身体のケア

運動前の静的ストレッチは本当に逆効果なのか?

2025年6月7日

 

運動前の静的ストレッチは逆効果であり、運動前に静的ストレッチをやらないほうがいいという意見がありますが、現実的には静的ストレッチを行っている場面も多々あるかと思います。

果たして静的ストレッチはそんなに悪いのものなのか?科学的根拠を交えて解説していきたいと思います。

 

静的ストレッチとは?

静的ストレッチとは反動や弾みをつけずに、筋肉をゆっくりと伸ばし、その状態を一定時間保持するストレッチ方法です。

バスケ選手ストレッチ

動的ストレッチ(ダイナミックストレッチ)とは、反動や弾みを利用して関節や筋肉を動かしながら行うストレッチ方法です。

静的ストレッチが筋肉を伸ばした状態で静止するのに対し、動的ストレッチは動きを伴いながら筋肉を伸ばすという点が大きな違いです。

ダイナミックストレッチ

一般的に運動前には動的ストレッチが優れていて、静的ストレッチは好ましくないと言われることがあります。

 

静的ストレッチに対する誤解

パフォーマンスの低下

サッカー内転筋ストレッチ

静的ストレッチの直後は筋力発揮が弱まり、ジャンプ力やダッシュ力が弱まると言われています。

静的ストレッチの時間が長いほどパフォーマンスの低下が大きく、特に60秒以上のストレッチがパフォーマンス低下を引き起こしやすいことが報告されています

一方で運動前の動的ストレッチはスポーツのパフォーマンス向上に役立つことがあります

こういったことから運動前は静的ストレッチではなく、動的ストレッチがいいと言われています。

 

しかし、ここでひとつ見逃されている点があり、静的ストレッチの後に軽く身体を動かすと悪影響はなくなるということです。

ある研究では300秒の大腿四頭筋のストレッチの後に、スクワットやランジなどのエクササイズをやることで筋力発揮が弱くなるなどの悪影響がなくなったという研究結果が報告されています

別の研究でも静的ストレッチの後に、スポーツ特有のエクササイズをやることで静的ストレッチの悪影響がなくなったことが報告されています

サッカースプリント

このため運動前に静的ストレッチを逆効果になるかというと、必ずしもそうとは言い切れません。

静的ストレッチによるパフォーマンス低下は一時的なものに過ぎず、エクササイズや運動で身体を動かせば元に戻る可能性は十分にあります。

 

怪我が増える

運動前の静的ストレッチのデメリットとして怪我が増えるという印象を持っている人もいるかもしれません。

しかし、運動前の静的ストレッチで怪我が増えるというデータはなく、怪我の発生率は変わらないことが報告されています

一方で運動前の動的ストレッチには怪我を減らす効果があることが報告されています

このため怪我を減らすという意味では動的ストレッチの方が好ましいかもしれませんが、運動前の静的ストレッチが怪我を引き起こすわけではありません。

バスケストレッチ

これは静的ストレッチと他のウォームアップを組み合わせた場合も同様であり、静的ストレッチを入れたからといって怪我予防効果が阻害されるわけではありません。

実際に運動前に静的ストレッチと動的ストレッチの両方を行った研究では、動的ストレッチを行った場合のみと比べて怪我の発生率に違いはないことが報告されています

このように静的ストレッチを行ったからといって怪我が多くなるというわけではありません。

 

運動前のストレッチ方法

一般的に運動前は静的ストレッチではなく、動的ストレッチを行うべきであると言われることがありますが、

上述したように、運動前に静的ストレッチを含めてもそこまで大きな問題にはならないかと思います。

太ももストレッチ

静的ストレッチは柔軟性を改善する効果があるため、身体が硬い人などにはオススメです。

すでに必要な柔軟性を獲得しているのであれば、必ずしも運動前に静的ストレッチを行う必要はありませんが。

運動前に気持ちを整える、呼吸を落ち着かせるという意味で静的ストレッチを取り入れるのは価値があるかと思います。

 

静的ストレッチをやった後は、軽く身体を動かすことがポイントになります。

静的ストレッチをやった直後にいきなり試合の本番という状況は避けるべきであり、パフォーマンスの低下を引き起こす可能性があります。

パフォーマンスアップ向上が目的ならば、ストレッチの後に短時間の高強度の運動を疲れない程度に入れておくと効果的です。

実際に低強度のウォームアップや長時間のウォームアップよりも、短時間の高強度ウォームアップのほうがパフォーマンス向上が大きかったことが報告されています8・9

 

まとめ

一般的に運動前は静的ストレッチではなく、動的ストレッチを行うべきと言われますが、これは絶対的なものではありません。

柔軟性が不足している場合や緊張をほぐす目的で運動前に静的ストレッチを取り入れることは役立ちますし、運動時のパフォーマンス向上が目的ならば、静的ストレッチの後に軽く身体を動かしておくことが大事になります。

 

<参考文献>

  1. Kay AD, Blazevich AJ. Effect of acute static stretch on maximal muscle performance: a systematic review. Med Sci Sports Exerc. 2012 Jan;44(1):154-64. doi: 10.1249/MSS.0b013e318225cb27. PMID: 21659901.
  2. Behm DG, Chaouachi A. A review of the acute effects of static and dynamic stretching on performance. Eur J Appl Physiol. 2011 Nov;111(11):2633-51. doi: 10.1007/s00421-011-1879-2. Epub 2011 Mar 4. PMID: 21373870.
  3. Bengtsson V, Yu JG, Gilenstam K. Could the negative effects of static stretching in warm-up be balanced out by sport-specific exercise? J Sports Med Phys Fitness. 2018 Sep;58(9):1185-1189. doi: 10.23736/S0022-4707.17.07101-8. Epub 2017 Apr 13. PMID: 28409517.
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  6. Derek Sople, Reg B. Wilcox. Dynamic Warm-ups Play Pivotal Role in Athletic Performance and Injury Prevention. Arthroscopy, Sports Medicine, and Rehabilitation. Volume 7, Issue 2.
    2025.
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  8. Alves MDDJ, Knechtle B, Silva DDS, Fernandes MSDS, Gomes JH, Thuany M, Aidar FJ, Weiss K, De Souza RF. Effects of High-Intensity Warm-Up on 5000-Meter Performance Time in Trained Long-Distance Runners. J Sports Sci Med. 2023 Jun 1;22(2):254-262. doi: 10.52082/jssm.2023.254. PMID: 37293424; PMCID: PMC10245000.
  9. van den Tillaar R, Vatten T, von Heimburg E. Effects of Short or Long Warm-up on Intermediate Running Performance. J Strength Cond Res. 2017 Jan;31(1):37-44. doi: 10.1519/JSC.0000000000001489. PMID: 27191697.

 

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