野球肘

ピッチング時の肘の内反トルクが怪我のリスクを高める?

肘内側側副靱帯

ピッチャーの肘の怪我に泣かされる事例はたくさんあり、ピッチング時の肘の内反トルクが怪我のリスクを高めると言われたりしています。しかしながら、この考え方には混乱する部分もありしっかりと理解しきれていない部分もあるのではないかと思います。そこで肘のストレスに対する概念の理解を深めるための解説していきたいと思います。

 

ポイント

  • 肘の内反トルクというのは肘の内側の靭帯を守るために働く力の一部です
  • 肘の内反トルクも肘のストレスを映す鏡のようなものであり怪我のリスクであると考えられています

 

肘の内反トルクとは?

まず肘の内反(Varus Torque)とは何かについて簡潔に説明すると次のようになります。

  • 肘の内反は外側の靭帯に負荷を与えるような力(図の左側)
  • 肘の外反は内側の靭帯に負荷を与えるような力(図の右側)

肘の内反及び外反

参照https://www.slideserve.com/Mia_John/the-elbow-powerpoint-ppt-presentation

ピッチング時においては次のように考えられています

  • Ex方向に働く力が内反トルク
  • Ey方向に働く力が外反トルク

ピッチング時の軸

(And et al 2010より引用)

 

肘の内反トルクの役割

ピッチング時の外反トルクは肘の内側の靭帯に負荷を与えるのですが、その力に対抗・軽減するためには次のような要素があります

  • 肘の内反トルク
  • 筋肉の働き
  • 肘の内側の靭帯など(肘内側側副靱帯)

献体による実験では約30Nmの負荷がかかると肘の靭帯が切れてしまったそうですが、実際の人間には上記のような力が働くのでそれ以上の負荷にも耐えることができると考えられています

 

というわけで、肘の内反トルクというのは肘の内側の靭帯を守るために働く力の一部であり、肘の外反トルクとは反対の性質を持つものと考えられています。

 

肘の内反トルクと怪我の発生率について

肘の内反トルクも怪我のリスクであると考えられています。

肘の外反トルクが怪我の発生率と関係していたという論文はありましたが、内反トルクと怪我の発生率を高めたということを直接立証した論文は今の所は見つかっていません。

しかしながら、内反トルクは外反トルクを映す鏡のようなもので、内反トルクが高いことも肘の怪我のリスクであると考えられています。肘の外反トルクが高くなれば内反トルクもおのずと増えて、怪我に繋がってしまう関係にあると考えられています。

 

肘の内反トルクに影響する要素

肘の内反トルクにはいくつかの要素が影響を及ぼしています。

肘の内反トルクに影響する要素

(Camp et al 2017より引用)

  • 肘の内反トルクへの影響が一番大きいものが球速です。同一ピッチャーが投げるのならば約95%が球速に影響されているという報告があります
  • 肘の内反トルクはピッチングフォームによる影響も受け、リリース時の腕の高さや肩の最大外旋角度などが影響するようです

特に肩の最大外旋角度や腕の角度などは肘の外反トルクと密接な関係があるので、肘の内反トルクを改善することは実質的に外反トルクを改善するようなものかと思います。

ピッチング時の最大外旋位

(Aguinaldo and Chambers 2009より引用)

また、別のピッチャーと比べるのならば腕の長さや重さ、可動域などによっても影響を受ける可能性があります。

 

まとめ

なかなか小難しいテーマになってしまいましたが、理論上は肘の内反トルクは直接の怪我の原因ではありませんが、肘の内反トルクを改善することは実質的に肘の外反トルクによる靭帯への負荷を減らす可能性があります。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Anz AW, Bushnell BD, Griffin LP, Noonan TJ, Torry MR, Hawkins RJ. Correlation of Torque and Elbow Injury in Professional Baseball Pitchers. The American Journal of Sports Medicine. 2010;38(7):1368-1374.

  2. Fleisig GS, Andrews JR, Dillman CJ, Escamilla RF. Kinetics of baseball pitching with implications about injury mechanisms. Am J Sports Med. 1995;23(2):233-239.

  3. Fleisig GS, Phillips R, Shatley A, et al. Kinematics and kinetics of youth baseball pitching with standard and lightweight balls. Sports Eng. 2006;9(3):155.

  4. Slowik JS, Aune KT, Diffendaffer AZ, Cain EL, Dugas JR, Fleisig GS. Fastball Velocity and Elbow-Varus Torque in Professional Baseball Pitchers. J Athl Train. 2019;54(3):296-301.

  5. Camp CL, Tubbs TG, Fleisig GS, et al. The Relationship of Throwing Arm Mechanics and Elbow Varus Torque: Within-Subject Variation for Professional Baseball Pitchers Across 82,000 Throws. The American Journal of Sports Medicine. 2017;45(13):3030-3035.

  6. Aguinaldo AL, Chambers H. Correlation of Throwing Mechanics With Elbow Valgus Load in Adult Baseball Pitchers. The American Journal of Sports Medicine. 2009;37(10):2043-2048.

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