ロッカー構造とは
ロッカー構造のシューズとは、ロッキングチェアのように靴底(ソール)が大きく湾曲しているのが特徴のシューズです。この独特な形状により、足が地面に着地してから離れるまで、自然に前へと転がるようなスムーズな動きをサポートします。
湾曲したソール: かかとからつま先にかけて、またはつま先部分が大きく反り上がったような、丸みを帯びたソール形状をしています。このカーブが足の自然な転がり運動を促します。
厚いミッドソール: 多くの場合、ミッドソール(靴底の中間部分)が厚く設計されています。
硬い前足部: 前足部が硬く作られていることも特徴です。特に高性能なランニングシューズではカーボンファイバーなどの硬いプレートが内蔵されていることが多いです。
(Chao-Yen et al 2022)
ロッカー構造のメリット
ランニングパフォーマンスの向上
マラソンで好記録が出やすい、いわゆるスーパーシューズと呼ばれるものの多くはロッカー構造であり、ナイキのVaporflyやAlphafly、アシックスのMETASPEEDシリーズなど代表的な最速モデルのシューズもロッカー構造を採用しています。
HOKAのメタロッカーなどロッカー構造を前面に押し出しているシューズもあり、クッション性に優れながらも推進力があるモデルもあります。
ロッカー構造はシューズが転がるように動くため、足が地面を蹴り出す動作が楽になり、前へと進む推進力を得やすくなります。
一方でロッカー構造のシューズは反発力が弱いという弱点がありますが、これはカーボンプレートによって反発力を高めることで弱点が解消されています。
このロッカー構造とカーボンプレートという組み合わせは好記録が出やすいスーパーシューズの重要な仕組みのひとつとなっています。
また、ロッカー構造のシューズはマラソン以外の場面でも取り入れられることがあり、効率的な重心移動により、長時間の歩行やランニング時の筋肉の疲労を軽減する効果があります。
足首の負荷軽減
ロッカー構造のシューズのランニング動作を解析した研究では足首の負荷が軽減されること、ふくらはぎの筋肉の活動が減ることなどが報告されています1~3。
これはシューズが前に転がる動きをサポートするため、足首やふくらはぎの筋肉にそこまで大きな力を必要としないためです。
このためロッカー構造のシューズはアキレス腱炎の予防などに役立つ可能性があります4。
一方でロッカー構造であったとしても、シューズが転がった後でふくらはぎの力が必要となるシューズも存在し、こういったシューズではアキレス腱炎の痛みがすぐに軽減されるわけではありません4。
足部の負荷軽減
ロッカー構造のシューズはシューズが転がることで、体重を足裏に効率的に分散させることができます5。
これは重心が偏ってしまうことで引き起こされる足部の怪我の予防に役立ちます。
例えばかかとに重心がかかることで足底筋膜炎につながりますが、ロッカー構造のシューズを履くことで足底筋膜炎の症状が軽減したことが報告されています6。
ロッカー構造のデメリット
不安定
ロッカー構造のシューズは転がるように動くため、足元が不安定になりやすいというデメリットがあります。
特に履き慣れていないうちは、足元がぐらつく感じがして、余計な力が入ってしまったり、バランスを崩しやすくなったりすることがあります。
また、ふくらはぎがつりやすくなるなどの悪影響が出る可能性も考えられます。
膝の負担が増える
ロッカー構造のシューズは膝の負担が増えることが報告されています7。
その不安定な構造によって膝が不安定になりやすく、大腿四頭筋の力をより多く必要とします3。
また、垂直方向への反発力が前に転がる力に変換されるため、垂直方向への力を補うために結果として膝に負担がかかることがあります。
ランニングパフォーマンスの低下
マラソンのスーパーシューズの多くがつま先の高いロッカー構造を採用していますが、カーボンプレートを使わないような反発力が弱い、ただのロッカー構造のシューズというだけではランニングのパフォーマンスが改善するわけではありません。
実際にロッカー構造のシューズで走ると酸素消費量が増加することが報告されており8、ランニングのパフォーマンスが低下することが示唆されています。
(Sobhani et al 2014)
というのもロッカー構造のシューズでも必要となる物理エネルギーの総量は変わらず9、負荷がかかってくる場所が変わるだけに過ぎません。
特にロッカー構造のシューズを履き慣れていない人は、普段あまり使っていない筋肉を使わざるを得ないため、ランニングのパフォーマンスの低下が大きくなりやすいと言えます。
ロッカー構造シューズの取り入れ方
足首や足部の負荷を軽減させる目的でロッカー構造のシューズを取り入れることは役に立つかと思います。
ただし、反発力が強いシューズだと負荷を軽減する効果が弱まってしまう可能性があるため注意が必要であり、クッション性に優れたモデルを選ぶことが重要になります。
ランニングのパフォーマンス向上が目的の場合にはカーボンプレート入りのシューズなど、反発力が高いシューズを選ぶことがポイントになります。
また、マラソンでスーパーシューズと呼ばれるものはロッカー構造を採用していることが多く、普段からロッカー構造のシューズに慣れておくことはスーパーシューズを履きこなすのに役に立つかと思います。
慣れていないシューズでいきなり長い距離を走ってしまうと怪我をしてしまうリスクがあるため、短い距離から少しずつ身体を慣らしていくことがポイントになります。
そしてロッカー構造のシューズだけでなく他のシューズも組み合わせることで、特定の箇所に負荷が集中してしまうのを防ぐことができます。
まとめ
つま先が高く、ソールが湾曲しているロッカー構造のシューズは転がるようにスムーズな重心移動ができ、推進力が得られます。
足首や足部への負荷が少なく、アキレス腱炎や足底筋膜炎の予防に役立ちますが、一方で慣れるまでの不安定感や、膝への負担が増える可能性といったデメリットも存在します。
カーボンプレートのないロッカー構造単体では、ランニングパフォーマンスが低下するケースもあるため注意が必要です。
ランニング目的や身体の状態に合わせてシューズを選び、そして適切に慣らしていくことが重要になります。
<参考文献>
- Sobhani S, Hijmans J, van den Heuvel E, Zwerver J, Dekker R, Postema K. Biomechanics of slow running and walking with a rocker shoe. Gait Posture. 2013 Sep;38(4):998-1004. doi: 10.1016/j.gaitpost.2013.05.008. Epub 2013 Jun 14. PMID: 23770233.
- Munim F, Jor A, Pollen TN, Hosen Opu S, Lam WK, Gao F, Kobayashi T. Effects of rocker-bottom shoes on the gait biomechanics of running and walking: A systematic review. Gait Posture. 2025 Apr 24;121:44-63. doi: 10.1016/j.gaitpost.2025.04.019. Epub ahead of print. PMID: 40315809.
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- Sobhani S, van den Heuvel ER, Dekker R, Postema K, Kluitenberg B, Bredeweg SW, Hijmans JM. Biomechanics of running with rocker shoes. J Sci Med Sport. 2017 Jan;20(1):38-44. doi: 10.1016/j.jsams.2016.04.008. Epub 2016 May 3. PMID: 27167559.
- Sobhani S, Bredeweg S, Dekker R, Kluitenberg B, van den Heuvel E, Hijmans J, Postema K. Rocker shoe, minimalist shoe, and standard running shoe: a comparison of running economy. J Sci Med Sport. 2014 May;17(3):312-6. doi: 10.1016/j.jsams.2013.04.015. Epub 2013 May 24. PMID: 23711621.
- Ruggiero L, Carpi M, Minetti AE. Rocker-profile design shoes improve pendular energy recovery in walking with no effects on total mechanical work. J Biomech. 2022 Nov;144:111345. doi: 10.1016/j.jbiomech.2022.111345. Epub 2022 Oct 13. PMID: 36283145.
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