厚底カーボンシューズによる怪我
厚底カーボンシューズはカーボンプレートの反発力によって中長距離走のタイムを大幅に改善させる効果がありますが、一方で怪我のリスクも一定程度あります。
厚底カーボンシューズが登場した当初は新しいシューズに慣れておらず股関節の怪我が増えていましたが、近年では厚底カーボンシューズにある程度慣れてきており、ランニングの怪我のパターンが変わりつつあるようにも思います。
厚底カーボンシューズのラインナップが増えてきたことにより相性の良いシューズを選びやすくなっていること、厚底カーボンと薄底シューズの履き分けといった対策なども取られるようになってきています。
とはいえ厚底カーボンシューズを履きこなすことは意外と難しく、怪我を引き起こしてしまう事例もまだまだあるかと思います。
厚底カーボンシューズでの練習量を減らしたり、ストレッチやマッサージなどの身体のケアで怪我を防ぐといった考え方もあるかもしれません。
しかし、そもそもの問題は厚底カーボンシューズを履きこなすためにはどうしたらいいのか?という点ではないでしょうか。
ランニングフォーム
股関節
一般的に厚底カーボンシューズによって反発力が高まり、ランニング時のストライドが大きくなります。
いわゆる跳ねるようなランニングフォームになり、それにうまく適応できていないと怪我へとつながる可能性があります。
さらには股関節をうまく使えていないだとか、うまく厚底カーボンシューズを履きこなせていないだとか言われてしまうこともあるのではないでしょうか。
カーボンプレートなどによってシューズの剛性を高めると、意外にも股関節の負荷が減るという研究結果が報告されています1。
例えばアシックスの上級者モデルであるメタスピードスカイ、ランニングフォームを分析すると股関節に力が入りにくいのも納得です。(専門用語で言えば股関節のモーメントアームが短く、股関節トルクが小さくなりやすいと)
ストライドを大きくして厚底カーボンシューズの恩恵を受けるためには、股関節で後方に蹴り出すような力を加えるというよりも地面に対して垂直方向に力を加えることがポイントになります。
このためトレーニングで股関節を強化すること、特に垂直方向の強化によってランニング時により大きな力を加えやすくなりますし、股関節の怪我を減らすことはできるかもしれません。
しかし、厚底カーボンシューズを履きこなすためには股関節だけを強化すればいいわけではありません。
厚底カーボンシューズなど剛性の高いシューズを履くと、膝周りの筋肉の働きも求められることが報告されています1。
このため厚底カーボンシューズの機能を十分に引き出すためには、それを支えるための膝周りの筋肉も鍛えておくことが大事になります。
ふくらはぎ
カーボンプレートの反発力がふくらはぎに似たような役割を果たします。
このため理論上はふくらはぎの筋肉の働きが減りますし、実際にふくらはぎの筋肉の活動量が減少していることが報告されています2。
しかし、厚底カーボンシューズで走るとふくらはぎの筋肉が攣るという事例も起こります。
ストレッチやマッサージでふくらはぎをほぐすことや、トレーニングでふくらはぎを鍛えることが基本となりますが、厚底カーボンシューズを履いた時のふくらはぎの痙攣が改善しにくいこともあります。
厚底カーボンシューズがふくらはぎの負担が増える場合というのは、シューズがフィットしていない、不安定でぐらつくことが理由として考えられます。
このためふくらはぎの負担を減らすためにはシューズを履いた時の不安定さを解消することが大事なポイントになります。
つま先
つま先立ち、フォアフットに近い状態でのランニングを強制されるという意見もあります。
バランスを取るためにつま先が内側や外側を向いてしまう状態などが引き起こされることもあります。
この状態だと膝や股関節の負担が増える可能性があり、ランニングへの怪我へとつながる可能性が考えられます。
このため厚底カーボンシューズを履きこなすためには足の指の筋肉も大事になってきます。
厚底カーボンシューズを履くと足の指の筋肉の働きがより求められるという研究結果も報告されています1。
(Song et al 2024)
また、厚底カーボンシューズを履くことで足部の疲労骨折が起こりやすいということが報告されています3。
これはフォアフットに近い状態でのランニングを強制されやすいことが疲労骨折につながっていると考えられます。
この点についてはカーボンプレートがカーブ形状になっているシューズの方が骨の負荷が減るなど、シューズ次第で負荷が変わってくる部分でもあります4。
厚底カーボンシューズを履きこなすトレーニング
片足バランス
厚底カーボンシューズを履きこなすためには、まずはシューズを履いた状態での片足バランスを改善していきます。
反発力や推進力が高いシューズや上級者モデルのシューズは意外と安定性が弱く、バランスを崩しやすかったりします。
片足でふらついたら姿勢を立て直すといったバランスをとる練習ではなく、そもそもブレさせないことが大事なポイントになります。
バランス感覚を鍛えるのではなく、弱い筋肉を鍛えて片足立ちを安定させていくことが大事です。
片足ジャンプ
片足バランスがうまくできるようになったら、厚底カーボンシューズを履いた状態での片足ジャンプに取り組んでいきます。
片足ジャンプを安定させるのは少し難しくなりますが、ランニングよりは簡単な動作であると言えます。
これがうまくできなかったら負荷が高いランニング動作時に厚底カーボンシューズをうまく履きこなすことは難しくなるかと思います。
まずは立ち幅跳びに取り組んでいきます。着地は片足で行います。
大事なポイントは着地した瞬間のバランスであり、手足を使ってバランスを取るのではなく、そもそもブレさせないことが大切です。
立ち幅跳びがうまくできるようになったら高さを加えたジャンプに取り組んでいきます。着地は片足で行います。
垂直方向に力が加わるので厚底カーボンシューズでの走りにより近い形になりますが、着地をブレさせないことがポイントです。
筋肉がバランス良く鍛えられていないと着地がブレやすく、弱い筋肉を鍛えていくことが必要になります。
まとめ
厚底カーボンシューズの反発力を生かすには股関節の垂直方向のパワーが求められ、それを支える股関節や膝周りの筋肉が必要になります。
また、厚底カーボンシューズでふくらはぎが痙攣してしまう場合には、シューズとの相性の悪さ、シューズがぐらついて不安定になっているなどの原因が考えられます。
ランナー膝が治らない場合に考えられる原因
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<参考文献>
- Chen H, Shao E, Sun D, Xuan R, Baker JS, Gu Y. Effects of footwear with different longitudinal bending stiffness on biomechanical characteristics and muscular mechanics of lower limbs in adolescent runners. Front Physiol. 2022 Aug 19;13:907016. doi: 10.3389/fphys.2022.907016. PMID: 36060684; PMCID: PMC9437943.
- Hata K, Hamamura Y, Noro H, Yamazaki Y, Nagato S, Kanosue K, Yanagiya T. Plantar Flexor Muscle Activity and Fascicle Behavior in Gastrocnemius Medialis During Running in Highly Cushioned Shoes With Carbon-Fiber Plates. J Appl Biomech. 2024 Mar 7:1-9. doi: 10.1123/jab.2023-0170. Epub ahead of print. PMID: 38458184.
- Tenforde A, Hoenig T, Saxena A, Hollander K. Bone Stress Injuries in Runners Using Carbon Fiber Plate Footwear. Sports Med. 2023 Aug;53(8):1499-1505. doi: 10.1007/s40279-023-01818-z. Epub 2023 Feb 13. PMID: 36780101; PMCID: PMC10356879.
- Song Y, Cen X, Sun D, Bálint K, Wang Y, Chen H, Gao S, Bíró I, Zhang M, Gu Y. Curved carbon-plated shoe may further reduce forefoot loads compared to flat plate during running. Sci Rep. 2024 Jun 8;14(1):13215. doi: 10.1038/s41598-024-64177-3. PMID: 38851842; PMCID: PMC11162459.