下り坂ダッシュは普段よりも速いスピードを身体に覚えさせることができると言われています。
しかし、闇雲に下り坂ダッシュするだけでは思うような効果が得られないこともあり、効果を出すためのポイントについてご紹介していきたいと思います。
下り坂ダッシュの効果
下り坂ダッシュはスプリント走を速くする効果を生み出す可能性があります。
実際に6週間の下り坂(3%の傾斜)のスプリント走のトレーニングで35m走のタイムが改善したことが報告されています1・2。
下り坂でのダッシュでは自然と速いスピードが上がっていくため、それを制御するためには素早く脚を回転させて走る動作になりやすく、ピッチを改善する効果が期待できるかと思います。
また、上り坂と下り坂(4%の傾斜)を組み合わせたスプリント走のトレーニングによって100m走のタイムの改善効果が大きくなったことが報告されており、上り坂と下り坂を組み合わせることでケイデンスとピッチの両方を伸ばすことができます1・3。
下り坂スプリントの注意点
傾斜
下り坂では重力によって勢いがつくため、体重を受け止めるために筋肉が引き伸ばされながら力を発揮するエキセントリック収縮を鍛えることができます。
また、下り坂では着地衝撃も大きくなるため、地面からの反発力を高める効果も期待できる可能性があります。
しかし、急な傾斜での下り坂ダッシュは過度な負荷を生み出し、トレーニング効果を阻害してしまうリスクもあります。

5.8°の傾斜(約10.2%の傾斜)の下り坂で走っている時がスピードが最大化するという研究結果がありますが4、これはそこそこ急な下り坂でありランニングフォームが乱れる懸念があります。
実際に5°の傾斜(約8.7%の傾斜)の下り坂でのスプリント走を行うと平地でのスプリント走の際に接地時間が長くなってしまうことが報告されており5,過度な傾斜でのスプリント走はブレーキ動作が働きすぎてしまうような変なクセがついてしまう可能性があります。
そして、下り坂ダッシュのトレーニングがスプリント走に効果があるとしている研究の多くは傾斜が軽い下り坂(3~4%の傾斜)でのダッシュになっています1~3。
距離
下り坂ダッシュでは距離もポイントになります。
下り坂が長すぎる場合には動作を制御しにくくなるような勢いがついて、ランニングフォームが大きく乱れてしまう可能性があります。
このため下り坂の距離を短めに設定して綺麗なランニングフォームを維持することが大事であり、特に傾斜がきつい下り坂ダッシュの場合には下り坂の距離を短くすることが役立ちます。
下り坂ダッシュのトレーニングに関する研究では下り坂の距離として20mが用いられていることが多く1~3、これが下り坂ダッシュの距離のひとつの目安になるかもしれません。
平地のスプリント走ではトップスピードに乗せるまでにある程度の力を使ってしまいますが、短めの下り坂を利用して力を残したままトップスピードに乗せることで、トップスピードでの走りに力を注ぐことができます。
怪我のリスク
下り坂ダッシュは着地衝撃によるダメージが大きく、やり過ぎてしまうと怪我につながるリスクがあります。
特にスピードが出過ぎてしまうような下り坂、ランニングフォームが乱れてしまうような坂道では走り慣れていない怪我の耐性が弱い部分にダメージを与えてしまう可能性があります。
下り坂ダッシュを実施する場合には週に1~2回ほどの頻度で、最初は少ない本数でのダッシュ、短い距離などで行うことが怪我予防につながります。
慣れてきたら少しずつ負荷を増やしていきますが、急激に負荷を増やすと怪我につながるので注意が必要です。
まとめ
下り坂ダッシュはスプリント走のパフォーマンスを高めるのに役立ちます。
一方で傾斜や距離によってはランニングフォームが乱れて効果が弱まる可能性もあります。
<参考文献>
- Paradisis GP, Cooke CB. The effects of sprint running training on sloping surfaces. J Strength Cond Res. 2006 Nov;20(4):767-77. doi: 10.1519/R-16834.1. PMID: 17194229.
- Bissas A, Paradisis GP, Nicholson G, Walker J, Hanley B, Havenetidis K, Cooke CB. Development and Maintenance of Sprint Training Adaptations: An Uphill-Downhill Study. J Strength Cond Res. 2022 Jan 1;36(1):90-98. doi: 10.1519/JSC.0000000000003409. PMID: 32032229.
- Cetin E, Hindistan IE, Ozkaya YG. Effect of Different Training Methods on Stride Parameters in Speed Maintenance Phase of 100-m Sprint Running. J Strength Cond Res. 2018 May;32(5):1263-1272. doi: 10.1519/JSC.0000000000001977. PMID: 28459793.
- Ebben WP, Davies JA, Clewien RW. Effect of the degree of hill slope on acute downhill running velocity and acceleration. J Strength Cond Res. 2008 May;22(3):898-902. doi: 10.1519/JSC.0b013e31816a4149. PMID: 18438224.
- Koichi Nakayama. Effects of downhill and tailwind assistance on kinematics of the maximum velocity phase in sprinting. Doctoral Thesis. 2023.
