ランニングでは股関節の働きが重要と言われることがありますが、実際にやってみると股関節を使えている感覚がわかりにくいなど、股関節を活かした走り方というのは意外と難しいものです。
ここでランニング時の股関節の働き、ランニングフォームの注意点、トレーニング方法などをご紹介していきたいと思います。
股関節の重要性
ランニング時の股関節の働きは重要であり、身体の軸を安定させたり、膝の負担を軽減するなどの役割があります。
大臀筋など、お尻の筋肉が弱いとランナー膝など様々な怪我を引き起こすことがあります1。
また、股関節の力やお尻の筋肉を使って走ることでランニングのパフォーマンス向上に役立つ可能性があります。
股関節周りには、大臀筋などの人体の中でも特に大きく強力な筋肉群があり、これらの筋肉は、地面を蹴り出す際の主要な動力源となります。
股関節を効果的に使うことで、これらの筋肉の力を最大限に引き出し、より強い推進力を生み出すことができます。
国際大会で活躍するようなケニア人のランナーは、ランニング時の股関節のパワーが大きいなどと言われています。
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ランニングフォーム
ランニングで股関節を効果的に使うためには、ひざ下の動きではなく、股関節から動かす感覚が大切だと言われることがあります。
しかし、過度にランニングフォームを意識しながら走ると、パフォーマンスが低下してしまうというデメリットがあります2。
やはり自然な動きとは違う走り方では苦しさがありますし、ずっと意識し続けなければいけないというのは現実的ではありません。
意識的に練習を続けることで無意識にできるようになることもありますが、ランニングフォームを意識しただけで股関節が強くなるかというと微妙なところだと思います。
股関節をうまく使えるかどうかは骨格的な要因も絡んできます。
上体が前傾姿勢にして走ることで股関節の働きが増えることが報告されていて3、背骨のカーブや骨盤が前傾していることなどがランニング時の股関節のパワーに関係してきます。
慣れていない選手が無理に前傾姿勢を取ることで股関節のパワーを高めることができますが、ランニングのパフォーマンスは低下してしまいます4。
このように骨格や身体の特性によって、股関節を使った走りが自然にできるランナーと、そうでないランナーがいるわけです。
もし、意識的なフォーム改善が難しいと感じる場合は、他のアプローチも組み合わせることが重要になります。
股関節のストレッチ
股関節周りの柔軟性が低下していると、股関節の筋肉をうまく使いにくくなることがあります。
特に、股関節の前部分の硬さがあると、脚を後方に強く蹴る動作がやりにくくなります。
このため脚を前後に広げて、上体を起こして、股関節の前部分を伸ばすようなストレッチが役立ちます。
また、股関節を酷使しているとお尻の筋肉が硬くなりやすいため、お尻を伸ばすようなストレッチを取り入れることも役立ちます。
お尻のトレーニング
お尻の筋肉を鍛えるようなエクササイズは股関節を使った走りに役立ちます。
例えば、仰向けでお尻をあげるヒップリフトのエクササイズは、股関節で押す感覚を身につけることができます。
慣れてきたら片足でヒップリフトを行うことで、お尻の筋肉により効かせることができます。
また、スクワットを行う際には、お尻を深く落とすようなフルスクワットが大臀筋に効かせることができます。
さらに、バーベルを使って股関節を押すようなヒップスラストのエクササイズもお尻の筋肉を効果的に鍛えることができます。
ただし、これらの筋力トレーニングで高重量を扱えるようになったとしても、必ずしもそれが直接的にランニング中の推進力向上に繋がるとは限りません。
ランニングに必要な筋力は、単なる筋力だけでなく、動作の中での連動性や持続性も求められるため、実践的なアプローチも重要になります。
このためランニングの中でお尻の筋肉を刺激するようなメニューも組み込むことも大事になります。
坂道ランニング
アップダウンのある坂道ランニングに取り組むことで、実戦的なお尻の筋肉を鍛えることができます。
実際に上り坂のランニングでお尻の筋肉の活動量が増えることが報告されており5、股関節で押す感覚を強化するのに役立ちます。
一方で下り坂では太ももの前の大腿四頭筋などが使われやすく、ブレーキの筋肉に刺激が入ります。
このためアップダウンのあるクロスカントリー、峠や山のランニングコースなどを走り込むことが、股関節の強化に役立ちます。
最初は疲れてすぐに脚が重くなってくるかもしれませんが、慣れてくると後半でも股関節で押す推進力が身についてきます。
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傾斜をつけたトレッドミル
傾斜をつけたトレッドミルでのランニングも股関節やお尻の筋肉を鍛えるのに役立ちます。
最初は3~5°くらいの軽い傾斜から始めていき、慣れてきたら10~15°などの傾斜で行うとお尻の筋肉を効果的に鍛えることができます。
アップダウンのあるコースが近くにない場合にはトレッドミルを利用することで坂道の代用になります。
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ミニマリストシューズ
近年では厚底シューズやソールが厚いシューズがトレンドですが、裸足でのランニングやミニマリストシューズなどもお尻の筋肉を鍛えるのに役立ちます。
実際に裸足ランニングでは通常のシューズと比べて大臀筋の活動量が増えることが報告されています6。
裸足ではシューズのように転がらないこと、接地パターンが変わるなどの理由によってお尻の筋肉が使われると考えられています。
ミニマリストシューズや裸足ランニングの導入には怪我のリスクもあるため、段階を踏んで慎重に取り入れることが大事になります。
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まとめ
股関節を上手に使った走り方は膝の負担を減らし、推進力を高めてパフォーマンスアップに役立ちます。
骨格的な要因によってランニングフォームを意識するだけでは限界があり、お尻を鍛えるようなエクササイズやアップダウンのある坂道を走り込むなど、股関節を鍛えていくようなメニューを取り入れることが役立ちます。
<参考文献>
- Xie P, István B, Liang M. The Relationship between Patellofemoral Pain Syndrome and Hip Biomechanics: A Systematic Review with Meta-Analysis. Healthcare (Basel). 2022 Dec 28;11(1):99. doi: 10.3390/healthcare11010099. PMID: 36611559; PMCID: PMC9818693.
- Schücker L, Parrington L. Thinking about your running movement makes you less efficient: attentional focus effects on running economy and kinematics. J Sports Sci. 2019 Mar;37(6):638-646. doi: 10.1080/02640414.2018.1522697. Epub 2018 Oct 11. PMID: 30307374.
- Teng HL, Powers CM. Influence of trunk posture on lower extremity energetics during running. Med Sci Sports Exerc. 2015 Mar;47(3):625-30. doi: 10.1249/MSS.0000000000000436. PMID: 25003780.
- Carson NM, Aslan DH, Ortega JD. The effect of forward postural lean on running economy, kinematics, and muscle activation. PLoS One. 2024 May 29;19(5):e0302249. doi: 10.1371/journal.pone.0302249. PMID: 38809851; PMCID: PMC11135760.
- Sloniger MA, Cureton KJ, Prior BM, Evans EM. Lower extremity muscle activation during horizontal and uphill running. J Appl Physiol (1985). 1997 Dec;83(6):2073-9. doi: 10.1152/jappl.1997.83.6.2073. PMID: 9390983.
- Snow NJ, Basset FA, Byrne J. An Acute Bout of Barefoot Running Alters Lower-limb Muscle Activation for Minimalist Shoe Users. Int J Sports Med. 2016 May;37(5):382-7. doi: 10.1055/s-0035-1565140. Epub 2016 Feb 2. PMID: 26837932.