011 Jun 1;10(2):355-61. PMID: 24149883; PMCID: PMC3761866.
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- MUYOR, J. M.; ALACID, F.; LÓPEZ-MIÑARRO, P. A.; CASIMIRO, A. J. Evolución de la morfología del raquis e inclinación pélvica en ciclistas de diferentes edades. Un estudio transversal. Int. J. Morphol., 30(1):199-204, 2012.
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