適度な運動が変形性膝関節症に効果的であるということが言われており、定期的な運動の習慣は怪我を予防する上でも大切なことであるかと思います。何も運動をしないことや激しすぎる運動は身体にとって好ましくないと言えるかもしれません。今回は変形性膝関節症とランニングの関係性と、そのメカニズムについて解説させていただきたいと思います。
ポイント
- 定期的に運動をしている人のほうが軟骨の状態が良い傾向にあったそうです
- 適度な運動は変形性膝関節症の発生率を下げる可能性があるようです
- 過激な運動は逆効果になってしまう可能性があります
Contents
短期的なランニングの軟骨への影響について
ランニングした後には短期的に軟骨の量が減るようです。
(Bratke et al 2020より引用)
- 75分のランニングの前後にMRIで軟骨の量を計測したところ、上の図のようにランニング後には膝の軟骨の量が少し減っていたそうです1。
- 他の研究においては約5キロの距離を走った時と約16キロの距離を走った時では、約16キロの距離を走っている時のほうが膝の軟骨の量が減少していたようです2。つまり、長い距離を走るほど軟骨の量に与える影響が大きくなる可能性があります。
これらの研究はランニング直後の短時間における軟骨の量の変化を調べたものであり、これだけではランニングによる軟骨への長期的な影響はわかりません。
長期的には軟骨も刺激に適応していく?
長期的にみれば軟骨も刺激に適応して、わずかながら改善していく可能性もあるようです。
(Tiderius et al 2004より引用)
- 運動量が軟骨にどのような影響を及ぼすのかを調べた研究があります。運動をしていない人、週に2回運動をしている人、エリートランナーの軟骨を比べたのですが、より多く運動をしている人のほうが軟骨の状態が良い傾向にあったそうです3。
- 半月板の手術をした人達を対象にエクササイズによる軟骨の変化を調べた研究があります。これによると週に3回のエクササイズを4ヶ月続けたところ、何もしなかった場合に比べて軟骨の状態が改善されたそうです4。
このように適度な運動をすることで軟骨に刺激を与えられ、軟骨の機能が少しずつではあるものの徐々に改善されていく可能性があることを示しています。
ちなみに、MRIを用いた軟骨の評価には色々な方法があり、それぞれ測定しているものに違いがあるので研究結果の解釈には注意が必要となります。
ランニングをしている人の変形性膝関節症の発症率
適度な運動をしていることで変形性膝関節症を防げる可能性があります。
- ある研究では変形性膝関節症を持っている人達を2年間追跡した研究でランニングをしている人とそうでない人を比べており、ランニングをしている人達の症状が悪化しているわけではないということが報告されています5。あくまで悪化していないであり、回復したというわけでもないようです。
- 別の研究ではランニングをしている人の変形性膝関節症の発生率が低いということが報告されています6。
- 色々な研究結果をまとめた論文によると、運動していない人達や競技としてランニングに取り組んでいる人達よりも、趣味としてランニングを楽しんでいる人達の変形性膝関節症の発症率が低かったそうです7。
このようなことから適度なランニングや運動は変形性膝関節症の発症率を下げる可能性があり、特に変形性膝関節症の予防に効果があるのではないかと思います。
しかし、膝の軟骨の回復能力はかなり限られています。すでに起きた怪我がそう簡単に回復するわけではないですし、走り過ぎなどの大きすぎる負荷は軟骨のダメージへとつながっていく可能性があることも示しているかと思います。
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軟骨の構造と変形性膝関節症のリスクについて
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ランニングフォームによる軟骨への影響
ランニングフォーム次第では軟骨へ負荷がかかりやすいものもあります。
- ランナーの軟骨への負荷を有限要素法にて分析した研究があり、これによると膝の痛みを抱えているランナーは痛みのないランナーと比べて膝の軟骨により大きな負荷がかかっているようです8。これには色々な要素が影響していますが、興味深い点としては膝の外旋の角度などの影響を受けるということです。
- 他の研究においても同様に膝がO脚のようになることで軟骨への負荷が変わることが報告されています9。
(Trad et al 2017より引用)
O脚気味である場合にはランニングフォームの改善に取り組むことで、軟骨への負荷を減らせる可能性があるかと思います。
まとめ
これらを踏まえると適度なランニングは軟骨にいい刺激を与え、変形膝関節症の発症を減らすことができる可能性がありますが、走る量やランニング時の膝の角度などのランニングフォームによっては負荷が大きくなるかもしれないことに注意が必要かと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
<参考文献>
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Bratke G, Bruggemann G-P, Willwacher S, et al. Does footwear affect articular cartilage volume change after a prolonged run? Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2020;30(2):332-338.
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Heckelman LN, Smith WAR, Riofrio AD, et al. Quantifying the biochemical state of knee cartilage in response to running using T1rho magnetic resonance imaging. Scientific Reports. 2020;10(1):1.
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Tiderius CJ, Svensson J, Leander P, Ola T, Dahlberg L. dGEMRIC (delayed gadolinium-enhanced MRI of cartilage) indicates adaptive capacity of human knee cartilage. Magn Reson Med. 2004;51(2):286-290.
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Roos EM, Dahlberg L. Positive effects of moderate exercise on glycosaminoglycan content in knee cartilage: a four-month, randomized, controlled trial in patients at risk of osteoarthritis. Arthritis Rheum. 2005;52(11):3507-3514.
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Lo GH, Musa SM, Driban JB, et al. Running does not increase symptoms or structural progression in people with knee osteoarthritis: data from the osteoarthritis initiative. Clin Rheumatol. 2018;37(9):2497-2504.
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Lo GH, Driban JB, Kriska AM, et al. Is There an Association Between a History of Running and Symptomatic Knee Osteoarthritis? A Cross-Sectional Study From the Osteoarthritis Initiative. Arthritis Care & Research. 2017;69(2):183-191.
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Alentorn-Geli E, Samuelsson K, Musahl V, Green CL, Bhandari M, Karlsson J. The Association of Recreational and Competitive Running With Hip and Knee Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-analysis. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. May 2017.
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Liao T-C, Keyak JH, Powers CM. Runners With Patellofemoral Pain Exhibit Greater Peak Patella Cartilage Stress Compared With Pain-Free Runners. Journal of Applied Biomechanics. 2018;34(4):298-305.
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Trad Z, Barkaoui A, Chafra M. A Three Dimensional Finite Element Analysis of Mechanical Stresses in the Human Knee Joint: Problem of Cartilage Destruction. Journal of Biomimetics, Biomaterials and Biomedical Engineering.