怪我からランニングに復帰する際に、いきなり無茶な練習をしてしまうと痛みが悪化して怪我が長引いてしまいます。
そのような失敗をするランナーが珍しくないため、できるだけ安全にランニングに復帰する方法についてご紹介していきます。
安全なランニングへの復帰方法
短い距離から始める
怪我からのランニング復帰にするにあたってよくあるミスが、いきなり普段と同じ距離でランニングをしてしまうことです。
「いつも10kmのジョグをしていたから、怪我から復帰する時の練習も10kmジョグから始めよう」
確かに健康的な状態ならば問題ない距離かもしれませんが、怪我をした状態ではリスクがあります。
大したことない距離だと思っていても、病み上がりの身体には想像以上に負荷が大きく、痛みが悪化する可能性があるわけです。
安全にランニングに戻すためには少しずつ距離を戻していくことが怪我の再発を防ぐために大事なポイントになります。
最初は普段の20〜30%の距離のランニングから始めていき、40〜50%の距離、60〜70%の距離と少しずつ増やしていきます。
短い距離のジョグは痛みが悪化するリスクが小さく、どれくらいならば安全に走れるか?を見極めやすいという利点があります。
安全に走れる距離がわかればその範囲内で練習をすることができますし、怪我が回復していくにつれて徐々に距離を伸ばしていけば怪我の再発リスクを抑えることができます。
この時に注意する点が痛みがなければ距離を増やしていいというわけではなく、同じ距離を1週間くらい走ってみて痛みがないことを確かめてから距離を少しだけ伸ばすことです。
たとえ1回のランニングで痛みがなかったとしても、同じメニューが続くと痛みが出ることがあり、1回のランニングだけでは安全かどうかを十分に判断することは難しいのです。
ゆっくりのジョグから始める
速いスピードでのランニングは大きな負荷がかかりやすく、痛みが悪化するリスクがあります。
ランニングに復帰する時にはゆっくりとしたスピードでのジョグから始めることが無難です。
早くランニングのパフォーマンスを取り戻すために高強度のランニングを行いたくなることがあるかと思いますが、短時間の高強度インターバル走だけではパフォーマンスを取り戻すのに限界があります。
ランニングのキレを取り戻すためには色々な練習をバランスよく行うことが大事になり、それならばランニングに復帰する最初は軽いジョグがリスクが少ないため効率的に練習を再開することができます。
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数日おきに休みを入れる
怪我からランニングに復帰するときは数日おきに休みをしっかりと取ることが大切です。
軽い運動であったとしても何日も連続で走っているとダメージが蓄積され、痛みが悪化してしまうリスクが高くなります。
無理をすれば走ることもできるかもしれませんが、ランニングに復帰する際には違和感がある時には潔く休むことが大切になります。
また、痛みがなくなった後も1ヶ月くらいは100%の練習量にせず、頻繁に休みを入れておくことが怪我の再発防止に役立ちます。
身体のケアを忘れずに
怪我をしているとき、痛みを抱えている時は身体のバランスが乱れやすい状態にあります。
このためランニングに復帰する時にはストレッチやマッサージを忘れずに行っておいたほうが無難です。
たくさんストレッチをやるほど怪我が早く治るというわけではありませんが、最低限のストレッチを行うことで変なランニングフォームのクセなどを防ぐことにつながります。
ランニング復帰に対する賛否
短い距離では練習にならない?
ランニングに復帰する際の練習メニューとして3kmや5kmのジョグなどを提案すると、「そんなんじゃ練習にならないよ」と言われることがあります。
その通りです。大した練習にはならないと思います。
しかし、怪我から復帰する際に大切なことは怪我の再発を防ぐことであり、痛みがなく安全に練習できる状態にすることです。
パフォーマンスを素早く取り戻すためには練習量を戻していくことが必要なのですが、痛みが再発してしまったら結局のところパフォーマンスを取り戻すことは難しくなります。
どのくらい走れるのかわからない状態にも関わらず、いきなり長い距離を走るのはリスクが高いということです。
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どのくらい休んだらいいのか?
怪我をしている時にどのくらいの期間を休めばいいのか?わからないことがあるかと思います。
例えば疲労骨折のようにドクターストップがかかる怪我の場合には、整形外科医から運動の許可が出るまでランニングを控えることになります。
しかし、MRI検査などで重症度を明確に判断しにくい痛み、どのくらいで治るのかがわからないランニングの痛みなども珍しくありません。
こういった痛みの場合には、段階的にリハビリを進めていくことが早期復帰するための現実的な対応策になります。
まず、歩行動作で痛みがある場合には運動は中止して、歩行時の痛みがなくなるまで安静にします。
歩行時の痛みがなくなったら、次に片足ジャンプなどをして痛みがあるかどうかを確かめます。
片足ジャンプに痛みが生じるのであれば体重をかけるような運動は控えて、痛みが回復するまで体重をかけずにできるリハビリなどを行います。
片足ジャンプで痛みがないのであれば、自転車など安全にできるクロストレーニングを始めていきます。
いきなり40〜50分などの長い時間のクロストレーニングはリスクがあるため、最初は10〜20分くらいの軽い有酸素運動から始めていき、痛みのない範囲で徐々に距離を伸ばしていきます。
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自転車などのクロストレーニングを1時間行っても痛みがない、という状態まで痛みを回復させていきます。
1時間のクロストレーニングを1週間行っても痛みがなければ、休養を入れたうえで短い距離でのジョグを再開していきます。
これは絶対的な指標ではなく、あくまで膝痛の場合の参考のひとつに過ぎず、身体の状態を総合的に判断した上でジョグを再開することが大切です。
走ってはいけない痛みとは?
痛みの種類で身体の状態を見極めることは簡単ではありません。
過去の経験からこの程度の痛みなら走っても大丈夫と思うことがあるかもしれませんが、残念ながら痛みの種類で怪我の重症度を測るのは精度が低いためリスクがあります。
そもそも痛みの程度と身体の状態は必ずしも一致するわけではなく、痛みは不規則に出現することがあり、今までは大丈夫な痛みだったとしても怪我が重症化すること可能性は十分にあり得ます。
安全にランニングに復帰するための基本は、痛みのない範囲で少しずつ運動量を戻していくことです。
大会に間に合わせるためには?
「怪我をしているけれども、重要な大会があってそれに間に合わせるにはどうしたらいいですか?」という疑問もあるかと思います。
色々な治療法が開発されていて怪我の回復を少し早めることはできるかもしれませんが、十分な休養を取ることが基本となります。
無理をしてランニングを再開できたとしても、一定の運動量を確保できなければパフォーマンスは低下していき、大会で良い成績を出すことは難しいと言えます。
重要な大会の前に焦って過剰な練習をして、故障をしてしまった時点で良いパフォーマンスが発揮できないことが濃厚となります。
これはマラソンの前半から飛ばし過ぎて失速することに似ている部分があると思います。
マラソンなどランニングの大会で良い成績を出したいのならば、後先考えずに無謀に突っ込んでいくよりも、一定のペースに抑えてじっくりと進んでいくことが大切です。
レースで大幅に失速してしまった段階で、そこから挽回する術は残されていないという状況に近いわけです。
感情的になって無茶な勝負すると思うような結果が残せない、ランニングはそういうスポーツであると思います。
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怪我をした前よりも強くなるためには?
怪我をすることは必ずしも悪いことばかりではありません。
怪我をしたことで以前よりも大きく成長するきっかけになることがあります。
リハビリ期間中に身体のバランスを整える、細かい筋肉をしっかりと鍛えておく、クロストレーニングに挑戦してみる、普段とは違うランニングの練習を取り入れてみる。
怪我をした期間に今までやってきたことを冷静に見直し、弱点を強化していく。そんな小さな努力の積み重ねによって、大きく成長するキッカケになる可能性は十分にあり、自己ベスト更新につながるかもしれません。
まとめ
怪我からランニングに復帰する際に、いきなり普段やっていた練習メニューに戻すと痛みが悪化するリスクがあります。
安全にランニングに復帰するためには短い距離、ゆっくりしたスピード、休養を入れながら徐々に練習量を戻していくことが大切です。
<参考文献>
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