腰痛

スプリンターの腰痛の原因と改善方法

 

爆発的な力を生み出すスプリンターにとって、腰痛は避けては通れない悩みかもしれません。

しかし、その原因を知り適切に対処することで、パフォーマンスを落とさずに痛みを改善しやすくなります。

 

スプリンターの腰痛について

スプリンターは瞬発的に高い力を発揮する競技であり、腰に大きな負担がかかりやすく、様々な種類の腰痛を引き起こす可能性があります。

疲労骨折(脊柱分離症・すべり症)

スプリント動作では、腰の骨の伸展や回旋が繰り返し行われ、特定の部位に疲労が蓄積し、疲労骨折を起こすことがあります。

椎間板ヘルニア

椎間板は背骨と背骨の間にあるクッションのような役割を果たす組織であり、スプリントの着地や、腰に強い負担がかかる動作によって、椎間板に強い圧力が加わります。椎間板が変形・突出して神経を圧迫し、腰や下肢の痛みやしびれを引き起こします。

筋筋膜性疼痛症候群

スプリンターはハムストリングス、大殿筋、腸腰筋などの筋肉を酷使し、これらの筋肉が過度に緊張したり、硬くなったりすると、腰を引っ張る力が働き、腰痛を引き起こすことがあります。

 

しつこい腰痛がある場合には、医療機関を受診することが大切になります。

 

スプリンターの腰痛の原因

姿勢の乱れ(反り腰)

反り腰の姿勢は腰の負担が大きくなり、腰椎分離症といった腰痛につながる可能性があります。

スプリンターは過度な腰の伸展による腰痛が起こることが多々あり、特に成長期で骨が丈夫でない若い陸上選手に腰椎分離症がみられる傾向があります1・2

姿勢

同じ人でも走るスピードが速くなるほど、反り腰気味の走り方になることが報告されています

そして、他のスポーツに比べてスプリンターは反り腰になりやすいという特徴があります

スプリンター

しかし、完全に腰のカーブがなくなるのがいい姿勢というわけではなく、腰のカーブがない場合にも腰痛が起きやすいことが報告されています5・6

腰のカーブが小さいと椎間板に負荷がかかりやすくなり、スプリンターは椎間板に関する腰痛も多いという報告があります

このように腰のカーブが大きすぎても小さすぎても腰痛のリスクとなり、それぞれ違う種類の腰痛を引き起こす可能性があるわけです。

(画像:https://www.youtube.com/watch?v=2O7K-8G2nwU)

ウサインボルトは背骨が曲がった状態である脊柱側弯症を抱えており、腰痛に苦しんだと言われています。ウサインボルトは反り腰気味の走りにもなっていて、上の写真のように他の選手と比べて反り腰の傾向が強いかもしれません。

ただし、反り腰であると骨盤の前傾になりやすく、骨盤の前傾はスプリント走のパフォーマンスを高める可能性があります。

反り腰は速く走れる代償として腰痛が引き起こされる部分があるのかもしれません。

スプリンター
陸上選手は骨盤前傾の走り方がいいのか?

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筋力バランスの乱れ

体幹の筋肉には腰を守る役割があり、筋力不足は腰痛につながる可能性があります。

例えば腹筋が弱いと反り腰につながりますし、インナーマッスルにも姿勢を整える役割があります。

特定の筋肉だけが強くても腰痛を防ぐ効果は限られていて、腰痛を防ぐためには様々な筋肉をバランスよく鍛えることが大事になります。

骨盤前傾と筋力バランス

ウサインボルトも腰痛に悩まされていましたが、体幹を徹底的に鍛えることで怪我を乗り越え、大活躍するようになったと言われています。

バイエルン・ミュンヘンのスポーツドクターの元を訪ね、たとえ曲がった背骨でも走れる体になれないものかと懇願した。ドクターは体幹の筋肉を徹底的に鍛えることで、骨盤の揺れからくるハムストリングスへの負担を少しでも軽減させようと提案した。3年計画で20にも上るプログラムが組まれ、腹筋、背筋、大殿筋など骨盤周辺のあらゆる筋肉が強化の対象になった。

Sports Graphic Number <致命的な欠陥との共存を解析> ウサイン・ボルト 「世界最速が背負う秘密の十字架」

 

過剰なトレーニング

体幹の筋肉を鍛えることは腰痛防止に役立ちますが、不適切な体幹トレーニングや過剰な負荷によって腰痛が引き起こされるケースも珍しくありません。

例えば、より重い重要で体幹の筋肉を強化したほうがいいと考えている事例は珍しくなく、過度な高重量での体幹トレーニングは腰を痛めてしまうリスクがあります。

瞬発力に優れたスプリンターにとって、プランクなどの体幹トレーニングは物足りなさがあり、徐々に高重量へと手を出してしまいたくなるかもしれません。

腹筋高重量

他にもメディシンボールを使ったトレーニングなど、回旋系の動きに負荷をかけるような体幹トレーニングは腰に大きな負担がかかり、腰が捻られた状態は怪我を引き起こしやすいポジションになります。

適度な頻度であれば腰痛は起こりませんが、こういったエクササイズは想像以上に負荷がかかっているため、過剰なトレーニングになりがちです。

ロシアンツイスト

また、スプリンターはスプリント走の練習だけでなく、ウェイトトレーニングやプライオメトリクスなどの高強度トレーニングに取り組むことが多く、腰に負担がかかりやすいため注意が必要になります。

速く走りたい、もっといい記録を出したいという気持ちから、知らず知らずのうちに過剰な負荷での練習、多すぎる練習量になってしまうことが珍しくありません。

 

スプリンターの腰痛の改善方法

休養

スプリンターの腰痛の改善の基本は十分な休養を取ることです。

腰痛を解消するために必要な休養期間が長くなってしまうことは珍しくなく、余裕をもって休養を取ることが大事になります。

痛みがなくなったからとすぐに競技復帰してしまうと、腰痛を再発してしまう可能性があり、十分な回復期間を取ることが大切です。

カレンダー時間

 

ストレッチ

腰痛の改善にはストレッチで柔軟性を高めることが役立ちます。

ストレッチ

反り腰がある場合には腰や大腿四頭筋などが硬くなりやすいため、こういった筋肉をストレッチでほぐすことが役立ちます。

大腿四頭筋ストレッチ

しかし、ストレッチで筋肉をほぐすだけで姿勢が改善されないことは珍しくなく、弱い筋肉を鍛えるといったアプローチも必要になります。

また、腰痛を抱えているときに腰のストレッチを行うと痛みが悪化するケースもあり、過度なストレッチを避けることや、ストレッチ時に違和感がある場合には中止することが大事です。

 

体幹トレーニング

体幹トレーニングに取り組むことは腰痛の改善・予防に役立ちます。

腰痛を抱えているときには、腰に負担がかかりにくいインナーマッスルのトレーニングから始めていくことが役立ちます。

体幹トレーニング

腰をまっすぐニュートラルの姿勢をキープした状態でのトレーニングは腰に負担がかかりにくくなり、綺麗な姿勢を維持することで体幹の筋肉を刺激することにもつながります。

背中が丸まったり、反ったりするようなエクササイズは腰への負担が大きくなります。

 

そして、腰を反らさないように体幹の姿勢をキープするように体幹トレーニングをやることで反り腰を減らせることが報告されています

 

(Lee et al 2023)

腰痛防止には腹斜筋を鍛えることも大切であり、サイドプランクなどを行う際には身体が真っすぐ綺麗な軸を維持することが効果を高めるポイントになります。

サイドプランク

腰痛が軽減していくにつれて少しずつ負荷をかけて鍛えていくことも大事になりますが、負荷をかけすぎると腰痛が悪化してしまうリスクがあるため、身体の状態を見極めながらリハビリを進めていくことが大事になります。

サイドプランクのバリエーション

 

まとめ

スプリンターの腰痛は反り腰や体幹の筋力不足、不適切なトレーニングや過剰な運動などが原因になります。

腰痛の改善には十分な休養、ストレッチ、体幹トレーニングが役立ちます。

 

<参考文献>

  1. Malliaropoulos N, Bikos G, Meke M, Tsifountoudis I, Pyne D, Korakakis V. Mechanical Low Back Pain in Elite Track and Field Athletes: An observational cohort study. J Back Musculoskelet Rehabil. 2017 Aug 3;30(4):681-689. doi: 10.3233/BMR-150390. PMID: 28655123.
  2. Tawfik S, Phan K, Mobbs RJ, Rao PJ. The Incidence of Pars Interarticularis Defects in Athletes. Global Spine J. 2020 Feb;10(1):89-101. doi: 10.1177/2192568218823695. Epub 2019 Feb 24. PMID: 32002353; PMCID: PMC6963352.
  3. Tomianga T, Tasaki Y, Sado N. Speed-dependent increase in lumbar lordosis is independent of anterior pelvic tilt and lumbo-pelvic extension during treadmill running. J Biomech. 2025 Jun;186:112715. doi: 10.1016/j.jbiomech.2025.112715. Epub 2025 Apr 22. Erratum in: J Biomech. 2025 May 30:112776. doi: 10.1016/j.jbiomech.2025.112776. PMID: 40288298.
  4. Uetake T, Ohtsuki F. Sagittal configuration of spinal curvature line in sportsmen using Moire technique. Okajimas Folia Anat Jpn. 1993 Aug;70(2-3):91-103. doi: 10.2535/ofaj1936.70.2-3_91. PMID: 8247477.
  5. Chun SW, Lim CY, Kim K, Hwang J, Chung SG. The relationships between low back pain and lumbar lordosis: a systematic review and meta-analysis. Spine J. 2017 Aug;17(8):1180-1191. doi: 10.1016/j.spinee.2017.04.034. Epub 2017 May 2. PMID: 28476690.
  6. Sadler SG, Spink MJ, Ho A, De Jonge XJ, Chuter VH. Restriction in lateral bending range of motion, lumbar lordosis, and hamstring flexibility predicts the development of low back pain: a systematic review of prospective cohort studies. BMC Musculoskelet Disord. 2017 May 5;18(1):179. doi: 10.1186/s12891-017-1534-0. PMID: 28476110; PMCID: PMC5418732.
  7. Lee S, Kim H, Jung J, Lee S. Immediate Effects of Sprinter-Pattern Exercise on the Lordotic Curve and Abdominal Muscle Activity in Individuals with Hyperlordosis. Medicina (Kaunas). 2023 Dec 15;59(12):2177. doi: 10.3390/medicina59122177. PMID: 38138280; PMCID: PMC10744921.

 

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