身体のケア

酸素カプセルの効果と科学的根拠について

2024年9月1日

 

酸素カプセルは疲労回復やアンチエイジング、スポーツの怪我の回復など様々な効果を謳っていますが、本当に効果があるのか不安になることがあるかもしれません。

ここで酸素カプセルの効果について科学的根拠を交えて解説していきたいと思います。

 

酸素カプセルとは?

酸素カプセルとは通常の気圧よりも高い気圧環境を作り出したカプセルやボックスの中で、高濃度の酸素を吸入する健康器具です。

酸素カプセル内は通常の大気圧(約1気圧)よりも高い1.1~1.3気圧程度に加圧されます。

この高気圧環境下で高濃度の酸素を吸入することで、酸素が効率的に体内に取り込まれます。

酸素カプセル

 

酸素カプセルの効果

酸素量の増加

人の身体に取り込める酸素の量には限りがある、だから酸素カプセルは意味がないんじゃないかと思うかもしれません。

一般的に酸素はヘモグロビンと結合することで血液を通して運搬されますが、この結合型酸素には上限があります。

しかし、酸素カプセルの中で気圧を高めることで、酸素を血液中に溶け込ませることができ、溶解型酸素を増やすことで身体の隅々まで酸素が届きやすくなります。

 

高校の化学の授業で習うヘンリーの法則というものがあり、気圧を高めることで気体を液体の中に溶け込ませることができるのは普遍的な科学の原理です。

例えば炭酸水は液体の中に炭酸ガスが溶け込んだものであり、気圧を高めることで気体を液体の中に取り込ませるというのは身の回りに溢れている技術です。

他にも標高が高い山だと酸素が薄くなってしまうというのもヘンリーの法則が関係していて、山の頂上は気圧が低いため取り込める酸素量が減ってしまうために酸欠になりやすいというわけです。

 

疲労回復

酸素カプセルは疲労回復やコンディションを整える効果があり、実際に酸素カプセルを使用することでアスリートの疲労回復に効果があることが複数の研究で報告されています1~4

一方で酸素カプセルは疲労回復の効果がないとする研究結果もありますが、そういった研究は酸素カプセルを1回使用しただけのものになっています5・6

これらの研究では酸素カプセルの利用頻度や回数などに違いはあるものの、酸素カプセルを複数回使用すれば疲労回復の効果を得られる可能性があると言えます。

高圧酸素カプセルの利用

一方で酸素を大量に取り込むだけでは疲労回復の効果が低いことも報告されています

空気中の酸素量を増やすだけでは血液の中に酸素を溶け込ませることに限界があり、気圧を高めることで血中に溶ける溶解型酸素が増えるため(ヘンリーの法則)、体内の酸素供給が高まって疲労回復の効果を生み出しやすくなると考えられます。

 

怪我の回復

怪我をした部位は血管が損傷している場合が多く、酸素供給が滞りがちですが、酸素カプセルによって酸素不足を補い、組織の修復を活性化させることができます。

また、酸素カプセルはこの炎症を抑制する働きや血管の新生を促進する可能性が示唆されており、腫れや痛みを和らげ、怪我の回復に役立つと考えられています。

膝の痛みを抱えてる様子

スポーツによって内側側副靭帯を損傷した14名の人を対象にした研究では、怪我をした直後の2週間で10回酸素カプセルを使用することで、酸素カプセルを使用しなかった場合に比べて、浮腫が抑制され、怪我の回復が少し早くなったことが報告されています

(Soolsma 1996)

このような怪我をした人を対象にした研究はかなり数が限られていて、酸素カプセルの怪我に対する効果は動物実験での研究結果が多く、現時点では酸素カプセルのスポーツの怪我を対象にした研究は強い科学的根拠があるわけではありません

 

骨折時の酸素カプセル体験談

ここからは私自身が疲労骨折をしていた時に実際に酸素カプセルを使ってみた体験談です。(あくまで個人の感想であり、他の人にも同じような効果があるとは限りません)

大腿骨

疲労骨折に悩まされていた時期があり、早く疲労骨折を治したいという気持ちがあったので試しました。

初めて酸素カプセルに行ってみると60分2000円という価格表示だったのですが、酸素カプセルを減圧するのに15分かかるから、実質45分になりますと言われました。

実質60分間酸素カプセルに入りたかったら75分コースにする必要があると言われ、仕方がなく75分コースに変更して料金は2700円かかってしまいました。

なんだかモヤモヤした気持ちになりました。

 

初めて酸素カプセルに入ってみた時は疲労骨折した箇所がムズムズするような違和感がありましたし、ちょっとズキズキする痛みも出ました。

これは本当に効くのだろうか?と不安でいっぱいだったのですが、夜になって疲労骨折した箇所の血流が増えている感触がありました。

疲労骨折をした時の経験で酷い炎症があったときや血流が流れ込んだ翌日は意外と痛みが軽くなっていることがあったので、酸素カプセルは効いているかもしれないと思いました。

感覚的には42℃のお風呂に30分浸かったときよりも酸素カプセルに1時間入った時のほうが疲労骨折した箇所に血流が流れ込んでいた印象です。

 

初めて酸素カプセルを体験した翌日に疲労骨折の痛みが減ったかというと、微妙なところです。

というのも疲労骨折の対処は痛みや違和感が出るような運動は控えることであり、痛みが軽くなったかどうかを動いてみて検証するわけにはいきません。

それでもなんとなく効きそうな気がしたので、酸素カプセルを続けてみることにしました。

 

ただ、最初に行ったところは商売のやり方に納得できない部分があったので、別の酸素カプセルのお店に行くことにしました。

そこは良心的な料金設定で、お店の人の印象も良く、お店によって全然違うんだなと思いました。

酸素カプセル

その後1週間に5回酸素カプセルを試してみましたが、疲労骨折の痛みが早く回復しているかのかどうかはわからない状態でした。

そもそも安静にしていれば疲労骨折は徐々に回復するので、酸素カプセルによってどれだけ回復が早まっているのかがわかりません。

軽く動いてみたところ、痛みや違和感が残る状態であり、完治には程遠いという印象でした。

酸素カプセル内

2週間で10回試してみた時点では、少しだけ回復が早まっているような気がするといった感覚です。

4週間継続してみた段階で疲労骨折がそこそこ回復して、酸素カプセルがそれなりに効いているのかな~と思うのですが、酸素カプセルを使わなかったときと比べることができません。

実際に使ってみた感想として、酸素カプセルは何度も継続して使用しないと疲労骨折に効果がないような気がします。

(それってあなたの感想ですよね? はい、その通りです。)

 

これはあくまで私の個人的な体験談なので、他の人にも同じように当てはまるわけではありません。

 

酸素カプセルの注意点

回数や頻度について

酸素カプセルは目的によって頻度や回数が違ってきます。

一般的に3日に1回を続けると効率的であるという意見がありますが、リラクゼーション目的ならばこれでいいかもしれません。

スポーツの怪我なら3~10回が目安であるという論文もありますが10、状態によって回数や頻度は変わってくるかと思います。

最大限の効果を得るためには2.0~2.5気圧で1.5~2時間を週に5回以上の利用を推奨している論文がありますが、頻度を変えた場合の効果の違いを検証した研究の裏付けがあるわけではありません。

軽い脳損傷などは30~40回くらい酸素カプセルを使うという研究結果もあり11、怪我や身体の状態によって必要な利用回数が変わってくる可能性があります。

 

酸素カプセルは効果がわかりにくく、どのくらい使ったらいいのか不明瞭な部分があります。

例えばマッサージやストレッチならば身体がほぐれて気持ちいいという主観的な感覚がありますが、酸素カプセルの場合にはそういったわかりやすいものがありません。

たくさん酸素カプセルを利用しても、本当に効果があったのか?という疑問が残る可能性があります。

怪我が治るまで使うことが理想かもしれませんが、時間とお金には限りがあるので悩ましいところです。

 

医療目的としての酸素カプセル

酸素カプセルにはリラクゼーション用のものと医療用での違いがあります。

医療用の酸素カプセルは2.0気圧と高い圧力がかかり、血中の溶解型酸素が増えるため、より多くの酸素を取り込める使用になっています。

医療用酸素カプセル

しかし、心肺病気など禁忌事項を抱えている場合には高い圧力での酸素カプセルの利用はリスクはあると言われています12

このため怪我や病気などがある場合には医療従事者に相談することが大事になります。

 

民間の酸素カプセル業者が使用しているものは1.3気圧など圧力が弱く、医療用の酸素カプセルと比べると効果が弱いと言われていることがあります。

しかし、疲労回復やコンディションを整える目的ならば民間の酸素カプセルでも一定の効果があることが報告されています

 

まとめ

酸素カプセルには疲労回復やコンディションを整える効果がありますが、怪我の回復を早めることに関しては人を対象とした研究で強い科学的根拠はありません。

酸素カプセルの効果も目的や身体の状態によって、必要となる頻度や回数が違ってきます。

 

<参考文献>

  1. Akihiko Ishihara. Effects of hyperbaric exposure with high concentration of oxygen recovery of muscle recovery. Retrived May 1, 2025.
  2. Qu C, Xu M, Lorenzo S, Huang P, Rao Z, Geng X, Zhao J. Effects of mild hyperbaric oxygen therapy on timing sequence recovery of muscle fatigue in chinese university male athletes. J Exerc Sci Fit. 2024 Oct;22(4):305-315. doi: 10.1016/j.jesf.2024.04.005. Epub 2024 Apr 24. PMID: 38721019; PMCID: PMC11077027.
  3. Woo J, Min JH, Lee YH, Roh HT. Effects of Hyperbaric Oxygen Therapy on Inflammation, Oxidative/Antioxidant Balance, and Muscle Damage after Acute Exercise in Normobaric, Normoxic and Hypobaric, Hypoxic Environments: A Pilot Study. Int J Environ Res Public Health. 2020 Oct 10;17(20):7377. doi: 10.3390/ijerph17207377. PMID: 33050362; PMCID: PMC7601270.
  4. Mihailovic T, Bouzigon R, Bouillod A, Grevillot J, Ravier G. Post-Exercise Hyperbaric Oxygenation Improves Recovery for Subsequent Performance. Res Q Exerc Sport. 2023 Jun;94(2):427-434. doi: 10.1080/02701367.2021.2002797. Epub 2022 Apr 7. PMID: 35389333.
  5. Branco BH, Fukuda DH, Andreato LV, Santos JF, Esteves JV, Franchini E. The Effects of Hyperbaric Oxygen Therapy on Post-Training Recovery in Jiu-Jitsu Athletes. PLoS One. 2016 Mar 9;11(3):e0150517. doi: 10.1371/journal.pone.0150517. PMID: 26959652; PMCID: PMC4784886.
  6. Gušić M, Stantić T, Lazić A, Andrašić S, Roelands B, Bogataj Š. Effects of hyperbaric oxygen therapy on recovery after a football match in young players: a double-blind randomized controlled trial. Front Physiol. 2024 Oct 22;15:1483142. doi: 10.3389/fphys.2024.1483142. PMID: 39502408; PMCID: PMC11534614.
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  11. Harch PG. Systematic Review and Dosage Analysis: Hyperbaric Oxygen Therapy Efficacy in Mild Traumatic Brain Injury Persistent Postconcussion Syndrome. Front Neurol. 2022 Mar 17;13:815056. doi: 10.3389/fneur.2022.815056. PMID: 35370898; PMCID: PMC8968958.
  12. Singh B, Bhyan P, Cooper JS. Hyperbaric Cardiovascular Effects. 2025 Feb 6. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jan–. PMID: 29489293.

 

 

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