クロストレーニングとは?
クロストレーニングとは特定のスポーツにおいて、異なる種類の運動やトレーニング方法を組み合わせることを指します。
ランナーの場合には自転車や水泳のトレーニングを取り入れることが多々あります。
自転車や水泳などのクロストレーニングは負荷が小さく、怪我のリスクを下げたり、疲労回復やリハビリなどに用いられることがあります。
自転車によるクロストレーニング
自転車とランニングの違い
自転車では大腿四頭筋がランニングよりも使われますが、ふくらはぎの筋肉があまり使われません1。
ランナーが自転車のトレーニングをする場合には大腿四頭筋が酷使されやすいので、適度にストレッチしておくことが無難であるかと思います。
自転車のトレーニングはランニングの怪我した時にリハビリとして使われることが多々あり、足部に負荷がかかりにくいためアキレス腱炎や足底筋膜炎など足部の怪我に対して効率的にトレーニングを行うことができます。
一方で自転車によるクロストレーニングは膝に負荷がかかりやすいため、膝痛を抱えている場合には過剰な自転車のトレーニングによって痛みが悪化してしまうリスクがあります。
膝痛を抱えているランナーがリハビリで自転車のトレーニングを行う場合には、脚を伸ばすタイプのバイクほうが膝に優しいためリハビリに適しています2。また、ハムストリングスの活動量が増えるというメリットもあります3。
一方で垂直姿勢のバイクにおいては大腿四頭筋の活動量が大きくなるという特徴があります3。
ランニングへの効果
ランナーが自転車のトレーニングに取り組むことで、ランニングのパフォーマンスが改善する可能性があります。
高校生のランナーを対象にした実験では週2回のジョグを自転車にしたところ、ランニングのみ練習した時よりも3000mのタイムが向上したことが報告されています4。
一方で大学生のランナーの練習の半分を自転車にした実験では、ランニングのみ練習した時よりもパフォーマンスが悪いという結果が報告されています5。
このようにランナーの自転車トレーニングは、その取り入れ方によって効果が変わってくる可能性があります。
水泳によるクロストレーニング
水泳とランニングの違い
水泳は脚に負荷がかかりにくく、怪我をしているランナーのクロストレーニングとして行われることがあります。
一般的に水泳は脚に負荷がかかりにくいと言われていますが、怪我をしている状態での過剰なスイムには注意が必要です。
例えば、平泳ぎは意外と脚力を必要とする泳ぎであるため、長時間の平泳ぎによって膝痛が悪化する可能性があります。
また、クロールも長時間やっているとバタ足によって膝に負荷がかかるため、膝痛を抱えている場合には浮き具をつかってバタ足をせずにクロールをすることで膝痛の悪化を防ぐことができます。
プールでの水泳に限らず、プールでのウォーキングもランナーのリハビリの選択肢になるかと思います。
水中でのウォーキングは水による抵抗が大きく、1時間近くのプールでのウォーキングといった長時間の運動になると想像以上に脚に負荷がかかります。
足部の怪我や膝痛を抱えている場合もプールでのウォーキングのやり過ぎで痛みを悪化させてしまうリスクに注意が必要です。
ランニングへの効果
水泳に取り組んだことによるランニングパフォーマンス向上は極めて限定的であることが報告されています1。
水泳を取り組むことによって心肺機能が強化される可能性はあるのですが、それがランニングに還元されることはあまり期待できません。
エリプティカルによるクロストレーニング
エリプティカル(クロストレーナー)とランニングの違い
エリプティカルマシーン(クロストレーナー)はランニングに似たような動きですが、腕などにも負荷がかかり全身を使う有酸素運動になります。
ジムで見かけることはあるけれども、あまり使ったことがないという人も珍しくないかと思います。
エリプティカルでのトレーニングは、大腿四頭筋とハムストリングスを同時に使うという特徴があります6。
筋肉への負荷が大きくなるというよりも、筋肉を使うタイミングが独特になります。
エリプティカルでのトレーニングはランニングのような着地衝撃がないため、関節へのダメージが小さく、ランナーのリハビリに適しています。
しかし、エリプティカルは膝に一定の負荷がかかるため7、膝痛を抱えている場合には過剰なトレーニングで痛みを悪化させてしまうリスクがあることに注意が必要です。
ランニングへの効果
エリプティカルマシーンを使ったクロストレーニングはランニングのパフォーマンスを高める可能性があります。
高校生のランナーを対象にした実験ではジョグの1/3(週2回)をエリプティカルマシーンにしたところ、ランニングのみ練習した時よりも3000mのタイムが向上したことが報告されています4。
クロストレーニングに対する賛否
ランナーの自転車などのクロストレーニングによるパフォーマンス向上については賛否があります。
クロストレーニングを取り入れたことでランニングの成績が向上した選手がいますし、一方でクロストレーニングを取り入れてもパフォーマンスが変わらなかった人もいます。
クロストレーニングの効果については再現性が弱いという問題があり、ランナーのクロストレーニングを調べた研究はそこまで多くはありません。
特にトレーニングのやり方によって効果が違ってくる可能性があるのですが、そういった点まで詳しく検証した研究はあまり行われていません。
一般的にサイクリストはランナーよりも最大酸素摂取量が高いと言われており、自転車トレーニングによって最大酸素摂取量が向上する可能性があります。
しかし、サイクリストはランニングを速く走れるわけではありません。
ランニングとサイクリングで使われる筋肉が違うため、ランニングの筋肉が鍛えられていないとランニングで高いパフォーマンスを発揮することが難しいと言えます。
また、自転車とランニングの両方を継続的に鍛えているトライアスロン選手よりも、ランニング専門にしている選手のほうがランニングが速い傾向にあるのが現状です。
ランニングが速くなりたいのなら、ランニングの練習をすることが最も大事になります。
とはいえランナーのクロストレーニングが全く効果がないわけではありません。
ランナーが自転車などのクロストレーニングで強くなったという例は珍しくありません。
マラソンの世界王者だったキプチョゲ選手は、週に2回1時間ほど自転車のトレーニングをしていたという話もあります8。
いずれにしてもランナーのクロストレーニングにはまだまだ知られていない部分があり、そのトレーニングの取り入れ方次第では高い効果を生み出せる可能性はあると思います。
まとめ
ランナーの自転車や水泳などのクロストレーニングは負荷が小さく、怪我のリスクを下げながら心肺機能を鍛えることができます。
クロストレーニングは取り入れ方次第で効果に違いが生まれ、上手に取り入れることでランニングのパフォーマンスが向上する可能性があります。
<参考文献>
- Tanaka H. Effects of cross-training. Transfer of training effects on VO2max between cycling, running and swimming. Sports Med. 1994 Nov;18(5):330-9. doi: 10.2165/00007256-199418050-00005. PMID: 7871294.
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- Prosser LA, Stanley CJ, Norman TL, Park HS, Damiano DL. Comparison of elliptical training, stationary cycling, treadmill walking and overground walking. Electromyographic patterns. Gait Posture. 2011 Feb;33(2):244-50. doi: 10.1016/j.gaitpost.2010.11.013. Epub 2011 Jan 6. PMID: 21215636; PMCID: PMC3299003.
- He MY, Lo HP, Chen WH. Effects of Stationary Bikes and Elliptical Machines on Knee Joint Kinematics during Exercise. Medicina (Kaunas). 2024 Mar 18;60(3):498. doi: 10.3390/medicina60030498. PMID: 38541224; PMCID: PMC10972514.
- https://www.runnersworld.com/uk/training/marathon/a42722004/eliud-kipchoge-training/