ランニング中に足の痛みを感じたことはありませんか?その原因はプロネーションが関係しているかもしれません。
この記事ではプロネーションの仕組み、怪我との関係、そして改善方法について解説します。
足部のプロネーションとは?
プロネーションとは足が着地する時に足首が内側に傾く自然な動きのことであり、この動きによって足にかかる衝撃を分散させ、足部のバランスが安定しやすくなるなど、重要な役割を果たしています。
具体的にはランニングの着地の際、かかとが地面に最初に接地し、その後に足首の関節が内側に傾き、足底が内側に回転します。これがプロネーションです。
この動きによって、足にかかる荷重が足全体に分散されます。最後に足は再び外側に回転し、蹴り出しの準備をします。
一方でアンダープロネーション(スピネーション)は着地の際に、かかとの内側への倒れ込みが小さい状態をいいます。
過度な足部のプロネーションがあると、膝や股関節などランニング動作に様々な影響があると言われています。
例えば足部のプロネーションは扁平足と密接な関連性があり、プロネーションがあると足のアーチが崩れやすく、偏平足になりやすいなどの影響があります1。
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足部のプロネーションと怪我のリスク
ランニングの怪我の発生率
意外にもプロネーションはランニングの怪我のリスクと関係していないという研究結果が多く報告されています2・3。
足底筋膜炎やアキレス腱炎など足部の怪我でさえも、プロネーションはリスク要因であるという研究結果は少ないのが現状です。
とはいえプロネーションはいくつかの怪我と関連していることがあります。
シンスプリント
足部のプロネーションはシンスプリントのリスクを高めることが報告されています4。
プロネーションを抱えていることによって後脛骨筋が酷使されやすくなり5、これがシンスプリントにつながります。
このように足部のプロネーションによって引き起こされる怪我というものも少なからずあるわけで、足部のプロネーションを改善することはランニングの怪我予防に役立つことがあります。
膝痛
足部のプロネーションは少なからず膝痛のリスクになることがあります4。
足部のプロネーションを抱えているとニーインにつながることがあり、膝の負荷がかかりやすくなることがあります6。
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オーバープロネーションの兆候
どこからがオーバープロネーションであるかについては明確な基準があるわけではありません7。
足部のプロネーション自体はバランスを取るための自然な動きであり、ある程度のプロネーションが起こることには問題がありませんし、身体に必要な機能でもあります。
実際に足部のプロネーションを抱えていても問題なくランニングができているランナーはたくさんいます。
しかし、怪我や痛みを抱えている場合にはプロネーションが怪我の原因に関わっていることがあり、プロネーションを改善するという選択肢が出てきます。
次の図のようにプロネーションの角度が大きすぎる場合には、過度なプロネーションとなります。
走っていると時に無意識につま先が外を向いてしまう、つま先をまっすぐにすることが難しいこともオーバープロネーションの可能性があります。
また、ランニングシューズの内側と外側で擦り減り方が大きく違う場合などにも注意が必要です。
同じシューズを半年以上履き続けている場合なども靴底が大きく擦り減って、足部のバランスが大きく乱れている可能性があります。
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プロネーション対策シューズの選び方
アンチプロネーションシューズ
ランニングシューズはプロネーションの程度に大きな影響を与えるため、プロネーション対策が施されたアンチプロネーションシューズが売られています。
近年のシューズメーカーの技術の進歩は著しく、性能がかなり向上してきているため、プロネーション対策が施されたシューズを試してみる価値はあるかと思います。
実際にこうったプロネーション対策のシューズはランニング時の足部の負荷を軽減させる効果があることが報告されています8。
とはいえアンチプロネーションシューズにも様々な種類があり、身体に合っていないシューズを選んでしまうと思うような効果が得られないことがあります。
このためシューズがうまくフィットしているのか、しっかりと確認することが大切になってきます。
立位姿勢
まずはアンチプロネーションシューズを履いた時の立位での姿勢を確認することがポイントになります。
シューズを履いた時に足首の関節が真っ直ぐに整っているか、足部のプロネーションが修正されているか、確かめます。
シューズを履いた時に膝が真っ直ぐに整っているか確かめます。
そして、片足立ちになってみて不安定でフラつきやすくないか?ということも大事です。
こういったチェックポイントで足関節が変に曲がっていたり、バランスが悪かったりするシューズは好ましくありません。
ランニングフォーム
シューズが立位姿勢でうまく合っていても、実際に走ってみると不快感を覚えたり、痛みが出たりすることがあります。
このため走ってみた時の感触や身体のバランスも併せてチェックしておくことが大事になります。
まずは、その場で大きく一歩踏み出してみてプロネーションがないか、ニーインがないか、確かめてみます。
試着の段階で短い距離を軽く走ってみて違和感がないかも確かめます。
アンチプロネーションのシューズで実際に走ってみて違和感があるのであれば、履くのをやめた方が賢明です。
できれば長い距離を走ったときの感触も確かめたいところですが、お店でシューズを購入するときには難しいでしょう。
ランニングシューズは他の要素も影響するためプロネーションだけを整えたとしても、思うような効果が得られない場合があります。
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足部のプロネーションの改善方法
ストレッチ
足部のプロネーションの改善にはストレッチで柔軟性を高めることが役立ちます。
特に足部の背屈の柔軟性不足が関わっているため、ふくらはぎのストレッチを行うことがプロネーションの改善に役立ちます。
ふくらはぎのストレッチを行う時には様々なバリエーションがあり、足首を外に向けて行うストレッチ、足首をまっすぐにして行うストレッチなどがあり、これらを組み合わせることで柔軟性が高まりやすくなります9。
マッサージ
足首周りはストレッチだけではほぐすことが難しい部分があるため、マッサージなどを組み合わせることがプロネーションの改善に役立ちます。
ふくらはぎや下腿の外側などをほぐすことでバランスが整いやすくなりますし、足部のプロネーションは足裏や足の甲の硬さも影響しているため、こういった部分もほぐせるとプラスに働きます。
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ストレッチやマッサージでプロネーションが一定程度は改善するのですが、元に戻ってしまうことも珍しくありません。
プロネーションの改善には筋肉をほぐすだけでなく、トレーニングで弱い筋肉を鍛えることも大事になります。
足の指のトレーニング
足部のプロネーションを改善するために大切なのが、トレーニングで弱い筋肉を鍛えることです。
プロネーションを抱えている場合には足の指の筋肉が弱いことが多いため、足の指を動かすようなトレーニングは足部のプロネーション改善に効果があります10。
足の指でタオルを引き寄せるようなエクササイズや、足の指を多方向に動かす運動などが役立ちます。
(Tourillon et al 2019)
足首のトレーニング
足首周りの筋肉を鍛えるトレーニングも足部のプロネーションの改善に役立つことが報告されています12。
例えば足首にチューブを巻いて動かすことで、弱くなりがちな足首の筋肉を鍛えることができます。
また、足首を内側に動かすようなエクササイズは普段やらないような動きであるため、思うように力が入らないことも珍しくありません。
股関節のトレーニング
お尻の筋肉のトレーニングなども足部のプロネーションの改善に役立つことが報告されています12。
横になって股関節を開くようなエクササイズでお尻の筋肉に刺激を入れることができます。
チューブを使ったエクササイズを行うことで、さらなる股関節の強化に役立ちます。
こういった股関節のエクササイズはお尻の筋肉に効かせることが大事なのですが、狙った筋肉にうまく効かせられないことも珍しくありません。
必要に応じて専門家にアドバイスを求めることも、効果的なトレーニングを行うポイントになります。
まとめ
足部のプロネーションがあることでシンスプリントや膝痛につながることがあります。
つま先が大きく外を向いている、靴の内外側の擦り減りの差が激しい、ニーインがある場合などにはプロネーションを改善したほうがいいでしょう。
足部のプロネーションの改善には適切なシューズの選択、ストレッチやマッサージ、トレーニングが役立ちます。
<参考文献>
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