肩の怪我のメカニズム

肩甲骨の機能不全が怪我を引き起こす?

肩の怪我に肩甲骨の働きが密接に関わっており、肩甲骨に対するアプローチが広く行われていることかと思います。そこで肩甲骨の機能不全がどのように肩の怪我に関わっているのか、ざっくりと概要をまとめてみたいと思います。

 

肩甲骨の主な評価方法

一般的なスポーツ選手に比べて肩を使う競技の選手は肩甲骨の動きに異常が出やすい傾向にあるようです

肩甲骨の機能を評価する方法はたくさんあるかと思いますが、代表的なものを挙げさせていただきたいと思います

 

肩甲骨運動異常(Scapular Dyskinesis)

(Kibler and Sciascia 2019より引用)

肩甲骨の状態を目視で評価するものでKibler氏が提唱したものが有名なようです3・4

  • 肩を怪我している人の多くが肩甲骨の動きに異常が生じています
  • 評価方法が細かく、白黒はっきりつけ難い部分もあり、評価者によってバラつきが生まれてしまうことも珍しくないようです3〜5
  • 肩甲骨の動きなどから肩の怪我を持っている人を見抜けるかどうか理学療法士にテストしてみたところ約58%の正答率だったようです。少し意地悪な研究内容だなと感じてしまいますが。

便利な評価方法ですが目視による評価の限界も理解した上で、他のものと組み合わせて判断していくのが賢明かもしれません。

 

肩甲骨の補助テスト(Corrective Maneuvers)

肩甲骨の運動異常に加えて、次の二つの方法が代表的なものとされているようです

他にもたくさんの評価方法があるので現場ではそういったものを組み合わせていくということを念のため付け加えさせていただきます。

 

Scapular Retraction Test

第三者が肩甲骨を支えることで筋力発揮が改善されたら、肩甲骨の機能改善を図ったほうがいいと考えるものです。

(Kibler et al 2006より引用)

肩甲骨の安定性の評価 Scapular Retraction Test

 

Scapular Assistant Test

肩甲骨の動きをアシストするもので、これによって痛みが減少したら肩甲骨の働きが関係していると考えるものです。

(Rabin et al 2006より引用)

 

肩甲骨の運動異常と怪我のリスク

肩甲骨の機能は肩の怪我のリスクを多少なりとも高める可能性があるようです。

肩の痛み

  • 肩甲骨の運動異常は将来の肩の怪我のリスクを43%増加させる
  • 2年間の追跡調査を行ったところ怪我をした人たちは肩甲骨の上方回旋が減少している傾向があり、それ以外に決定的な特徴はみられなかった
  • 肩甲骨の運動異常を持っているグループは怪我の発生率がわずかしか上がらなかった

研究によって定義が違っていたりするので単純に比較はできないんですけれども、肩甲骨が怪我のリスクに関係しているかもしれません。

 

肩甲骨の異常が肩の負荷を高める理由

腕の動きは肩関節だけでなく肩甲骨などの動きが組み合わさっているのですが、肩甲骨の動きが小さいと他の関節の働きで補わなければならず、これによって負荷が大きくなる可能性があります。

  • 例えば肩甲骨が内旋していると投球時の肘の負荷が増える傾向にあるというような研究結果があります10

投球動作

 

また、肩甲骨の働き次第ではインナーマッスルなどの周辺の筋肉の働きが弱くなってしまう可能性があります。

さらには肩甲骨の状態次第では肩関節のスペースを狭め、肩関節を圧迫してしまう可能性があります。

肩のスペースとインピンジメント

 

このようにクリニックの中で肩甲骨の働きを調べた研究はたくさんありますが、実際のスポーツの中で肩甲骨がどのように働いているのか?を評価した研究というのは意外と少ないのが現状かと思います。

というのも肩甲骨の動きは意外と複雑であり、モーションキャプチャーなどの設備を使っても肩甲骨の動きを捉えにくいという技術的な問題があります。

モーションキャプチャーによる投球動作解析

その一方で肩甲骨のエクササイズに取り組むことで腕が振りやすくなったりと身体にいい影響を与えることが多いことから、肩甲骨の働きが強く関係していると考えることは自然なことかと思います。

 

肩甲骨の働きと怪我の関係性

肩甲骨の機能不全が怪我のリスクを高める可能性がありますが、肩甲骨の機能不全が必ずしも肩の怪我と関係しているわけではありません

肩甲骨

  • 肩の怪我をしている人の半数近くが肩甲骨の働きに異常はみられなかった
  • 肩甲骨の機能不全を抱えていた人で肩の怪我をしたのは約25%であった
  • スポーツに取り組むことで利き腕の状態が変化するため、肩甲骨に多少の左右差が生じるのは自然なことのようです11

あくまで肩甲骨はひとつの要素であり2・12、多角的にみていくことが大事なのかもしれません。

 

肩甲骨に対する考察

ここまで肩甲骨に対する様々な研究を紹介してきましたが、肩甲骨に対する大きな問題のひとつが精度の高い評価方法が少ないということです。

肩甲骨の可動範囲が他の関節と違い特殊な動きをするため客観的な数値に換算しにくく、他の関節に比べて肩甲骨は研究や論文の数が少ないという弱点があります。

このため肩甲骨に対する評価やアプローチの効果も悪くなってしまいます。

 

まとめ

肩を怪我した人に肩甲骨の機能不全がみられること、怪我の発生率を少し高めること、肩甲骨のエクササイズが怪我予防やパフォーマンスアップにつながることから肩甲骨が肩の怪我に密接に関わっているかと思います。

しかし肩甲骨のメカニズムについてわからないこともまだまだ多くあります。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Burn MB, McCulloch PC, Lintner DM, Liberman SR, Harris JD. Prevalence of Scapular Dyskinesis in Overhead and Nonoverhead Athletes: A Systematic Review. Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2016;4(2):2325967115627608.
  2. Kibler WB, Sciascia A. Evaluation and Management of Scapular Dyskinesis in Overhead Athletes. Curr Rev Musculoskelet Med. 2019;12(4):515-526.
  3. Kibler WB, Uhl TL, Maddux JW q, Brooks PV, Zeller B, McMullen J. Qualitative clinical evaluation of scapular dysfunction: a reliability study. J Shoulder Elbow Surg. 2002;11(6):550-556.
  4. Deng S, Chen K, Ma Y, Chen J, Huang M. The Influence of Test Positions on Clinical Assessment for Scapular Dyskinesis. PM&R. 2017;9(8):761-766.
  5. Lange T, Struyf F, Schmitt J, Lützner J, Kopkow C. The reliability of physical examination tests for the clinical assessment of scapular dyskinesis in subjects with shoulder complaints: A systematic review. Phys Ther Sport. 2017;26:64-89.
  6. Hickey BW, Milosavljevic S, Bell ML, Milburn PD. Accuracy and reliability of observational motion analysis in identifying shoulder symptoms. Man Ther. 2007;12(3):263-270.
  7. Hickey D, Solvig V, Cavalheri V, Harrold M, Mckenna L. Scapular dyskinesis increases the risk of future shoulder pain by 43% in asymptomatic athletes: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2018;52(2):102-110.
  8. Struyf F, Nijs J, Meeus M, et al. Does Scapular Positioning Predict Shoulder Pain in Recreational Overhead Athletes? Int J Sports Med. 2014;35(01):75-82.
  9. Hogan C, Corbett J-A, Ashton S, Perraton L, Frame R, Dakic J. Scapular Dyskinesis Is Not an Isolated Risk Factor for Shoulder Injury in Athletes: A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Sports Med. Published online November 19, 2020:0363546520968508.
  10. Itami Y, Mihata T, McGarry MH, et al. Effect of Increased Scapular Internal Rotation on Glenohumeral External Rotation and Elbow Valgus Load in the Late Cocking Phase of Throwing Motion. Am J Sports Med. 2018;46(13):3182-3188.
  11. Oyama S, Myers JB, Wassinger CA, Daniel Ricci R, Lephart SM. Asymmetric Resting Scapular Posture in Healthy Overhead Athletes. J Athl Train. 2008;43(6):565-570.
  12. Kekelekis A, Nikolaidis PT, Moore IS, Rosemann T, Knechtle B. Risk Factors for Upper Limb Injury in Tennis Players: A Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(8).
  13. Kibler WB, Sciascia A, Dome D. Evaluation of Apparent and Absolute Supraspinatus Strength in Patients with Shoulder Injury Using the Scapular Retraction Test. Am J Sports Med. 2006;34(10):1643-1647.
  14. Rabin A, Irrgang JJ, Fitzgerald GK, Eubanks A. The intertester reliability of the Scapular Assistance Test. J Orthop Sports Phys Ther. 2006;36(9):653-660.

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