ランナーのストレッチ
膝まわり
ランニングでは大腿四頭筋やハムストリングスを酷使するので、ストレッチなどで柔軟性を確保しておくことが役立ちます。
大腿四頭筋はかかとがお尻に付くくらいの可動域を獲得することがポイントです。
ハムストリングスのすとれっちでは足首に手が届くくらいの可動域が目安になります。
さらに太ももの横側にある腸脛靭帯をフォームローラーでほぐすと脚が軽くなりますし、ランナー膝につながるニーインの改善に少し役立ちます。
ランニング時のニーインの原因と改善方法について
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股関節
ランナーは股関節やお尻が硬くなってくると坐骨神経痛などの症状が出てくることがあり、お尻をストレッチでほぐすことで違和感や痛みなどの予防へとつながります。
ストレッチだけではお尻の奥深くをほぐすことが難しいので、テニスボールを使ってお尻の筋肉をほぐすといった方法を組み合わせるとより効果的です。
ただし、坐骨神経痛がひどくなってきた場合には筋肉が硬くなったという原因だけでなく、ランニングによって神経組織が炎症を引き起こしている場合があります。
そういう時にグリグリとお尻のマッサージをしてしまうと炎症が酷くなることがあるので、そういう時には安静に休養を取ることで炎症が収まるのを待った方がいいでしょう。
下腿
ランナーは下腿や足首周りが硬いとランニング時のニーインといったランニングフォームの乱れやシンスプリントなどにつながります。
基本となるのがふくらはぎのストレッチであり、ふくらはぎが伸びるのを感じるのであれば問題ありません。
ふくらはぎのストレッチでふくらはぎの筋肉が伸びているように感じない場合には足首の他の部分が固くなっていて邪魔になっている可能性が考えられます。
足首周りにはストレッチだけではほぐせない筋肉も多いので、マッサージやフォームローラーも組み合わせてほぐした方がいいかと思います。
そして下腿の筋肉はバランスの偏りが起きやすいため、筋力不足になっている部分をしっかりと鍛えておくことも大切です。
足裏
足裏の筋肉は知らず知らずのうちに硬くなりやすく、徐々にランニングフォームの乱れなどへとつながります。
足裏のマッサージをすることでシンスプリントや足部のプロネーション、足底筋膜炎などの改善に役立ちます。
そして足裏の筋肉は主に足の指を動かす筋肉で構成されており、足の指のトレーニングも併せて取り組むと、より大きな効果が見込めます。
肩まわり
ランニングは主に脚や体幹の筋肉が働きますが、肩周りや肩甲骨を整えることで快適なランニングにつながることがあります。
特に肩の前部分をストレッチでほぐすと腕が振りやすくなることがあり、肩甲骨周りをほぐすと手脚の連動性を感じやすくなるかと思います。
腕振りに絶対的な正解があるわけではなく、腕が行きたがっている方向に自然と動けるような状態にしておくことが大事なポイントになります。
ストレッチのタイミング
ウォームアップ
ランニング前のストレッチは主にダイナミックストレッチが適していて、静的ストレッチよりもダイナミックストレッチの方がランニングのパフォーマンスが高まります1・2。
運動前はウォームアップで身体を温めながら、筋肉に多少の緊張感やハリを残しておいた方がパフォーマンスが発揮しやすくなります。
スムーズな動きをイメージしながらリズム良くストレッチをするといいでしょう。
クールダウン
ランニング後のクールダウンのストレッチには静的ストレッチが適しています。
筋肉痛の軽減、リラックス効果、身体のバランスの修正などの効果が期待できます3。
ストレッチには精神的なリラックス効果がある、と言うと気のせいみたいな印象もあるかもしれませんが、精神的疲労はランニングのパフォーマンスに影響を与える可能性がある要素です。
精神的疲労を取り除く目的でのストレッチやマッサージには意味があるかと思います。
ランナーのストレッチに対する議論
一般的にストレッチは様々な効果があり、素晴らしいものであると信じられていますが、その効果を科学的に検証するとストレッチが過大評価されている場合があるというデータが示されます。
ストレッチによるランニングの怪我予防効果は限られていることが報告されており4、柔軟性が高いランナーが怪我をしにくいわけではないという研究結果もあります5。
また、ストレッチに10週間取り組んだ効果を調べた研究ではマラソンのタイム改善の効果がみられなかったことも報告されています6。
このようにストレッチを頑張ったとしてもランニングの怪我予防やパフォーマンス向上の効果には限界があります。
こういった論文は本当なのだろうか?と疑問に思ったので、実際に私自身が1年間ストレッチやマッサージなしで毎月500km近く走ってみたところ、怪我は一度も起きませんでした。
しかし、ストレッチが全く不要であるとは感じられず、たまにストレッチをしていた方が気持ちいいですし、身体のバランスが整いやすいと思います。
ただし、最低限の柔軟性が確保できていないランナーの場合には、ストレッチで柔軟性を確保することは怪我予防やリハビリを行う上でとても大切なことだと思います。
そしてランニングの怪我予防やパフォーマンス向上のさらなる効果を求めるのならば、ストレッチ以外のことにも重点的に取り組むことが大切だと思います。
ランナー膝が治らない場合に考えられる原因
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まとめ
ストレッチで最低限の柔軟性を確保することはランニングの怪我予防に役立ちます。
ランニング前にはダイナミックストレッチでパフォーマンス向上、ランニング後には静的ストレッチで筋肉痛や疲労の軽減が期待できます。
股関節や膝周り、足首などバランス良くほぐすことがポイントで、マッサージなどの他の方法も組み合わせることも役立ちます。
<参考文献>
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- Afonso J, Clemente FM, Nakamura FY, Morouço P, Sarmento H, Inman RA, Ramirez-Campillo R. The Effectiveness of Post-exercise Stretching in Short-Term and Delayed Recovery of Strength, Range of Motion and Delayed Onset Muscle Soreness: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Front Physiol. 2021 May 5;12:677581. doi: 10.3389/fphys.2021.677581. PMID: 34025459; PMCID: PMC8133317.
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