これまで前十字靭帯を再断裂した人や、前十字靭帯が切れたまま手術ができない人、何年もリハビリをしているのに思うような結果を得られていない人など様々な方からご相談を受けてきました。
そういった方々はしっかりと身体をメンテナンスして、トレーニングもしているのに思うような結果が出ていないことが珍しくありません。
ですが、そういった人達でもちょっとしたポイントや工夫によってどんどん脚の状態が良くなっていくこと可能性があります。
リハビリのトレーニングが疎かになっている
前十字靭帯再建後のリハビリで思うような結果が出ていないという人でも、柔軟性が十分に確保されているケースは意外と多い印象を受けています。
日頃からしっかりと脚をケアしているんだろうな〜、というのが伝わってくるほどに脚の柔らかさがあったりします。
そのようにしっかりとケアされている方々でも、股関節や足関節の柔軟性が乏しかったり、筋肉があまりついていなかったりすることがあります。
おそらく膝周りの柔軟性の確保は徹底してケアしているのだけれども、他の部分にそこまで注意を払えていなかったりすることがあるような気がしています。
お尻の筋肉がうまく使えていない
お尻の筋肉を使うことが大切だということを耳にしたことがあるかと思います。
しかし、頭でわかっていてもお尻の筋肉をうまく使えていないケースが珍しくありません。
特に困難な痛みを抱えている人ほど、お尻の筋肉を働かせることは簡単にはいきません。
お尻に力が入らない原因は様々なものがあり、例えば股関節の柔軟性が不足しているためにお尻の筋肉に力が入りにくいというケースもあります。
他にも手術の傷口がうまくケアされていなかったり、さらには神経の連動性の問題だったりと、意識してお尻の筋肉を使うだけでは解決できない原因が隠れていることが珍しくありません。
膝関節以外もしっかりと鍛える
前十字靭帯損傷のリハビリのメインは膝関節であり、重点的に鍛えるのは膝関節であると思います。
そのためか膝関節がしっかりと鍛えられていても、他の部分が疎かになっていることが多々あります。
膝を整えるためには股関節、足関節、体幹など身体の他の部位をしっかりと鍛えることが役に立ちます。
例えば体幹を鍛えることで前十字靭帯の負荷が軽減されるという研究結果がありますし、その中でも忘れがちな腹斜筋などの横方向の筋肉が重要なポイントだったりします。
ふくらはぎの筋肉には前十字靭帯の負荷を軽減する効果が大きく、スポーツ復帰後のパフォーマンスにも大きく影響を及ぼします。
そして足関節も忘れてはいけません。足関節はすぐに大きな問題になるわけではないのですが、前十字靭帯損傷後のリハビリがうまくいっていなかった人は足関節を整えることが役に立つことが多い印象を受けています。
細かい筋肉を忘れずに鍛える
様々な筋肉をバランス良く鍛えるというのはとても重要ですが、実際にこれを実現するのは簡単ではありません。
人間には100を超える筋肉が存在しており、中にはトレーニングであまり鍛えられることが少ない細かい筋肉も存在しています。
例えば内側広筋はリハビリの際に重要視されるので、しっかりと鍛えられていることが多いのですが、外側広筋が弱かったりすることが多々あります。
他にもハムストリングの内側や外側という細かい鍛え方が必要になる場面もあり、例えばハムストリングスの内側に全く力が入っていないなどのケースもあります。
さらには体幹の筋肉の中でも腰方形筋や脊柱起立筋など、通常の体幹トレーニングでは十分に鍛えられない筋肉もあります。
リハビリで思うような成果がでてないケースでは、こういった細かい筋肉が忘れられていることが珍しくありません。
リハビリの負荷の調整
細かな筋肉をバランスよく鍛えることが大切なのですが、そういったことを行わずに時期尚早のままスクワットやランジなどの負荷の高いエクササイズに進んでしまうことも珍しくありません。
一般的に前十字靭帯リハビリにおいては筋力やジャンプ力があることが望ましいとされており、筋力獲得を目的としてスクワットなど負荷の高いトレーニングを取り入れられています。
しかし、膝の状態があまり良くないのに負荷の高いエクササイズを取り入れてしまうことで、
かえって膝を痛めてしまったり、変なクセがついてしまったりと逆効果になってしまうケースもあります。
膝の違和感を無視して、高重量のトレーニングに進んでしまうとこのようなことが起きやすくなります。
前十字靭帯損傷後のリハビリがうまくいっていない人は、まずは細かい筋肉を十分に鍛えることの優先度が高く、
膝が安心できる環境が整ってから、高重量のトレーニングなどに進んでいくことが大事です。
高い負荷をかけて鍛えるから大きな結果が得られるのではなく、適切な負荷から最高の結果が生まれるのです。
何気ない瞬間に起こる恐怖心への対策
前十字靭帯断裂をすると、何気ない瞬間に膝がもっていかれるような恐怖を感じることがあります。
そのような状態ではなかなかスポーツの複雑な動きや、高度なトレーニングに安心して取り組むことができなくなってしまいます。
これは単なる心理的な問題だけではなく、靭帯断裂によって膝関節が不安定になっているために起こる現象でもあります。
膝が緩いため何かの拍子に膝関節がガッとずれて、本能的に危険を感じてしまうのです。
これは突然やってくるためなかなかの恐怖を感じてしまいます。
安心してトレーニングやスポーツに取り組むためにも、膝関節の安定性をしっかりと高めてこういった問題を先に解決しておくことが重要です。
恐怖心というのは身体を守るための正常な反応であると思いますし、決してネガティブ思考だから恐怖を感じてまうわけではありません。
骨格の問題に対する対策
前十字靭帯再建のリハビリが思うように進んでいない場合など、骨格に問題があるからと指摘されてしまうケースも時にはあるかもしれません。
本当に骨格の問題かどうか?というのはレントゲンやMRIなどの検査によって確かめたほうがよく、
リハビリが思うように進まない原因を正式に調べずに闇雲に骨格のせいにされてしまうケースがあるような気がしています。
そして前十字靭帯断裂のリハビリで苦しんでいる人達は、身体のあそこが悪い、ここが悪いとたくさん指摘され続けて心を痛めていることが珍しくありません。
私自身も長年足の痛みで苦しんでいる時に専門家から骨格の問題と指摘されることも何度もありましたが、結局のところ骨格異常があるから無理というわけではなく、試行錯誤の末に無事にスポーツができるようになりました。
少なくとも骨格に何らかの異常があったとしても、それを考慮した身体のケアやトレーニングという工夫ができる可能性が残されていると私は思います。
まとめ
前十字靭帯再建後のリハビリというのは本当に大変なもので、様々な要素が絡んできます。
画一的な方法ではなく、その人の身体の状態に合わせ、原理原則を深く理解した上で理にかなったアプローチをすることで身体が改善していく可能性があるのではないでしょうか。
<参考文献>
- van Melick N, van Cingel RE, Brooijmans F, Neeter C, van Tienen T, Hullegie W, Nijhuis-van der Sanden MW. Evidence-based clinical practice update: practice guidelines for anterior cruciate ligament rehabilitation based on a systematic review and multidisciplinary consensus. Br J Sports Med. 2016 Dec;50(24):1506-1515. doi: 10.1136/bjsports-2015-095898. Epub 2016 Aug 18. PMID: 27539507.
- Glattke KE, Tummala SV, Chhabra A. Anterior Cruciate Ligament Reconstruction Recovery and Rehabilitation: A Systematic Review. J Bone Joint Surg Am. 2022 Apr 20;104(8):739-754. doi: 10.2106/JBJS.21.00688. Epub 2021 Dec 21. PMID: 34932514.
- Einarsson E, Thomson A, Sas B, Hansen C, Gislason M, Whiteley R. Lower medial hamstring activity after ACL reconstruction during running: a cross-sectional study. BMJ Open Sport Exerc Med. 2021 Mar 11;7(1):e000875. doi: 10.1136/bmjsem-2020-000875. PMID: 33782638; PMCID: PMC7957131.
- 前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019(監修;日本整形外科学会、日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会)